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生活困窮者支援事例の活用・促進のための調査研究事業

2016年05月23日 齊木大


*本事業は、平成27年度生活困窮者就労準備支援事業費等補助金(社会福祉推進事業分)(厚生労働省補助事業)として実施したものです。

事業の目的
生活困窮者自立支援制度が平成27年4月から施行され、全国の福祉事務所設置自治体で相談事業等が行われている。モデル事業実施自治体など、先行的に経験が蓄積している自治体を除き、多くの自治体では手探りの状況にあると考えられる。このため、本調査研究事業では、自立相談支援事業の相談援助の場面において役立つように以下の2点を実施した。
第一は、先行実施しているモデル事業実施自治体から帳票を収集し、閲覧可能なデータベースを構築するための、支援事例の整理収集である。収集した事例については、「自立相談支援機関入力・集計支援ツール」へのアクセス権限を有する自治体職員や自立相談支援機関の相談員が閲覧できる形でアップロードされる予定である。これらの事例(帳票記入例)を参照することで、主訴や課題・背景要因を簡潔で明瞭な文章で表現する工夫、アセスメントの視点、複数の機関の協働の仕方などに関する示唆を提供できればと考えている。さらには、これらの支援事例を研修の材料として活用することも視野に入れて、内容のバランスに配慮して選定した。
第二は、相談員ハンドブック(Q&A集)の編集である。例えば「掲載されている支援事例では任意事業を実施しているが、うちの地域にはこの事業はない」「個人情報の壁があって、うまく情報共有ができない」「支援調整会議がうまく進められない」といったような、個別の事例からは答えきれない課題も多数あることを踏まえて、支援事例とは別にハンドブックを作成した。
支援事例データベースと、相談員ハンドブック(Q&A集)を合わせて参考にしていただくことで、自立相談支援事業の日々の業務の一助にすることを目的としている。

主たる事業内容
1.支援事例データベースのための事例の収集・選定
自立相談支援事業のモデル事業実施自治体254自治体を対象に、各自治体1ケースの提供を依頼した。平成27年11月~12月に、170件(うち無効25件)の提出があった。このなかで、基本情報、インテーク・アセスメントシート、支援経過記録シート、プラン兼事業等利用申込書、評価シートの全てが揃っているものを対象とした選定を行い、「課題のまとめと支援の方向性」が、事例の実態を踏まえてある程度的確に記載されているものを中心に、課題の内容のバランスなどに配慮して、36事例に絞り込んだ。検討会の場で課題と背景要因の記述のあり方等について議論を行い、必要に応じて表現を分かりやすくした。また、個別の事例を特定しづらくするため、個人名・地名などの固有名詞、さらには自治体固有の部署名や独自融資の名称などのマスキングを実施した。

2.相談員ハンドブック(Q&A集)
生活困窮者自立支援事業の現場の相談員の悩みや疑問への答えのヒントとしてハンドブックを編集した。具体的には、ハンドブック編集委員ならびにオブザーバーである厚生労働省が、現場で耳にする悩みや研修の場で受ける質問をリストアップした。
初回でリストアップされた質問等は101項目に上る。このうち、類似する内容を統合したり、すでに国の指針等で回答が示されているものを除外したりするなどして、最終的に25項目に整理した。それぞれの設問について、主担当者・副担当者を割り当てて分担執筆した。編集委員会の場では全員で、分担執筆にあたっての視点の共有を行った。また、執筆原稿案について、委員相互でチェックするとともに、掲載すべき参考文献についての提案を出し合い、Q&A集としてとりまとめた。

3.委員会・ワーキンググループの設置・運営
相談援助の経験が豊かな現場の相談員や有識者から構成するワーキンググループを組織し、全6回の検討会を開催して議論した。具体的には、支援事例とハンドブックのそれぞれについて以下のような検討を行った。
(1) 支援事例データベース
 各自治体への支援事例の提供依頼の基準や提供件数について
 データベースに掲載する支援事例の選定の基準について
 データベースに掲載するにあたっての個人情報保護の観点からのマスキングについて
 読み手に配慮した帳票の推敲について
(2) 相談員ハンドブック(Q&A集)
 現場で耳にする悩みや研修の場で受ける質問の洗い出し
 ハンドブックに掲載する質問の絞り込み・類似する質問の統合
 分担執筆にあたっての視点の共有
 原稿案の相互チェックと意見共有

