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日本総合研究所PREレポート2010
「地方自治体におけるPRE戦略の導入に関するアンケート」調査結果
-PREの棚卸し前進の結果、資産保有量の過剰感が大幅に上昇
-全庁的なPREパフォーマンスの評価・分析と学校施設の再編が課題

2010年11月18日

各位

株式会社日本総合研究所

 株式会社日本総合研究所(代表取締役社長:木本泰行 本社:東京都千代田区)は、地方自治体の保有する公的不動産(Public Real Estate: 以下「PRE」)に関する取り組みの実施状況に関し、全国の地方自治体を対象に「地方自治体におけるPRE戦略の導入に関するアンケート調査」を2010年8月~9月に実施しました。これは2009年に実施した同調査の継続調査であり、全国の地方自治体におけるPRE戦略に関する取り組み状況の経年的な変化を調査・分析するものです。

 欧州の金融不安に端を発する円高傾向と企業の業績悪化に伴い、さらなる国内市場の縮小が懸念される中、地方行政の財源に対する見通しはこの1年間でますます厳しいものとなっています。今後、地方自治体が財源が限られた中で経営資源の適切な選択と集中を行っていくためには、公的不動産を有効に活用し最適化を行っていくための戦略(PRE戦略)を定めることが不可欠となります。

 今回の調査では、固定資産台帳整備の状況は前年度に比べやや進展し、さらにPRE戦略に関連する取り組みに着手している地方自治体の割合は昨年度比で大幅に増加していることが明らかとなりました。また、行政需要に対するPRE総量の評価に関しては、都道府県を中心に「過剰である」との回答数が「適正である」との回答数を大きく上回り、昨年度とは順位が逆転する結果となりました。
 このように危機感が高まっている一方で、大多数の地方自治体では、保有する公共施設に関して建築年度以降に発生するデータ(運営経費や利用状況、修繕履歴等)を財政部門や行革部門が把握しておらず、施設の現況に関する情報を収集・分析し部門横断的な意思決定に活用する仕組みは、ほとんど確立されていない現状が浮き彫りになりました。また、学校施設の統廃合・再配置は全国的に課題となっており、学校跡地への民間ノウハウ活用に対する自治体側の期待感が高まっていることがわかりました。

 主な調査結果の概要は以下のとおりです。

アンケート概要

調査対象:全国の地方自治体
(都道府県47団体、人口30万人以上の市72団体、大都市圏(※)に所在する人口10万人以上30万人未満の市83団体、東京都特別区23団体、計225団体)
調査期間:2010年8月~9月
調査方法:質問は郵送、回収はファクシミリもしくはE-mail
回収数 :115票(回収率51.1%)
うち都道府県26団体(55.3%)、人口30万人以上の市37団体(51.4%)、人口10万人以上30万人未満の市40団体(48.2%)、東京都特別区12団体(52.2%)

※東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県、愛知県、大阪府、京都府、兵庫県

調査結果の概要

1.昨年度からの継続調査項目について

①固定資産台帳の整備には若干の進展あり:
 地方自治体が所有する資産について、貸借対照表(B/S)と連動した固定資産台帳の整備は「段階的に整備中である」が52.7%と最も多く(前年度52.1%)、現時点で整備が完了している地方自治体は14.9%(前年度8.3%)、未着手の地方自治体は32.4%(前年度39.6%)という結果となりました。また、属性別に見ると、台帳整備に着手している団体の割合は都道府県において50.0%(前年度43.7%)、30万人以上の市では77.7%(前年度69.2%)、特別区では75.0%(前年度66.6%)と増加傾向にあることから、この1年間で、全体的に台帳整備の取り組みがやや進展したことがわかります。

②保有するPRE総量に対する過剰感が大幅に上昇:
 行政需要に対するPRE保有量の妥当性に対する認識については、前年度と同様に「わからない」が40.5%(前年度45.9%)と最も多かったものの、次いで「過剰である」が36.5%(前年度22.4%)、「適正である」が21.6%(前年度28.6%)となり、過剰と適正の順序が逆転しました。
 さらに、PRE戦略のSTEP1(PREの現状把握)を実施している、もしくは実施予定のある団体に絞ってPRE保有量の妥当性に対する認識を調べたところ、「わからない」との回答は前年度の44.3%から38.5%に、「適正である」との回答は26.2%から19.2%に減少しているのに対し、「過剰である」との回答は24.6%から40.4%と大幅に上昇しました。ここから、PREの棚卸しが進んでいる団体ほど資産過剰との認識が高まっている傾向が読み取れます。

