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環境×マーケティング:掛け算で儲けを生み出す

2010年06月15日 村上芽


1.はじめに

 企業の環境活動推進に関連する調査やコンサルティングに従事していると、企業の環境・CSR部署の方々と話をする機会が多い。そこで感じるのは、同じ環境・CSR部署でも、企業によって「攻め」タイプと「守り」タイプのカラーに分けられ、後者の方が多数派であることだ。どちらがよいというわけでは決してないのだが、ステークホルダーからの要求に対応する「守り」色が強過ぎる場合には、社内での立場は弱く、業務の守備範囲を受身でこなしているだけの印象を受ける。
 これでは、せっかく設けられた環境・CSR部署でも、いつまでたっても普通の社員が異動したくなるような部署にはなれず、希望して動けば異端児扱いされかねない。働いている社員も、企業価値の向上の役に立っているという実感がわきにくいだろう。「守り」だけではなく適度な「攻め」気質を持ち、社内外のステークホルダーにうまく働きかける力を意識的につけないことには、状況はなかなか変わらない。もともと経営トップの強いコミットメントがあり、入念な組織作りが行われている場合はまだよいが、そのような場合でも、トップが変わっても引っこ抜かれない強い“根っこ”作りをしておく必要がある。

2.「攻め」に対する期待の高まり

 環境・CSR部署の「守り」色が強くなってしまう理由は、簡単だ。企業の環境活動は、まず、「有害なものを出さない」という社会のルールを守るところから始まったからである。これは、自主的に実施するというよりも受け身の法令遵守が基本で、きちんとしておかないと企業活動そのものが出来なくなる性格のものである。つまり、ここで発生する費用は企業活動にプラスをもたらすものというよりも、営業するための入場料のようなものである。したがって、コストを最小限にしようという行動しか生まれようがないため、基本的には法令が定める基準を遵守する範囲内での行動になる。
 次の段階として、「ごみを減らしたり、省エネしたりすることで、環境にも貢献するしコスト削減になる」という効果を期待した種類の活動が生まれてくる。ごみの「出し方」であれば正しく社会のルールを守るというだけだが、ごみを減らす行為は環境負荷を小さくするだけではなく企業に収益(廃棄物処理費の削減)をもたらす、という発想となると、それはリターンを求める環境投資となる。したがって、投資回収期間が見合う範囲内であれば、法令が求める以上の環境活動が行われる余地がある。ここまで来ると、筋肉質な体を作ろうという、少し「攻め」的な要素が生まれている。そして、例えば、製造業であれば生産工程での無駄を減らし原価が下がる効果を見出せれば、環境投資のレベルがさらに上がるという「攻め」がさらなる「攻め」を呼ぶような循環が生まれることになる。
 さらに、最近では、「環境配慮行動を、本業での差別化に利用できないか」「そうした効果を、どのように生み出してどのように検証したらよいか」「環境配慮行動は、ブランド価値の向上につながるのか」といった、より「攻めたい」という考えによる声をよく聞くようになった。「守り」中心だった環境・CSR部署でも、こうした課題を自ら感じたり、トップから与えられたりするケースが出ている。つまり、「直接的なコスト削減」「体質強化」系の投資効果にとどまらず、「売上を増やしたい」「広告宣伝効果を得たい」「企業の評判を良くしたい」という「プラスを増やす」効果を期待するものだ。もっと平たくいうと「環境で儲ける」、これを、直接環境ビジネスを行わなくても(リサイクルビジネスやエネルギービジネスを行わなくても)実現したいという期待の高まりである。自動車、家電、洗剤、ペットボトル飲料など、昔から環境との接点が大きいと認知されている業種以外でも、こうした期待が高まっている。

