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【次世代交通】
第8回 高齢者フレンドリーなITインターフェース

2016年04月26日 劉磊


 世界全体を眺望すると、交通に関するシェアリングサービス市場は急拡大している。市場規模は年30%の成長率を維持し、2020年には2兆円に達すると予想されている(ローランド・ベルガー社「SHARED MOBILITY」)。市場拡大の背景には、既存の交通サービスでは応えられないニーズが掘り起こされたなどの需要側の要因と、車両、駐車場などの稼働率向上といった提供側の要因があるが、スマートデバイス(スマートフォン、タブレット型端末)の普及、決済システム技術、マッチングアルゴリズムの進化およびICTインフラの高速化などの技術的進歩が、それらの底流には存在している。

 本シリーズではこれまでシェアリングエコノミーの視点から、ライドシェアの日本での展開の可能性、住民主導による新しい地域交通のあり方、カーシェアリングの現状分析および新しい地域の足になる可能性となり得る超小型モビリティに関する提言を行ってきた。これらの新しい地域交通ソリューションの恩恵に一番期待を寄せているのは「移動不便者」に違いない。特に地方部で増加している「移動不便者」だが、その多くは高齢者である。公共交通の衰退に加えて、自動車の運転ができなくなり、日常の足を失いつつある状況だ。利用者(高齢者)と新しい地域交通ソリューションを結びつける際、最も気をつけたいことはそのインターフェースである。

 Uber(米国)、Lyft(米国)、Car2Go(米国)、滴滴打車(中国)、notteco(日本)など、国内外のカーシェアリング事業は、スマートデバイスにインストールされたアプリケーションを利用者との主な接点としている。若年層を中心に利用者数を獲得しているシェアリングサービスではあるが、日常の足が必要な高齢者層(70歳~)ではデジタルデバイドという「壁」が立ちはだかり、その恩恵を享受することは難しい状況である。最新の総務省の通信利用動向調査によれば、70歳代以上の世帯のスマートデバイス保有率はスマートフォンが5.3%、タブレット型端末が3.5%にとどまり、非常に低い水準であるためだ。

 スマートデバイスが高齢者層で普及しない理由は三つの要因に分解できる。(1)フィーチャーフォンと比較しての通信料の高さ、(2)デバイスの操作性に対する違和感と表示の問題(文字・画像のサイズ、色合い)、(3)アプリケーションの操作フローの複雑さがそれらに該当する。ただ、通信料に関しては、通信大手三社が高齢者向け料金プランを提供し、加えてMVNOサービス事業者の市場参入などにより解消されつつある。さらに、操作性、表示に関しては超音波アクチュエーターによって擬似的なタッチ感を提示する要素技術の開発、加齢性白内障に配慮した色合いの表示方法に関する研究が進んでおり、これらの成果がシニア向けスマートデバイスとして製品化がされつつある。アプリケーション操作性改善が高齢者層向けインターフェース完成に向けての最後の一里塚であり、現状、高齢者に配慮したアプリケーション開発がなされた成功例は少ない。

 同じアプリケーション分野では、例えばLINE(SNSアプリケーション)の開発現場では、メインユーザーの女子高生の利用シーンを開発者が観察しながら、アジャイルなアプリケーション開発をしている事例がある。高齢者層にフレンドリーなアプリケーション開発も同様に、高齢者(ユーザー)を中心に据え、作業療法士などの専門職の協力を得ながら、デザインシンキングの手法を生かしたプロセスで進められることが、今まさに期待されているのである。

<バックナンバー>

「第1回 ライドシェアの解禁はなるか?(その1)」
「第2回 ライドシェアの解禁はなるか?(その2)」
「第3回 わが国のコネクティッドカー推進にむけた1つの手法」
「第4回 ワンウェイ方式のカーシェアリングは、なぜ日本で普及していないのか 」
「第5回 超小型モビリティは成長市場になるか(その1) 」
「第6回 超小型モビリティは成長市場になるか(その2) 」
「第7回 地域活性化を担う「フェライン」の導入に向けて 」

※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

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