③都道府県を中心に財政部門によるPRE処分・活用支援が活発化:
 財政部門の主導により行われているPREの取り組みとしては、「該当なし」が前年度に引き続き57.3%と最も多かったものの、「所管部門に対する資産処分・活用の支援」が32.0%と、前年度の8.1%から比べると大きな伸びを見せています。
 なお属性別に見ると、「所管部門に対する資産処分・活用の支援」を行っていると回答した団体の割合は都道府県においては50.0%であるのに対し、人口30万人以上の市で24.3%、特別区で16.7%となっており、特に都道府県においてこうした動きが活発化していることがわかります。

④PRE戦略の取り組みは全てのステップで前進:
 PREのマネジメントサイクル(後述の「<参考>PRE戦略の考え方について」参照)に沿った各ステップへの取り組み実績もしくは実施予定を有する団体の割合は、「STEP1:所有不動産の現状把握」の69.3%を筆頭に「STEP7:効果の検証」までの全てのステップにおいて増加しています。また、特に「STEP2:有効利用度評価」や「STEP3:最適保有量の検討」を実施している、もしくは予定のある団体の割合が、県・市・特別区のすべての属性において大きく伸びていることから、PREのパフォーマンスを客観的に評価することへの関心が全般的に高まっていることがうかがえます。

2.今回新たに加えた調査項目について

①財政・行革部門はPREのコストやパフォーマンスを十分把握していない:
 公共施設の現況に関して財政・行革部門が常時把握している、または所管部門から定期的に収集しているデータを尋ねたところ、既存施設の光熱水費(25.2%)や人件費(26.1%)、委託費(27.8%)、常駐職員数(20.0%)といったランニングコスト関連項目はいずれも20%台であり、また、施設の稼働日数・稼働率(14.8%)や利用者数(18.3%)といった利用実績関連項目は10%台に留まりました。このことから、各施設のコスト発生状況や有効利用度(パフォーマンス)に関連する情報が財政・行革部門に把握されている地方自治体は少数派であることがわかります。
 また、集めたデータの使い道について尋ねたところ、職員執務スペースの最適化に向けた複数部門間の利用調整(0.9%)や、行政財産から普通財産への転換の推進(2.6%)、施設稼働率の向上や平準化に向けた複数部門間の利用調整(3.5%)といった部門横断的な調整に係る項目を選んだ地方自治体はごくわずかであり、こうしたデータがPRE戦略の策定や実行に十分に活用されていない実態が浮き彫りになりました。

②統廃合や再配置は「課題との認識あるが対策は未定」との回答が最多、主な対象は学校施設
 全庁的な公共施設の統廃合や再配置の検討状況を尋ねたところ、「課題とは認識しているが取り組み予定はない」と回答した地方自治体が最も多く36.5%、次いで「方針を策定し、既に統廃合や再配置を実施中」が30.4%、「方針の策定を予定している」が19.1%、「方針を策定済み」が5.2%の順となりました。また、施設の統廃合や再配置の検討を進める上での最大の課題としては、「既存施設やサービスの廃止に関して住民の理解を得るのが困難」(51.9%)との回答が半数以上を占めており、住民との合意形成がPREの最適化を進める上で大きな壁になっていることがうかがえます。
 なお、統廃合や再配置の対象となる施設は「学校施設」が最多で71.4%、次いで「福祉関連施設」(58.7%)、「文化交流施設」(52.4%)、「社会教育施設」(49.2%)、「庁舎・各種事務所」(47.6%)の順となっています。

③8割弱の地方自治体で学校跡地が発生、うち4分の1は遊休資産に:
 学校施設の廃校に伴う余剰資産(以下、「学校跡地」という。)は、78.3%の地方自治体で既に発生しているか、いずれ発生するという状況にあることが明らかになりました。また、現在発生している学校跡地(230件)の利用状況に関して尋ねたところ、24.8%が「特に利用していない」と回答しており、約4分の1が遊休資産化していることが明らかになりました。

④学校跡地は地方自治体の継続利用が約半数、売却・貸付時も校舎を残すのが主流:
 現在何らかの形で利用されている学校跡地のうち、庁内で継続利用している例が最も多く46.6%、次いで売却が21.5%、無償貸付が17.3%、有償貸付が14.7%の順となりました。さらに、売却事例の61.0%、有償貸付事例の67.8%、無償貸付事例の75.7%において、既存の建物(校舎)が継続的に活用されていることが明らかになりました。ここから、売却や貸付で地方自治体以外の主体が活用している場合であっても、校舎が取り壊されずに活用されるケースが多くを占めていることがわかります。

