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日本総研ニュースレター 2008年12月号

ビジネスモデル創出が電気自動車(EV)事業成功の鍵

2008年12月01日 武藤一浩


 航続距離や充電時間など、なかなか実用段階までたどり着けなかった電気自動車(Electric Vehicle: 以下EV)の技術的な問題にようやく解決のめどが立ち、国内では日産、三菱、スバルの各社が2009~10年以降の販売計画を相次いで発表した。トヨタも今年8月、具体的な生産計画は未定ながら、EV事業への参入を宣言して大きな話題となった。
 過去、わが国では排ガス規制の影響から、1970年と1990年の2度にわたり、EV普及が期待されたことがある。しかし、どちらも電池のコスト高・性能不足の問題で普及には至らなかった。EV事業が注目されるのは今回が3度目となるが、「世界的なエネルギー制約*1」、「技術面の飛躍的な向上*2」などの理由から、ブームではなく、本格的・長期的な普及が期待されている。各国政府も補助金や税制優遇、インセンティブ制度(例:高速道路料金無料)の導入等、多くの支援政策を打ち出してEV普及の後押しを進めている。
 ただし、普及までの道のりにはさまざまな課題が立ちはだかっており、特に以下の三つが問題視されている。
 (1)既存のガソリン車と比べて車両価格が高い
 (2)技術進歩した現在の電池性能に対してユーザが懐疑的(過去の2度の失敗が影響*3)
 (3)急速充電施設などのインフラ整備が不十分
 注目すべきは、これらの課題をビジネスチャンスととらえた、自動車・電池メーカー以外の民間企業がEV事業に参入していることである。その代表が米国のベンチャー企業のベター・プレイス社(以下BP)だ。BPは、日産・ルノーと組み、イスラエル、デンマーク、ポルトガル、米国テネシー州、フランス、オーストラリアにおいて、インフラ整備事業を展開している(車両の普及は日産・ルノーが担当)。整備するインフラは「充電ステーション」「電池自動交換ステーション」と至って普通であるが、提供するEVと電力を月極料金のように徴収する点がユニークである。気になる価格も、米国ビックスリーの新車を購入した場合のローン支払い額と、月50ドル程度しか違わない。月々のガソリン代を考慮すると、(1)のコスト面での課題は解消している。また、(3)の解決は当然として、電池の所有をBP側に移し、電池の性能保証もBPが請け負うため、(2)も解決する画期的なビジネスモデルである。


 さらに、BPのEV事業は、各国政府や国営電力会社によってさまざまな支援や規制緩和が約束されている。というのもEVの蓄電機能(Grid to Vehicle(G2V:電力系統から車))が、不規則に発生する自然エネルギーの電力系統連系の安定化に貢献するからであり、風力発電や太陽光発電などを積極的に導入し、低炭素社会実現を目指したい各国の思惑と一致するからである。さらに、将来Vehicle to Grid(V2G:車から電力系統)も実現となれば、エネルギーロスが非常に少ない、新しい電力供給インフラの構築も不可能ではなくなる。

差別化されたビジネスモデル創出が鍵
 BPの他、海外ではダイムラーとドイツの電力会社RWEの共同プロジェクト「e-mobility Berlin(イーモビリティ ベルリン)」が進められ、グーグルはデラウエア大学V2G研究に15万ドルを支援している。
 わが国でも、東京大学主催の研究プロジェクト「二次電池による社会システム・イノベーション」に多くの企業が参画し、例えば、電池を社会資本化し、利用者は利用料のみを支払う、というような、BPモデルをさらに日本社会に適する形に発展させた仕組み案など、さまざまなビジネスモデルが検討されている。
 最近では、EV事業での成功の鍵は自動車製造技術ではなく、新しいビジネスモデルの開発であると考えられるようになってきた。その意味では、EV事業においても、グーグルやマイクロソフトのようなIT業界の勝ち組の形成と似た経緯が今後見られるに違いない。

<本文注>
*1.長期的な原油高、低炭素社会 etc.
*2.EVへのLiイオン電池の採用・技術進歩、Liイオン電池と連動するモーター技術・インバータなどの制御技術の進歩
*3.1990年のブームの際、二次電池の残量が分からず、ユーザが不安になるとの問題点が指摘された


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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