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日本総研ニュースレター 2009年2月号

金融危機下の中国環境、エネルギー事情と今後の政策動向

2009年02月02日 王婷


経済危機によるエネルギー需要低迷、環境投資減少
 米国サブプライムローン問題に端を発した経済危機は全世界に広がっており、中国経済への影響も徐々に顕在化してきた。2008年上半期まで10%以上の成長率を維持していた中国経済は、7~9月期に9%に低下し、10~12月期も一桁の成長率に止まると予測されている。これまで急速に成長してきた環境・エネルギー分野も、影響は免れない。
 まず、工業生産の鈍化に伴って需要が減少するエネルギー市場が、短期的に縮小する見通しだ。例えば10月の電力消費量は前年を3.7%下回り、1999年以来初めての前年比減少となるなど、2003年以降続いていた電力不足から一転、供給が需要を上回るという予想外の事態になっている。石炭の在庫量も増え続け、昨年12月には史上初めて約2億トンを超えてしまった。また、石油企業も需要と価格の落ち込みに苦しむ状況にある。
 環境分野についても、企業経営の悪化や建設プロジェクトの縮小の影響で、投資の減少は確実と見られる。

経済危機はさらなるエネルギー投資のきっかけにも
 一方、経済危機を乗り切る内需拡大策の一環として、政府が環境・エネルギーへの投資を増やす動きがある。
 エネルギー分野では、都市および農村の電力網整備に40億元、風力発電・原子力発電の国産化支援に8億元が、08年度第四四半期の予算で投じられることになった。
 また、これまで停滞していた大型エネルギー関連プロジェクトの審査と建設が急がれるようになった。現在、3ヵ所の原子力発電所をはじめ、西気東輸パイプライン二期工事、揚水水力発電所などの大型建設プロジェクトが進められている。中でも西気東輸での投資額は930億元に上り、経済効果は約4,000億元規模に及ぶとの試算もある。
 その他、再生可能エネルギーの研究開発に取り組む政策が積極的に打ち出されている。

“和諧社会”実現のための環境投資
 環境分野でも、中国共産党が打ち出す“和諧社会”(経済と社会との協調や人と環境との協調などを重要視する政策)を背景に、政府による特需が見込まれる。
 昨年11月、国務院常務会は内需拡大のための十措置を発表し、4兆元(約60兆円)規模の市場を作ることを約束した。08年度第四四半期には1,000億元の政府予算が内需拡大のために投じられ、そのうち環境関連に190億元が計上された。その内訳は、(1)汚水、ごみ処理施設および汚水管路建設(50億元)(2)農村メタンガスプロジェクト建設(30億元)(3)農村飲用水安全確保プロジェクト(50億元)(4)199灌漑区の節水改造プロジェクト(30億元)(5)南水北調(20億元)(6)省エネ・重点流域の水質対策(10億元)となっている。

中国も環境・エネルギー先進国を目指す
 2006~2010年の第11次5ヵ年規画において、中国は「資源節約型社会」と「環境友好型社会」を国策に掲げている。中国政府は、環境技術の研究開発に力を入れると共に、環境規制の強化や市場整備等に積極的に取り組んでおり、循環経済促進法や水質汚染防止法(改正)など、制定・改正した環境関連の法規制はこの数年で100以上に上る。政府の環境投資も年々増え、2006年には1997年の4倍の2,556億元となった。GDPに占める割合も、ピークの2005年には1.3%に達した(図)。

 

 1973年の石油ショック以後、日本は官民一体で省エネ、新エネ、環境保護の技術開発などに積極的に取り組み、経済成長とともに、世界で最も優れた環境・エネルギー先進国への成長を実現した。中国も今回の経済危機をきっかけに、環境・エネルギー分野の技術開発などに積極的に取り組み、新しい成長点を創出するだろう。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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