⑤学校跡地に対する民間ノウハウの活用に期待が高まる:
 学校跡地の有効活用に対して民間の資金やノウハウを導入することに関しては、60.9%の団体が「有効だと思う」、残り39.1%の団体が「わからない」と回答しており、「有効ではない」との回答はゼロとなっています。さらに、「有効だと思う」と回答した団体が民間側に期待するものとして、「活用策の提案」が最も多く75.0%、次いで「当該施設・土地の利用(購入以外)」(69.9%)の順となっています。ここから、民間の資金やノウハウの活用に対する期待が高まっており、自治体側としては単に売却したいというよりも、所有したままで有効活用するためのアイデアを求めていることがうかがえます。

※調査の詳細をご希望される方は、後記お問い合わせ先までご連絡ください。

PRE戦略推進に向けた提言:

1.地方自治体は次世代を見据えた行政サービス需要の長期予測と戦略的な資産圧縮の取り組みを

 今回の調査では、前年度よりPREの棚卸しが前進した結果として「PRE総量が過剰」との認識が高まり、資産処分・活用の取り組みについても一定程度の進展が見られました。しかし一方で、現状のPRE総量が適正であるかどうかの判断ができていない地方自治体も多数存在しています。また、現在の行政需要に対してPRE総量が適正であったとしても、中長期的に見れば人口減少、少子高齢化といった社会情勢の変化による行政需要の変化は避けられず、資産過剰や用途のミスマッチが顕在化する可能性は高いと考えます。さらに、各自治体において確保できる投資的経費額も縮小傾向にあることから、現在のPRE総量が財政的に維持困難となるケースも多く発生すると予想されます。
 最近は、学校施設をはじめ、老朽化した公共施設の耐震補強や大規模修繕が重要な政策課題となっていますが、せっかく税金を投じて更新した公共施設が、将来的に需要減少で廃止を余儀なくされるような事態は避けなければなりません。
 これを避けるためには、現在の行政需要やサービス提供方法のみを前提とするのではなく、将来の人口や行政需要、最新の技術動向を踏まえたサービス提供方法等の変化について長期予測を行い、総合振興計画や財政フレームと連動したPRE総量の圧縮、用途変更、再配置等に関する戦略を早期に立案することが求められます。これは、個々の地方自治体における税金の効果的な活用に直結すると同時に、良好な公共施設を次世代に引き継いでいくという社会資本ストック形成の面からも重要なことであると考えます。

2.首長と行政はPREパフォーマンス情報の分析・評価と積極的な開示を

 地方自治体においてPREの現況を分析・評価し、行政経営の観点から資産総量の最適化を推進していくのは、財政部門または行革部門の役割であると考えます。しかし、今回の調査で明らかになったように、PREの有効活用や部門間での利用調整、行政財産の普通財産化等の意思決定に必要なデータを財政・行革部門が分析・評価する仕組みは、現状ではほとんど確立されていません。
 今後、地方自治体がPREの抜本的な統廃合や再配置を進める上では、「ある施設を利用するための市民一人当たりのコスト負担」「同機能施設における地区ごとのサービス水準/コスト格差」など、PREの利用状況やコストに関する客観的な情報が重要となります。これらの情報は、行政内部での調整や意思決定に必要であるだけでなく、受益と負担の関係を明確にして地域住民との円滑な合意形成を図るうえでも重要なツールとなります。
 とはいえ、こうした情報の分析・評価の仕組みを確立するためには膨大な労力を伴うため、行政内部のボトムアップによる取り組みだけでは限界があります。市民への積極的な情報開示と対話の推進、という観点から、地方自治体の首長には、このような取り組みの施策上の位置づけと実施体制を明確化することにおいて、これまで以上のリーダーシップの発揮が求められます。

