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コラム「研究員のココロ」

日本における真のPFI普及は進むか?

2001年12月24日 小松啓吾


 「PFI」――誰しも一度は耳にしたことのある言葉だと思います。PFIとは"Private Finance Initiative"の略で、一般的には「民間の資金やノウハウを活用した社会資本整備」と訳されます。平成11年に「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」、いわゆるPFI法が制定されて以来、この2年間で国および全国の地方自治体でPFIの導入に関する検討が盛んに行われるようになり、最近はPFIに関する様々な情報が新聞の紙面を頻繁に賑わせています。また、昨今の小泉改革においても、公共施設の整備に対するPFIの導入が重要な施策の一つとして位置づけられており、今後はさらにPFIの普及が進むと思われます。

 「PFIはどのような分野に導入可能なのか?」「プロジェクトファイナンスとは何か?」「従来の民活手法との違いは?」「PFIの本家である英国の事例は?」などなど、PFIをめぐる疑問や論点は様々です。これらの多くについては、法制度に関する議論や先進事例の研究などが進み、また、それらを解説した書籍なども数多く出版されるようになり、ナレッジとしては徐々に蓄積されてきた感があります。しかし、PFIの本質的な部分については、PFI法の施行から約2年が経過した現在も、十分に浸透していないように思われます。

 簡単に解説しますと、PFIは一般的に、次の3つの類型に分かれます。
 1)独立採算型
  ・公共は基本的に費用を負担せず、民間事業者が料金収入等をもとに投資を回収
 2)サービス購入型
  ・公共が民間事業者に対してサービス提供の対価を支払い、民間事業者が事業を運営
 3)ジョイントベンチャー型
  ・ 公共が民間事業者に対して補助金等を提供し、民間事業者が事業を運営

 これらのうち、最も多く用いられるのは「サービス購入型」です。「サービスの購入」という表現はあまり耳慣れないかもしれませんが、要するにこういうことです。従来型の公共事業では、公共が施設の設計・建設を行い、その施設を公共自らが所有して維持管理・運営を行うのが通常のケースです。設計から運営に至るそれぞれの業務を個別に民間企業に委託することはあっても、事業の実施主体はあくまで公共となります。

 これに対して、PFIにおける「サービスの購入」とは、本来は公共が提供するサービスを民間事業者が代わりに提供し、公共がその対価を民間事業者に支払います。事業の仕組みによって若干異なりますが、基本的に、事業の実施主体は民間事業者となります。

 これは単なる「お金の支払い方の変化」にとどまらず、公共サービスに関する従来の概念そのものを変化させる要素を含んでいます。PFIの事業においては、公共が資産を所有し、本来ならば民間に任せた方が効率的であるはずのサービスを自ら提供するのではなく、サービスの提供という行為自体は民間に委ね、公共はそのサービスが要求水準を満たしているかどうかをチェックすることになります。すなわち、公共が自らの任務を「サービスの提供主体」から「サービスの監視主体」へと変化させることが求められるわけです。

 こうした視点で全国のPFI導入事例を概観すると、本当の意味で民間の資金やノウハウを効率的に活用しているケースは、残念ながら少ないと言わざるを得ません。その最大の理由は、国や地方自治体の厳しい財政状況にあります。

 景気の低迷などによって税収が伸び悩む一方、提供すべき公共サービスの分野が高度化・多様化しており、限られた財源でより多くの施設を整備していく必要が生じています。こうした背景により、従来型の公共事業からPFIに切り替えることでコスト削減を図ろうという動きが出ています。それ自体は有意義な取り組みであると言えますが、「PFIの導入によってコストを削減する」というステレオタイプ的な命題にとらわれるあまり、「民間の運営ノウハウを活用してサービス水準を向上させる」というもう一つの目的がなおざりにされているケースが見られます。

 真のコスト削減を実現するためには、民間の自由な発想と創意工夫を引き出し、柔軟な運営体制を構築することで、「コストの削減」と「サービス水準の向上」という2つのメリットを同時に享受することが必要となります。しかし、運営の効率化が不十分な状態では、PFI導入のメリットは非常に限定されたものとなってしまいます。財政状況が厳しい時代だからこそPFIのニーズが高まっているのは確かですが、その財政状況の厳しさがPFIの導入を拙速にしてしまうという、皮肉な状況にあると言えるでしょう。

 また、PFIの効果的な導入にあたっては、規制緩和や支援措置の拡充はもちろんですが、何よりも官民双方の意識改革が不可欠です。従来の「発注者-請負人」という、ともすれば主従関係になりがちな関係から脱却し、官民がパートナーシップの関係を構築していくことが求められます。これがあってはじめて、官民がお互いに知恵を出し合い、効率的な事業を展開していくことが可能になるでしょう。
 
 わが国におけるPFIの歴史はまだまだ浅いですが、解決すべき課題は山積しています。私自身もPFIアドバイザーの一員として、その責務の重要性を感じています。今後のPFIの動向に注目すると同時に、真のPFI普及に向けて効果的な提案を行っていくべく、日々研鑽に励んでいきたいところです。
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