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中国のモビリティサービス産業の急成長

2017年05月09日 程塚正史


 今年も上海モーターショーが盛り上がりを見せている。中国現地の自動車メーカー、いわゆる民族系企業がデザイン性を高め、特にSUVカテゴリでは低価格で良質な製品を出展していると言われている。上海汽車や北京汽車のような国有大手だけでなく、長城汽車のような民営企業が近年シェアを拡大させているのは事実である。

 このような民族系企業の勢いが報じられる一方で、現時点でも中国の自動車市場では日米欧などの海外勢がシェアの過半を占めており、この状況が短期間で急変するとは考えにくい。世界のトップメーカーには、蓄積している技術もノウハウもブランド力もあるからだ。

 他方、ガソリン車ではなく、EV/PHEV市場では民族系の存在感が圧倒的だ。中国のEV産業は国策として育成されていることもあり、EV/PHEVの年間販売ランキングでは民族系メーカーの製品が上位を占める。その勢いはガソリン車市場の比ではなく、ここ数年は毎年数倍ずつ市場を拡大させている。日本総研の試算では、2020年には、世界で走行しているEVの半分以上が中国にあると予想される。

 中国のEV/PHEV市場の特徴の一つは、小型車両が多いことだ。2015年に中国で販売されているEV等のうち、53%がA0クラスまたはA00クラスとなっている。A00クラスというのは、軸距離2,450mm以下、全長4,000mm以下の車両で、日本の道路運送車両法上の軽乗用車に分類されるものも含まれる。具体的には例えば、北京汽車のEV160、知豆のD1という車種が挙げられる。その航続距離の短さと相まって、日米欧とは異なるEV市場を形成しつつある。

 ところで世界的に、自動車産業ではモノからサービスへの流れが加速している。この背景には車両のコネクティッド化や自動運転技術の進化といった技術起点の変化があり、シェアリングという社会ニーズの高まりがある。この動きは、当然中国でも起きつつある。

 これまでの中国の自動車市場は、日米欧に「追いつき追い越せ」であった。中国メーカーの方々と実際に話していても、たしかに現在でもそのような認識は根強い。一方、国策とはいえEVが台数規模で急拡大していたり、上記のようにその内訳が日米欧と異なり小型車両が多くを占めたりしているように、中国ならではの市場を形成しつつある。

 中国は新しいモビリティサービスを試しやすい場所だ。日米欧では既存の自家所有向けガソリン車市場とのカニバリゼーションに配慮せざるを得ない。一方、自家用車普及率の低い中国では新市場の開拓と位置づけることができる。また都市部では、アジア諸都市に共通の深刻な渋滞や運輸部門による大気汚染があり、車両の新しい利用形態への期待感は大きい。さらに政府方針の徹底度は日米欧の比ではなく、政府が舵を切れば実際にサービスが実装される可能性は高い。

 2017年現在、世界の自動車メーカー大手は、今後モビリティサービスが変化するという認識は共通に持ちつつも、どのようなサービスになるべきかについては暗中模索の段階だ。独特のEV市場を形成しつつある中国で、次世代のモビリティ産業の萌芽が育つ可能性は、十分にあるのではないだろうか。

 上海モーターショーには、GEELY(吉利汽車)の子会社Lynk&Coの車両が出展されている。この車両は、シェアリング利用を前提にした製品となっている。例えば、利用者が車両に「ログイン」することでソフトウェアを自分好みにカスタマイズしたり、シェア利用が可能な時間帯を設定したりすることができる。車両の利用形態の変化という川下側の動きに基づいて車両開発が行われていることの一例といえる。

 このような動きは、今後ますます増えてくるだろう。中国の自動車産業は日米欧の「真似っ子」だから、と高を括っていると、新たな動きを見逃すことになる。2020年ごろには、モビリティサービス産業において、中国市場を見習えという動きが出てくるだろう。その構図が現実化する前に、むしろ中国の新市場を共に創っていくという動きが、日米欧の関連事業者に必要なのではないだろうか。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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