事業結果
1.支援事例データベースのための事例の収集・選定
(1) 相談支援員に対するアセスメントの難しさの支援が必要
本調査研究事業における選定作業では、様式に必要な情報が十分に記載され、その事例の概要が把握できることをスクリーニング条件とした。標準様式のうち、家族や家計に関わる情報および職歴に関する情報については必ずしも十分に記載されていない事例も多く見られた。これらの項目については、検討会にて、相談支援員がアセスメント段階で把握しにくい(相談者に聞き取りにくい)項目であるとの意見もあった。一方で、家族や家計、職歴に関する情報は、その事例の課題の分析を行う上では重要な情報となる場合が多いことから、こうした情報を相談支援員が聞き取ることが難しいと捉えている状況に対する支援が必要と考えられる。

(2) 課題の分析と支援の方向性の検討の支援
アセスメントシートの中でも、「課題のまとめと支援の方向性」については、相談支援員が自らの視点に基づいて課題を分析し、その解決に向けた支援の方向性を記載する欄となっている。しかし、中には事実関係を記載するに留まる事例もあり、相談支援員がその事例の課題の分析に踏み込みきれていないことや、課題を分析したとしても支援の方向性を導き出すことに難しさを持っている可能性があると見られる。こうした分析を深めていくには、相談支援員が一人で考えるだけでなく、他の相談支援員からの助言を得たり、スーパービジョンの機会を得たりすることが必要となることから、相談支援員どうしのネットワークを構築し、そうした支援の機会を得られるようにすることも必要であると考えられる。

2.相談員ハンドブック(Q&A集)
25項目のQ&Aとして、以下のような項目を取り上げた。
Q1 行政の関係各課との連携について
Q2 概要を把握しないままの紹介について
Q3 任意事業の実施機関との連携について
Q4 支援の調整や実施にあたっての他機関との連携について
Q5 企業開拓の方法について
Q6 個人情報保護に配慮した上での連携について
Q7 未実施の任意事業が必要だと感じている場合の自治体への働きかけの方法について
Q8 アウトリーチについて
Q9 多様な課題に直面した方が相談に来た時の対応について
Q10 相談者の家計の状況について聞くときの方法について
Q11 相談者本人だけでなく、家族にも支援が必要な場合の方法について
Q12 支援調整会議をうまく進行するための工夫について
Q13 「見守り」の場合の役割分担や方法について
Q14 支援の「終結」の判断のタイミングについて
Q15 ひきこもり状態の住民へのアプローチのきっかけの作り方や接し方の工夫について
Q16 本人が支援の必要性を感じていない場合や、同意が得られない場合の対応について
Q17 当座のお金だけ貸してほしいという相談への対応について
Q18 地域住民が本人を排除しようとする傾向が強い場合の対応について
Q19 発達障害の疑いがあるが診断をまだ受けていない相談者を受診・検査につなげる方法
Q20 精神疾患がある相談者に提案する場合の対応について
Q21 外国籍の方からの相談への対応の際の心構えや工夫について
Q22 「地域づくり」について
Q23 相談支援員の研修を効果的に実施するための方法や工夫について
Q24 相談支援員の心理的な負担に対するケアについて
Q25 業務量が増える一方で人員が不足しているときの考え方

※詳細につきましては、下記の報告書本文をご参照ください。
平成27年度社会福祉推進事業_生活困窮者支援事例の活用・促進のための調査研究事業報告書.pdf
報告書ダウンロード
平成27年度社会福祉推進事業_生活困窮者自立支援事業相談員ハンドブック(Q&A集).pdf
ハンドブックはB5版です。
ハンドブックダウンロード

本件に関するお問い合わせ
創発戦略センター シニアマネジャー 齊木 大
TEL: 03-6833-5204   E-mail: saiki.dai@jri.co.jp
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