3.「環境で儲ける」ための条件

それでは、環境・CSR部署が適度な「攻め」を行って、「環境で儲ける」ためには、最低限の出発点として、何が必要だろうか。

 (1)社内での連携
 いくつかの企業の方々との議論を通して浮かび上がってきたポイントが、「社内の他部署との連携」である。CSR報告書でよく見かけるのは、ステークホルダー(顧客、サプライヤー、株主・金融機関、社員、地域社会、環境など)に対してその企業がどのような取り組みを行っているかという情報だが、ステークホルダーと環境・CSR部署の間には必ずといってよいほど「社内の他部署」が絡んでいる。例えば顧客であれば営業やマーケティング、株主であればIR、金融機関であれば財務・経理、社員であれば人事である。「攻め」がステークホルダーからの高い評価を積極的に取りに行くことだとすれば、ステークホルダーの1歩手前にいる「社内の他部署」との連携なくしては、うまく攻められないはずだ。
 例えば、「儲ける」の最前線である営業・マーケティング関連の部署との連携が十分になされていないと、「わが社も最近流行っているカーボンオフセット商品出したらどうかと思いついて……最近カーボンクレジットを買いやすくなったから予算の範囲内で買ってみて、ちょうどキャンペーンの予定のあった季節商品につけてもらいましたがどうも反響がありませんでした(A社の環境部談)」というようなことになる。これでは中途半端で、せっかくの「カーボンクレジットを買ってみた」が不完全燃焼のまま「失敗」例となり、あとが続かなくなってしまいかねない。

 (2)部署間の共通目標・共通言語
 他の部署と何か一緒にしようとした場合、同じ社内でも、担当業務が違うと“立ち位置”が大きく異なり、同じ方向を向いているつもりで話をはじめたつもりなのにいつまでたっても盛り上がらない、という経験はないだろうか。「守り」色が強い環境・CSR関連部署と、「お客さんに買ってもらってナンボ」の営業部署が連携するには、お互いの目標や言語を“橋渡し”するような通訳的な役割の人間が、どちらかの部署にいることが成功の鍵になる。成功例として、営業部から環境部に異動した担当者を軸として、営業部向けの社内研修を実施した結果、営業部が自分たちの言葉で環境を語り始め、最終的には顧客に対する環境レクチャーを営業部自身が行い、信頼を獲得した企業がある。こうした“橋渡し”“媒介”役として力を発揮できる人を見つけることが「攻め」のためには重要だ。

 (3)「環境へのよさ」を正確に伝える
 「環境で儲ける」ことの手始めに、商品やサービスの環境への効果をPRする場合があるだろう。ここで注意すべきは、不用意に「環境によいことをしています」をPRし過ぎると、それが「商品を売るために環境を利用しているのではないか」などという批判に耐えられず、1歩間違えると“偽装”と指摘されかねないということだ。「攻め」に使いたいネタ(CO2排出量削減、リサイクル素材採用等)が出てきても安易にそれに頼らず、「商品やサービスがどう環境によいのか」を、きちんと、過不足なく、顧客に伝えることから始めなければならない。
 日本では、環境省が2008年に「環境表示ガイドライン」を作成している。このようなガイドライン を守りながら、「環境へのよさ」を正確に評価したうえで、それが顧客の行動(買う、買い続ける)につながる伝え方を検討する必要がある。

4.おわりに

 以上見てきたように、「環境で儲ける」ためには、環境と他部署、特にマーケティング部署との連携が必要となる。この場合、単なる足し算ではなく“掛け算”となるような効果を生み出すような連携であって欲しい。つまり「環境×マーケティング」が求められているわけで、そのあり方を探るため、環境系の筆者と、マーケティング系の研究員との協働で、自主調査を実施した。その結果の1つである「地球環境保護に関する消費者の実態と意識」アンケートをもとに、次稿からは「環境で儲ける」ための経路について、考察してみたい。 

1.アメリカ、欧州委員会、イギリスにもガイドラインは存在する。また、ISOでも、ISO14020が環境ラベル及び宣言(一般原則)、ISO14021が自己宣言による環境主張について規格が発行されている


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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