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2006年03月01日

国税・地方税・社会保険料徴収機関分立の問題と改革試案 ~諸外国との比較を通じて~

要旨
1. 総額126.9兆円(2003年度、以下同)に及ぶ国税・地方税・社会保険料の徴収は、国税庁、地方自治体、社会保険庁、労働局などバラバラの徴収機関によって行われており、かかる状況の見直しは、政府の掲げる「小さくて効率的な政府」実現のための推進力になるといえよう。もっとも、わが国ではこれまで殆ど議論されてこなかったテーマである。本稿では、徴収機関に関するわが国の特徴・問題を、諸外国との比較を通じて改めて洗い出し、それらを踏まえて改革案を提示した。
2. 比較は、次の手順による。先ず、一般政府を構成する中央政府(連邦政府)、地方政府、社会保障基金政府(連邦政府の場合、州政府が加わる)各政府部門間の、所得・消費・資産等課税ベースの棲み分け・重複の程度を整理する。棲み分けが進んでいるほど、納税協力費用(納税者の負う金銭的・時間的負担)および税務行政費用に重複が発生しにくい税制・社会保障制度であると判断される。逆に、重複の程度が強いほど、政府部門をまたぐ一体徴収等がなされない限り、費用の重複が発生することになる。そこで、次に一体徴収等の有無を調べる
3. わが国は、中央・地方・社会保障基金の各政府部門間で、課税ベースに重複が多く、それにも関わらず、徴収機関は並存している。とりわけ、社会保障基金政府には、国の機関だけでも社会保険庁と労働局の2つがあることをはじめ、複数の機関が存在している。加えて、政府部門をまたぐ一体徴収が行われているのは、総税収の1.9%(2.4兆円)に過ぎない国税庁・税関徴収の地方消費税(都道府県税)のみである。
4. 本稿で対象とした6か国に目を転じると、先ず、スウェーデン、イギリスでは、地方政府には地方特有の税目しか存在していないように、課税ベースの棲み分けが進んでいる。その上、スウェーデンでは、国税・地方税・社会保険料全てが租税庁によって徴収され、イギリスでは、国税・社会保険料とも歳入・関税庁によって徴収されている。イギリスでは、納税協力費用削減を主目的として、近年徴収機関の集約が強力に推し進められてきている。フランスでは、税と社会保険料は別個に徴収されてはいるものの、主要な地方税は国が徴収している。アメリカでも、各政府部門間で課税ベースの棲み分けが概略行われている上、国税・社会保険料(社会保障税)とも内国歳入庁によって徴収されている。他方、課税ベースの重複が色濃い国の1つ、カナダでは、カナダ歳入庁で州税を連邦税と一体徴収すべく、連邦政府が多くの州と契約を締結している。社会保険料も同庁が徴収している。課税ベースの重複が色濃いもう1つの国、ドイツでは、主要な税に関しては、「共同税」として州政府が徴収の上、連邦・州・地方政府間で配分しており、社会保険料に関しては、わが国の健康保険組合の範となった「疾病金庫」が医療のみならず年金・雇用など全ての社会保険料を徴収している。疾病金庫は、政府とは独立した法人であり、職域毎の共済組合を起源としている。
5. これら6か国と比較すると、わが国の状況は「特異」である。わが国は、政府部門間で課税ベースの多くが重複し、納税者側・行政側双方に余計な費用が発生しやすくなっているにも関わらず、ドイツやカナダのような一体徴収は殆どなされていない。わが国は、基礎年金に象徴されるように全国民共通の社会保障制度を持ちながら、全国民共通の社会保障制度を持つスウェーデン、イギリス、アメリカ、カナダとは異なり、国税と社会保険料の一体徴収が行われていない。しかも、社会保険庁・労働局という国の機関が行っており、疾病金庫が徴収を行うドイツとも異なる。かかるわが国の特異さが、納税者の立場に立ったものであるとも、「小さくて効率的な政府」という政府目標と整合的であるとも考えにくい。
6. 本稿の改革試案は、次の通りである。現在、国税庁、地方自治体、社会保険庁、労働局は、それぞれ41.7兆円、35.1兆円、27.8兆円、3.6兆円の税・社会保険料を徴収している。このうち、各政府部門間で課税ベースが重複しているものについては、国税庁による一体徴収へ極力改める。地方自治体には、固定資産税等および自らが保険者(運営者)となっている国民健康保険等の保険料徴収のみを残す。社会保険庁と労働局は、徴収業務から完全に撤退する。この結果、国税庁の徴収額は、総税収の72.9%に相当する92.5兆円まで増加する。大胆に見える本改革案も、諸外国に照らし合わせれば、標準的な姿に過ぎない。具体的論議への移行が強く期待される。
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