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【シニア】
第30回 立ち止まって判断すること、そしてあらためて選ぶこと

2018年09月11日 岡元真希子


 新卒で入社してしばらくは、リクルートスーツの延長線上のスーツを着ていた。その後、上下揃いのスーツではなく、ジャケット・ブラウス・スカートを組み合わせたりするようになった。そしてここ数年はほぼ毎日ワンピースにすることによって、上下の組み合わせを考えることから開放された。その日の天気と歩く距離、会う相手を考えてまず靴を選ぶ。靴に合わせてワンピースを選び、その上に白または紺のジャケットを羽織る。毎朝悩む時間が減って、とても楽になった。

 20代の頃は、雑誌を見たり、いろいろなブランドを試したりしていた。失敗もあったし、新しく似合う服を発見できたこともあった。ベトナムで買った麻のブラウス、フランスで買ったボウタイブラウスなど、奇抜な服も持っていた。しかし、今はかなりワンパターンになっていて、似たようなテイストの無難な服ばかりになっている。都合よく解釈すると、自分のスタイルを確立し、一つの「正解」が見つかったといえるのかもしれない。しかし一方で、情報収集を放棄し、変化に疎く、チャレンジ精神を喪失した状態ともいえる。

 そんなところに、ある日、社外の勉強会に参加した写真がメール添付で送られてきた。講師の話を聞いている自分の後姿が写っている写真だ。ヘビーローテーションのワンピースの上に白いジャケット姿で無造作に座った自分の背中の丸みは、まるで老女のようで、自分の姿とは思えなかった。鏡に映した自分の姿とはまったく違う。日頃他人に見られている自然体の私はこれが現実か、と強い衝撃を受けた。このままではいけない、と思ったものの、何からどうしてよいか分からなかった。

 これと同じように、「自分はこんなはずじゃない」という状況は高齢者にも起こる。介護保険事業計画の策定に先立って、2016~17年に自治体が高齢住民を対象に実施した調査のなかに「あなたは現在どの程度幸せですか」(「とても不幸」を0点、「とても幸せ」を10点として選択)という設問がある。公表されている報告書によると、70代全体、あるいは70代後半で、幸福度の平均点数が低下するが、80代以降では、点数が上がる。加齢した自分に向き合って、現実を受け止めた80代の高齢者は、加齢による状態変化の最中にある70代の高齢者よりも幸福度は高いのかもしれない。

 50代、60代のときに自分に合っていると感じていた服装、生活リズム、食生活、運動習慣などが、体調の変化に伴って合わなくなる。このようなズレは単調に増加するとは限らず、波がある。気候が良い季節に、体調も良く、趣味や交流を楽しんでいれば、50代の時のやり方でうまくいくかもしれない。一方、暑さ寒さがこたえるようになって、外出が億劫になり、風邪をひいたら寝込んでしまってなかなか回復しないときには、それ以前のやり方と現在の心身の状態が大きくずれてしまう。こうしたときの対応策としては、例えば、習慣にしていた運動をより負荷の低いものに変えたり、食事を変えたりするといった方法が考えられる。しかし多くの場合、徐々に拡大するズレに気づくことなく、従来のやり方のまま続けようとして「なんとなくうまくいかない」という状態に陥りがちである。それが前述の、70代で幸福度がいったん低下するという調査結果とも一致するように思われる。

 私の場合は、幸か不幸か、自分の後姿の写真を見せつけられることによって、老女のような背中に気づくことができた。その対策として、服装と運動という二面から取り組むことにした。服装を変えるため、これまでもっと年上の女性向けだと思っていた雑誌をめくると腑に落ちることがたくさん書いてある。運動については体操を始めるとともに、会社の机の昇降機能を活用して、座ってばかりいないで立って仕事をする時間を増やすようにした。まだ実感できるほどの成果は出ていないが、少なくともやり方を変えているという手ごたえと期待がある。

 介護予防ゾーンの高齢者を、当社の造語で「ギャップシニア」を名づけている。加齢によってできることが減ってきて「やりたいこととできることのギャップ」が生じることに着目したのが命名のきっかけだが、自分自身が思い込んでいる自己像が若い頃のままで止まっていて、現実の自分の状態とズレが生じている「ギャップ」でもある。過去のやり方を漫然と続けていて、そのやり方が現在の自分には合っていないことに気づかず「なんとなくうまくいかない」と不満を募らせるのではなく、立ち止まって現実に対峙し、新しいやり方を試行錯誤して選び取っていくことが重要なのだろう。


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※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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