3.学校跡地は新たなPPP手法で地域交流拠点としての再生を

 今回の調査結果から、施設統廃合の結果として生じる学校跡地の活用は、多くの地方自治体にとって優先的に取り組むべき課題といえます。文部科学省では、遊休資産化した学校跡地を抱える地方自治体への支援として、校舎活用事例の公開や活用希望者のマッチング事業を推進しています。しかし、学校法人や病院といった単独の受け皿を探すだけでは民間事業者にとって参画のハードルが高く、有効活用の可能性が広がらないおそれがあると考えます。一方で、マンション開発などの単なる民間収益事業の目的で活用することは、地域住民との合意形成の面で実現が難しいといえます。
 一定のまとまった規模を有する学校跡地は、例えば機能の統廃合・再編の対象となる公共の社会教育施設や集会施設を核として、民間の飲食・物販、子育て支援、医療といった機能を併設するなど、公共・民間の両機能を複合的に備えた地域の交流拠点として、再生の可能性を検討することが有用です。また、事業化に際しては、地方自治体が一方的に条件を固めてから事業者を募集するという従来の手法に固執せず、事業の企画・発案の段階から公共と民間が双方の意見を出し合い、敷地の利用条件、導入機能、事業規模、資金調達方法、スケジュール、コンソーシアム構成と官民の役割分担といった事業計画を具体化していく、新たな官民パートナーシップ(PPP)手法の確立が望まれます。

日本総合研究所について

株式会社日本総合研究所は、三井住友フィナンシャルグループのグループIT企業であり、情報システム・コンサルティング・シンクタンクの3機能により顧客価値創造を目指す「知識エンジニアリング企業」です。システムの企画・構築、アウトソーシングサービスの提供に加え、内外経済の調査分析・政策提言等の発信、経営戦略・行政改革等のコンサルティング活動、新たな事業の創出を行うインキュベーション活動など、多岐にわたる企業活動を展開しております。

本件に関するお問い合わせ先

総合研究部門 日置(ひおき)
E-mail:200010-info@ml.jri.co.jp
TEL:03-3288-5363 03-3288-4691

<参考> PRE戦略の考え方について

1.公的不動産の合理的な所有・利用戦略(PRE戦略)の考え方

 PRE戦略とは、地方公共団体等が保有する公的不動産を経営的な観点から捉え、現状を分析・評価した上で、長期的かつ全体最適の観点から公的不動産の保有や維持管理コストを削減することで、行政サービスの効率化を図るという考え方です。

2.PRE(公的不動産)の対象範囲

 本調査におけるPREの対象範囲は、地方公共団体及びその関連法人(地方三公社、第三セクター等)が所有する不動産とします。

3.PREマネジメントサイクルの考え方

 株式会社日本総合研究所では、PRE戦略とは所有不動産に関する管理運用計画の策定や資産処分・有効活用の個々の取り組みを指すのではなく、以下に示すステップを周期的に繰り返すことで初めて経営課題に対する有効性を持つと考えています。

<PRE戦略のマネジメントサイクル>



主催 取組み内容
STEP1:
所有不動産の現状把握
・毎年度のPRE戦略を策定するにあたり、地方自治体が所有する不動産の現状を、関連データを集約、更新、整理することにより明らかにする。
STEP2:
所有不動産の
有効利用度評価
・所有不動産の現状把握を踏まえ、各施設の有効利用度調査を実施する。
・有効利用度調査は、各施設の有効利用度を評価するための数値的な指標(1㎡あたりの維持管理費や空室率など)を事前に設定し、経年的に横並びで比較をすることにより、所有不動産の有効利用度を評価する。
STEP3:
最適保有量の検討
・所有不動産の有効利用度評価の結果を踏まえ、「最適保有量」の検討を行う。最適保有量とは、今後の施設整備需要や統廃合の見通し、普通財産の売却想定などから導出される、「各地方自治体が所有するふさわしい不動産の量」である。
・最適保有量は目標値として設定するものの、財政状況等を勘案すると直ちに達成できるものではない。PRE戦略を毎年実践していくことによって、徐々に最適保有量の値に近づいていくものと期待される。
STEP4:
PRE戦略の実践に
関する基本方針の策定
・有効利用度調査や最適保有量の検討を踏まえ、総合計画等の上位計画との連動を考慮しながら、施設整備の基本方針、維持管理の基本方針、資産売却の基本方針等のとりまとめを行う。
STEP5:
所有・利用形態
の検討
・基本方針の策定を踏まえ、部門別に所有形態を検討し、STEP3・4にて定めた最適保有量目標の実現に向けた検討を行う。
・不動産の管理運営に関する検討及び有効活用及び売却を行う不動産のそれぞれについて、手法等の検討を行う。
STEP6:
PRE戦略の実践
・STEP5の内容を踏まえ、庁内の各部門においてPRE戦略を実践する。
STEP7:
効果の検証
・PRE戦略は毎年の社会情勢や住民の要望、また行政施策を踏まえ変更されるものである。
・そのため、PRE戦略の実践後(年度末)においては、STEP2及び3で定めた目標値の達成状況を評価することによりPRE戦略の効果を検証する。
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