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日本総研ニュースレター 2012年6月号

真の「賢さ」を提供することによるスマートコミュニティビジネスの構築を

2012年06月01日 前田直之


都市の「スマート=賢さ」に求められるOS機能
 スマートコミュニティ、スマートシティという言葉が聞き慣れて久しいが、その中核となる「スマート」の概念は、今のところ「ICTを活用し、不安定な再生可能エネルギーなどが効率的に利用されている状態」という理解に偏っている。しかし、「スマート」の本質は、文字どおり「賢さ」である。例えば、スマートフォンが「スマート」なのは、多数のアプリケーションによって、利用者が端末のサービスをカスタマイズできる「賢さ」を提供するOSを備えるからである。
 人々の生活様式の多様化が進む現代では、同時に価値観も多様化し、ニーズも複雑になっている。つまり、これからの都市開発には、環境・エネルギーだけでなく、事業者や生活者の多様な価値観やニーズに応える「賢さ」が必要になると予想される。その「賢さ」を提供するための都市のOS機能として、「エリアマネジメント」に着目したい。

都市の運営を「官」から「民」へ
 従来、都市のインフラ整備や福祉などの生活にかかる最低限のサービスは、行政が担ってきた。しかし、多様なニーズを把握して情報やサービスを束ね、複雑できめ細かなサービスとして手元に届けるエリアマネジメントが求められると、現在の行政が担い続けることは難しい。また、住民や地権者が主体的に参画する「地域主導型」のエリアマネジメントも現れるようになったが、責任の不明確さや負担の偏在により、持続性に疑問が持たれている。
 つまり、地域の複雑な事情に応じたサービスを提供する「賢い」エリアマネジメントを持続的に行うには、「民営化」が欠かせない。ただし、エリアマネジメントを民間事業者のビジネスとして成立させるには、地域の価値を高めるためのコストは、行政(税金)にではなく、実施する民間事業者に支払う形に社会システムを変える必要がある。また、エリアマネジメントは、サービス単位ではなく、地域単位で導入されるため、特定の地域を対象に、公共サービスや維持管理を包括的に民間に任せる制度の構築も求められる。
 一方、民間事業者自身の努力も必要である。エリアマネジメントをビジネスとして持続させるには、ハードを「売り切って終わり」のビジネスモデルから転換し、都市運営自体に価値を持たせ、「利用してもらうこと」「住み続けてもらうこと」が付加価値となるサービサイジングのビジネスモデルを確立させることが条件といえる。わが国のスマートコミュニティづくりが、エネルギー関連のみになりがちである要因の大半は、エリアマネジメントのビジネスモデルが確立されていないために、主体を担う企業が現れにくいことにある。

資産価値評価にエリアマネジメント機能の反映を
 実は、40年以上前から開発事業者がエリアマネジメントを行っている地域が存在する。千葉県佐倉市のユーカリが丘地区では、開発事業者が福祉、防犯、コミュニティ支援、交通サービス等の様々な生活支援サービスを提供する。そのエリアマネジメントの評価は高く、周辺地域よりも入居希望者が増加し、地価の下落率も低い。そのため、同地区では、開発事業者が中古住宅を通常の市場価格より高く買い取り、さらに高い価格で販売するというビジネスが可能となっている。都市の「賢さ」を提供し地域を価値向上させる開発事業者が、キャピタルゲインによるビジネスモデルを構築した事例といえる。
 現在、日本総研では、新たな低炭素型街区の整備を進める北九州市城野地区において、同様のエリアマネジメントの導入に向けた支援を行っている。この事業では、複数の民間事業者が参画するビジネスモデルを検討している。実際の都市づくりでは、ユーカリが丘のように一事業者のみによる開発は少なく、多様な分野の事業者が関与する場合が多いからである。それぞれの分野の事業者が関与しつつ、事業効率性やリスク分散を考慮した組織形態にする、このモデルが実現すれば、都市において持続的に「賢さ」を提供するスマートコミュニティビジネスモデル普及の足がかりとなるはずである。
 今後は、不動産評価において、その土地に付随するインフラや公共サービスが評価に反映されるように、「エリアマネジメント機能」も資産評価に反映されることを望みたい。こうした「ソフト」の充実が、新しいまちづくりの基準となれば、都市は「賢く」成長し、時代に即した快適な生活の実現と、新たな産業の創出が可能となるのではないか。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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