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【次世代交通】
地域社会の「新しい足」 自動運転移動サービスの創出 No.3 低速モビリティの自動走行による近距離圏内移動サービスを実証し確かなニーズを検証

2017年07月25日 武藤一浩


■低速モビリティの自動走行による近距離圏内移動サービスへの期待
 前号(ISSUE 347 2017/06/13(火)発行)では、低速モビリティの自動走行サービス実証に参画した地元交通事業者などからのヒアリング結果をご紹介しました。
 交通事業者側では、近距離圏内移動へのニーズが近年特に強まっていると考えていたとのことで、今回のサービス実証によってそれが裏付けられたことが収穫だったようです。今後は、タクシーでは採算の合いにくい近距離圏内移動サービスを、運転手の人件費がかからない自動運転で実現させるためのサービスモデルや、自動運転車両を用いた観光地におけるレンタカーの貸出・返却手続き等について、検討を進めていきたいとの意向も示されました。
 今号では、サービス実証の利用者の方々を対象に行った、アンケート結果の一部をご紹介します。


■利用者アンケート
【利用者アンケート概要】
対象: サービス実証の利用登録者 108名
期間: 平成28年12月
方法: 質問票を配布、回収
回収数: 68名(回収率約63%)

0725_利用者アンケート図

【アンケート結果】
●外出促進への期待とサービス料金の支払い意向あり
 サービス実証終了後のアンケートでは、半数以上の利用者が「外出が増えると思う」と回答しています。また、「お金を支払ってでも利用する」と回答した利用者は9割を超えました(無回答除く)。頻繁な利用が予想される層である「定額」払いの希望者は半数程度存在するなど、今回検証したサービスモデルに確かなニーズがあることを確認できました。

●具体的なニーズは「買い物などの荷物」や「数年後の日常生活の足」
 利用意向としては、「スーパーなどの帰りに荷物が重く、坂を上がる時がきついときに利用したい」という声が目立ちました。丘陵地という条件もあるためか、普段の生活においては、牛乳一本、卵一箱買うことも荷物が重くなることを考え、ためらうことがあるという声も聞かれるなど、日常の買い物での利用ニーズは多く存在することが分かりました。
 また、特徴的だったのは、今すぐはあまり利用しないものの、数年後の自らの身体の衰えを想定し、今のうちから導入を目指して欲しいという声が多かったことです。近距離圏内移動サービスが、「杖代わり」としての役割を期待されていることも分かりました。

●デマンド走行より手軽な定ルート走行が人気
 自宅前までの送迎が可能となるデマンド走行の「つくつく」の利用が約50件であった一方、手軽に乗車できる定ルート走行の「つくし環状線」の利用は約200件に上り、人気が集まりました。これは、近所の生活圏であれば、わざわざ呼び出す手間をかけるよりも、来る時間とルートが分かっているモビリティに手軽に乗れる方がニーズが高いことを示しています。

●知り合いに勧めたくなるサービスとして受け入れられる
 つくし環状線およびつくつくのいずれの利用者においても7割が他人にも利用を勧めたと回答しており、周囲の人々にも紹介する価値があることが認められた結果となりました。
 ところで、サービス実証期間中、車両位置確認用タブレットがスーパーや介護施設、喫茶店、理髪店などに次々と設置されていきましたが、それは利用者の方々が自主的に自らの行き先となった店舗に設置を呼びかけて拡がった結果です。このことも、地域住民に受け入れられていたことを示すものと考えています。

●走り回るモビリティの姿に「防犯」への期待
問:つくし環状線やつくつくが地域の中を走り回る姿を見てどう感じたかについて、該当する選択肢を全てお答えください。

0725_利用者アンケート図

 地域の自治会の主な役割の一つとして「防犯」が挙げられますが、地域を走り回る車両は防犯の役割も期待されていることが分かりました。それぞれのモビリティには、事故などが起こった際の確認ができる社内外を録画するドライブレコーダーや、車内安全をタイムリーに確認できるカメラを設置しており、走り回るだけでなく、映像として履歴を残せることも地域防犯につながると考えられた模様です。

■地域コミュニティをサポートするモビリティサービスとして
 今回のサービス実証では、日常生活において、近距離圏内移動サービスへのニーズが確かに存在することが明らかになりました。また、移動サービス以外の付加価値としてカメラを搭載した車両による防犯効果なども評価されました。こうした地域コミュニティの活動の一部を補完する機能は、従前の移動サービスではあまり考えてこられなかったものです。住民と街に活力をもたらし、地域コミュニティづくりに役立つインフラとして、この近距離圏内移動サービスは成長させていけるものと考えています。次号では、この移動サービスの早期実現に向けた道筋について提言させていただければと思います。

『LIGARE(リガーレ) vol.32』(自動車新聞社出版)地域社会の「新しい足」自動走行移動サービスの創出(中編)P40~45を一部改変して転載

この連載のバックナンバーはこちらよりご覧いただけます。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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