コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

日本総研ニュースレター 2010年7月号

低炭素地域交通社会の形成に寄与するカーシェアリングのあり方

2010年07月01日 武藤一浩


交通部門の低炭素化とカーシェアリング
 日本国内におけるCO2排出量の19%(2008年度)を占める運輸部門の低炭素化は、地球温暖化対策における最大の課題の一つである。特に交通部門においては、国民の関心も高く、ハイブリッド車の普及は既に進んでおり、排ガスの出ない電気自動車(EV)の一般販売が、CO2排出量削減に寄与するものとして大きな期待を呼んでいる。
 しかし、交通部門における低炭素化対策とは、そうしたハード面の革新だけではなく、人と交通、物流の関わり方の変革も含めた総合的な取り組みである。街づくりも重要な要素であり、例えば平成20年3月に改定された京都議定書目標達成計画でも、コンパクトシティ化によって、自動車を使う場面や走行距離の抑制を図ることなどが推奨されている。
 各地域の特性に合わせた低炭素地域交通社会の設計も欠かせない。その中で、自家用車と公共交通の中間的な事業といえるカーシェアリングは、自家用車を使う人々を公共交通利用に転換させていく橋渡し的な役割を持つ交通機能として、注目を集めるようになってきた。

地域公共交通機関も含めた車種選択
 カーシェアリングは、「1台の車を複数人がシェアして利用する(シェアして1台の車両の稼働率を上げる)」のではなく、「1人でさまざまな車を利用できる」という概念から生まれたサービスである。実際に、「週末は家族と遠方までワンボックスカーでお出かけ」、「夕方は近くのスーパーまで買い物なので軽自動車で」、「今日は天気がよいのでオープンカーでドライブ」といった利用シーンに応じた車種の選択や、「出張先の駅前からカーシェアリングを利用して客先に往訪」、といった利用場所の選択など、会員は用途に最適な車を選択しながらのカーライフが可能となる。
 米国では既にカーシェアリングが一般に浸透し始めている。例えば、老舗のジップカー社では、ボストン市内に設置した2500箇所のステーションで5000台の車両を提供しており、会員数も20万人(2009年現在)を数えるまでに成長した。自分の車を所有することよりも、自分の居住徒歩圏内に、さまざまな車種が数十台配置される利便性が支持されるようになってきたのである。
 実はカーシェアリングが本来的に持つ、車種選択の自由さが移動手段の選択の自由さと結び付き、低炭素地域交通社会の形成と交通分野での地域活性化の促進に役立っている。自家用車の保有者がどこに行くにも車を利用しがちであるのに比べ、カーシェアリングの会員は車を利用しなければならないシーンを限定し、その他はコスト面で安い地域交通機関を利用する傾向が強い。結果的にではあるが、カーシェアリングの発展は、全体の車利用量(渋滞量)を減らし、一般に経営の苦しい地域公共交通機関の存続に寄与することになるのである。
 また、カーシェアリングがコミュニティの形成に貢献する点にも注目したい。レンタカーはあくまで業者が所有する車両を貸すサービスであるが、カーシェアリングは、コミュニティで共有する資産・財産である車両の共同利用という概念で捉えられている。そのため利用者には一定のモラルが求められ、規則を守らない会員には資格剥奪などの措置も行われる。洗車や車内清掃は会員自らが行う規則があることも珍しくはなく、そうした関係を通じて自然と利用者間のコミュニティが醸成されていくのである。中には入会自体がステイタスとして自慢になるような、質の高いコミュニティ作りを実現したところも現れ始めた。

普及には公共性への理解と長期的視点が必要
 しかし、カーシェアリングは短期の投資回収が難しいビジネスなのも事実である。事例に挙げたジップカー社でさえ、最初の数年間はハーバード財団の資金で支えられていた。
 カーシェアリングを事業として軌道に乗せるには、まずは、地域公共交通機関の補完・後押しや低炭素地域交通社会の構築という「公共性」の観点から普及を図る必要がある。
 日本総研でも、国内の低炭素地域交通社会の形成に向け、地域特性に合ったカーシェアリングの普及に力を注いでいる。例えば、神奈川県、箱根町、さいたま市、札幌市、京都市、広島県では、以上の視点から、地元自治体や地元企業と一体となって、長期的な視点で低炭素地域交通社会のあり方を改革していくことを目指している。車両にはEVを活用し、そのための街づくりも行っているので、今後ぜひ注目していただきたい。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