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【シリーズ 子ども社会体験科“しくみ~な”の開発】
第4回 Me&My City に参加するパートナー企業の役割と期待

2024年04月03日 青山温子




 Me&My Cityの運営主体であるNYTの運営資金は、Me&My Cityの体験施設に出展するパートナー企業/組織(以降、パートナー企業)からのパートナーシップフィーのほか、自治体からの補助金や経済団体、財団からの助成金など、多様なステークホルダーから調達されている。
 今回は、運営資金で大きな割合を占めるパートナーシップフィーを支払う企業が、どのような役割を担い、どのような意義を感じているのかを、現地でのインタビューから得られたコメントを交えて紹介する。

パートナー企業の役割
 2024年1月時点で、NYTのウェブサイト上には約170の企業・組織がMe&My Cityのパートナーとして掲載されている。このパートナー企業に求められる役割は大きく3つある。
 ①パートナーシップフィーの支払い

パートナーシップフィーの支払いは、パートナー企業の最大の役割である。NYTとパートナー企業とのパートナーシップ契約は一律3年契約となっているが、パートナーシップフィーの金額はNYTとの交渉で決まり、企業によって異なる。Me&My Cityに関わった方によれば、「パートナーシップフィーの金額は社会への影響が大きいほど高く設定されるべきである」とのことで、例えば銀行やテレビ局のパートナーシップフィーは高く設定されていることが推察される。

 ②体験施設ブースへの物品提供

体験施設のブースの外枠と看板、最低限の家具(机・椅子)はNYTが用意するが、ブース内をより本物らしく装飾するのはパートナー企業の役割である。具体的には、ブース内の壁を飾るポスターや写真、ブースに配属された生徒が着用するユニフォーム、業務に必要な物品(銀行のキャッシュカード、ヘルスケアセンターの血圧計や視力検査表、スーパーの商品棚、販売商品等)である。加えて小売のパートナー企業には、ブースで販売する商品を体験施設に配送する業務が年に数回発生する。

 ③マニュスクリプト改良のためのサポート

体験施設での活動の肝となるのが、子どもたちが取り組むタスクの筋書きである「マニュスクリプト」であることは前回の記事で紹介した通りだ。NYTではMe&My Cityに対する子どもたちからのフィードバックを収集しており、この結果も踏まえて年に一度、フィンランドの学校年度の終わりである夏休み期間にマニュスクリプトを改良している。ブースでのタスクについては、各出展企業を交えて検討が進められるが、これはビジネス環境の変化やそれに伴う企業の変化を、タイムリーに、よりリアルにマニュスクリプトに反映するためである。例えば、2023年度からテレビ局のブースでは、「ビデオジャーナリスト」(ビデオカメラで現場を取材して、カメラマン、ナレーター、編集者などコンテンツ制作に必要なすべての役割を一人で担う役割)が職種として追加されている。動画投稿サイトの流行の影響もあるのだろう、Me&My Cityが対象とする小学6年生にも認知されるようになり、人気の職種であることが理由とのことであった。


写真:Me&My Cityのブース内の様子
出所:NYTウェブサイト(Yrityskylä Varsinais-Suomi - NYT (nuortennyt.fi)

企業がMe&My Cityに参加する意義
 パートナー企業は、課された役割(=負担)と効果や意義のバランスに鑑みて、パートナーシップ契約を更新するかどうか判断する。では、パートナー企業はどのようなことを効果と感じているのだろうか。我々がインタビューした複数社のパートナー企業の話からは、以下の3つを参加の意義と感じていることがうかがえた。
 ①リーチの拡大

パートナー企業の中には、本業ではMe&My Cityが対象とする年齢層に対するリーチが弱い企業がある。あるメディア系のパートナー企業からは、「最近の子どもたちは、メディアに対してこれまでの世代とは異なる接し方をしている。また、(Me&My Cityに参加する)12歳は、子ども向けプログラムを見なくなった、かといって、ドラマも見る年代でもない。こうした世代・年代の子どもたちにリーチできる機会は、当社にとっても非常に重要」との声が聞かれた。

 ②いわゆるSDGsへの貢献

あるパートナー企業は「子どもたちが責任ある社会参加市民として行動できるよう、意欲的な方法で学ぶ手助けをしている」ことを意義として挙げてくれた。フィンランドのパートナー企業からは「SDGs」という単語は出なかったが、あえて日本企業にとってなじみの深いSDGsと対応させるのであれば、フィンランドの約9割の小学6年生をカバーするMe&My Cityをサポートすることは「SDGs4 質の高い教育をみんなに」に貢献しているといえる。また、別のパートナー企業である電気通信機器メーカーは、「元々当社の業界には女性が少ない。子どもの頃にこうした職業(エンジニア)があることを知ることで、将来の選択肢の一つとしてもらう狙いがある」としていた。これは、「SDGs5 ジェンダー平等を実現しよう」にもつながるだろう。

 ③自社・業界の社会における役割・業務の周知

上記のようなリーチの拡大や社会貢献を目的にした活動を独自に展開している企業は、日本でも少なくない。しかし、我々がインタビューをしたメディア系のパートナー企業が「最大の目的と利益は、社会におけるメディアの役割を伝えることである。当社が個別で活動するのではなく、複数の企業が集まってミニ社会を作っていることが、社会の中でのメディアの役割を伝えることに効果的である」と語ってくれたように、複数の企業や組織の中での相対的な役割を子どもたちに伝えられることがMe&My Cityの意義ととらえられている。これは、普段は子どもたちの目に触れることが少ない、しかし社会において重要な役割を担っている企業(例:市役所、電力会社、工業製品メーカー)にとって、特に重要になるだろう。


 これらはすべて、企業ブランディングの向上につながるわけだが、インタビューではその結果としての将来的な顧客の獲得、将来的な雇用の獲得にも触れられていた。実際に、10年以上Me&My Cityに参加するパートナー企業では、過去にMe&My Cityを経験した児童が就職する年齢となり、Me&My Cityでの経験を動機として同社に応募する例が見られているという。

 こうした事業につながるメリットに言及しながらも、どのパートナー企業もその根底にMe&My Cityへの深い共感があることは、インタビューをしていて非常に印象的であった。 ある企業は、「Me&My Cityに参加することは当社の価値観と合致している。その価値観とは、より良い未来の構築、地域の幸福への責任、共通の利益の創造といったことである」として、「Yrityskyläのサポートによる金銭的なベネフィットはないが、”doing something bigger(より大きなことを成す)”の一員になることができてとてもうれしく思っている」と語ってくれた。我々が開発する「しくみ~な」も、企業や自治体、地域住民と協働して、一組織では成しえない大きな価値を共創する取り組みにしなければならない、という思いを強くした。こうした取り組みは、翻って、未来のステークホルダーに対する自社の”社会的企業としての”ブランディングにつながるだろう。

 次稿では、Me&My Cityの最終回として、子どもたちにとってのMe&My Cityの効果を、NYTの調査レポートや、教育関係者の研究論文等から紹介する。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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