コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

日本総研ニュースレター 2012年12月号

EVカーシェアリングをはじめとした新たな地域共有財産とコミュニティ再生

2012年12月03日 武藤一浩


豊かさの裏で衰退が進む地域コミュニティ
 住民同士の交流や活動が行われる地域コミュニティは、震災直後に発揮された秩序・治安維持機能などによってもその価値が再認識されたが、現実は各地で崩壊や衰退が進んでいる。要因はさまざまであろうが、豊かになるにつれて隣近所で共同利用するものが減ったり、助け合う必然性が薄れたりして周囲と疎遠になり、いつしか地域活動にも参加しなくなっていっているのは確かであろう。
 もちろん、多くの人々は地域コミュニティ再生の必要性を漠然とは感じているが、現在では昔の井戸のように「人々が集まる共有財産」が見当たらないなど、地域の住民同士がつながりを持つきっかけが少ないのが実情である。

パーソナル・モビリティと防災対策は共有の価値がある
 現代において、多くの地域住民が共同利用する価値のあるものの一つとして挙げられるのは、「パーソナル・モビリティ」を廉価に提供しながら、地域の災害対策機能も備える、「EVカーシェアリング」事業である。
 公共交通機関が発達した都内に居住する場合でも、大きな荷物を運んだり、郊外に遊びに出かけたりと、マイカーが必要となる場面は存在するが、利用時間はそれほど長くなく、所有すると「金食い虫」になりかねない。しかし、会員制のカーシェアリングであれば、パーソナル・モビリティとしての費用対効果が高いうえ、レンタカーを都度借りるよりも手続きが簡素で、利用感覚はマイカーにより近い。
 また、クリーンな車両への代替と車両そのものを減らしていくEVカーシェアリングは、自治体の環境および交通政策と合致しやすい。フランスでは、自治体からの補助を受けて、1日10ユーロ程度という驚異的な低料金を実現し、パリを中心に2,000台近くにまでEV車両を増やしている事業者も現れた。パーソナル・モビリティの所有者の概念を、個人から地域共有へと変えてしまう勢いだ。
 さらに、「移動可能な蓄電池」として、電力が寸断された避難所や病院での活用も期待できるEVは、車両自体が災害時に強い。ガソリンは道路が寸断されれば供給が滞るが、EVの動力源である電力は、電線が地上に架設可能なため、災害後の復旧が早い。そして今後、再生可能エネルギーなどによる分散型電源の普及が進めば、供給安定性が一層高まるはずである。

丁寧な説明がEVカーシェアリング普及の鍵
 ただし、EVカーシェアリングは、その名称さえまだ一般にはほとんど知られていない。さらに、サービスの仕組みや地域災害対策としての価値の概念が新しいため、通常の宣伝や割引キャンペーンだけで利用を促すことはやや難しい。
 そこで、日本総研も運営に参画する「スマートシェア倶楽部・大崎」(東京都品川区大崎地区)では、EVカーシェアリングについて地域住民に詳しく説明するイベントを開催した。景品付きのアンケートを実施する形で住民を説明ブースに招き入れ、質問をしながら個別に説明を行ったのである。さらに、会場に置いたEVの電源を使って淹れたコーヒーを提供することで、蓄電池としてのEVを体感してもらった。
 結果として、このイベントを行った2012年10月には、入会金割引などを行った月と同じくらいEVの稼動時間数が上昇した。カーシェアリングによって、パーソナル・モビリティを気軽に利用できることが支持されたのに加え、決して少なくない住民が、災害対策という地域価値向上に対してコストを払うと意思表示したのである。

地域共有財産をコミュニケーション拡大のきっかけに
 EVカーシェアリングの運営では、EVを使った災害訓練をはじめ、地域の祭りなどにおける電源提供など、多くのイベントも付随して実施される。昔は人々が井戸に集まることで「井戸端会議」と言われるようなコミュニケーションが生まれ、コミュニティが形成されていったというが、EVカーシェアリング事業によっても、参画企業や地域住民が実際に集まり接触する機会が生まれる。そこで交わされるコミュニケーションは、近所に住む人々同士のその後のさまざまなコミュニケーションのきっかけの一つとはなるはずである。
 また、EVカーシェアリングが浸透すれば、EV以外の共有財産をシェアリングする発想も生まれ、実際に現れてくるだろう。多様な地域共有財産を核に、コミュニケーションが繰り返されるようになり、住民同士のつながりが強化されていけば、地域コミュニティ再生への発展が期待できるのではないか。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