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中国グリーン金融月報【2024年1月号】

2024年02月21日 王婷


中国グリーン金融月報【2024年1月号】をお届けします。

1.王の視点
中国、全国温室効果ガス自主的削減取引市場がスタート

 1月22日に、中国の全国温室効果ガス自主的排出削減取引市場の発足式典が行われ、中国版ボランタリーマーケットのスタートが切って落とされました。
 これによって、中国では温室効果ガス排出削減に関して、二つの取引市場ができたことになります。一つは、2021年7月よりスタートした全国統一排出権取引市場で、もう一つは、上記の全国温室効果ガス自主的排出削減取引市場です。前者は、政府が指定する事業者を対象に割当量を元にした排出権を取引する市場であり、後者はプロジェクトで発生する排出削減量(クレジット)を取引するものです。
 全国温室効果ガス自主的排出削減取引市場で取引されるクレジット名は、CCERです。CCERとは、China Certified Emission Reduceの略で、中国の国家認証の自主削減量を意味します。CCERは、CDM(クリーン開発メカニズム)スキームのCER (認証された排出削減量:Certified Emission Reduction)に由来し、2011年にCDMスキームが終了したあと、2012年に政府が中国国内自主排出削減取引制度を作り、地方の排出権取引市場で取引されるようになりました。太陽光発電、風力発電、バイオ発電、水力発電、ごみ焼却、余熱利用などがCCERの対象です。2017年に一時、新規CCERの認証と発行を停止しました。原因は、CCER取引の規模が小さいこと、また2012年に作られた制度が外部環境の変化で見直しが必要だと判断されたからです。2018年に、政府の行政改革の一環として、発展改革委員会気候変動公司が生態環境部に統合されたことも、CCER制度の見直しの理由の一つです。ただ、2017年以前に認証されたクレジットや、政府に届け出たプロジェクトも引き続き取引可能です。
 そして、事業者が取得するCCERは排出割当量のオフセットとして利用できる点も特徴です。全国統一排出権取引市場の規定では、割当量のうち5%を上限にCCERでオフセットできると規定しています。その他、地方取引市場では、各地の規定により、オフセット可能な上限は5~10%となっているそうです。
 現在、全国統一排出権取引市場は、電力部門のみを対象としており、約45億トンのCO2排出量をカバーしています。CCERでオフセットする場合、理論上年間約2億トンのCCERが必要となる計算です。全国取引市場の第1回目の清算期には、3,273万トンのCCERがオフセットとして利用されたといわれていますが、足元で新規のCCERの認証と登録が滞っていたことから、市場で取引できるCCERの量が不足しているとの指摘もあります。将来のCCERの市場規模について、中国の研究機関は、2024年と2030年の全国統一市場での取引量をそれぞれ60億トンと106億トンと見込んでいます。価格をトン当たり74元と139元と仮定とする場合、5%の上限オフセット比率で試算すると、2024年と2030年にはCCER市場規模は224億元と735億元となると予想されています。
 新規CCERの登録は国家気候戦略センターが、取引は北京グリーン取引所(BGX)が担っています。全国統一排出取引市場がスタートしてから2年のあいだに、データ改ざんや認証・検証の不備などの問題がいくつか指摘され、関係者が起訴されるなどの刑事事件も起きました。市場の混乱、不備を防ぐため、今回の制度設計では、生態環境部が方法論の作成を主導、第三者検証機関による監督を盛り込む等仕組みを強化しました。さらに、データの品質を保護するために、自主的な排出削減プロジェクトの開発、検証、登録、排出削減の会計と検証の様々な側面におけるデータ管理の技術要件を作成しました。
 全国CCER市場の開設について、中国の市場関係者は概ね歓迎の姿勢を示しているものの、各種規制がさらに整備もしくは強化されることが必要で、取引が順調に拡大するまでには、まだ時間がかかると冷静に注視するスタンスの意見が多いように思います。

2.今月のトピックス
【国家能源局】全国温室効果ガス自主的排出削減取引市場が発足
 全国温室効果ガス自主的排出削減取引市場の発足式典が22日午前、北京で行われた。国務院副首相丁薛祥氏が式典に出席した。河北省セハンバ機械林業農場、中国広核集団公司、国家電力投資集団公司、天然資源部第三海洋研究所を含む4つのプロジェクト開発を担う責任者が、自主的排出削減プロジェクト開発と排出削減取引遵守イニシアティブに署名した。
2024-1‐22 新華社
https://iigf.cufe.edu.cn/info/1019/8350.htm
コメント:中国の統計によると、全国自主的温室効果ガス排出削減取引市場の立ち上げ初日の取引総量は約37.5万トンで、取引総額は約2,384万元でした。トン当たり63.57元で、まずまずのスタートです。初日で取引されたプロジェクトは、新規方法論に基づき開発されたもので、植林による炭素吸収、系統連系太陽熱発電、系統連系洋上風力発電、マングローブ林の創出がその内容です。全国自主的排出削減取引市場ができたことに関連し、従来取引の取り扱いも明確にされました。2017年以前に発展委員会に届け出たCERは、2024年12月31日までは、全国統一排出権取引市場においてオフセットに利用することができ、2025年1月1日以降は、使用できなくなります。

【生態環境部】気候変動に関する第4回国別報告書、気候変動に関する第3回隔年最新報告書の提出
 国連気候変動枠組条約事務局に提出された2つの報告書は、第13次5ヵ年計画期間における中国の気候変動への対応政策と行動、達成された進捗と効果を示した。第4次国別報告書では、国情と制度的取り決め、2017年の温室効果ガスインベントリ、気候変動の影響と適応、緩和政策と行動、財源、技術、キャパシティ構築の必要性、気候変動研究と気候システムの観測に関する情報を含む。第3回隔年更新報告書では、2018年の国家温室効果ガス排出量、および2020年までの主要な緩和政策と行動、それらの排出削減効果の定量的分析が含まれている。上記報告書には、香港・マカオ特別行政区の気候変動への対応に関する基本情報も含まれている。
2023-12-29 生態環境部
https://www.mee.gov.cn/xxgk/hjyw/202312/t20231229_1060290.shtml
コメント:報告書のデータによると、2020年に、中国のGDP単位あたりの二酸化炭素排出量は2005年より48.4%減少し、エネルギー消費量に占める非化石エネルギーの割合は15.9%に達したといいます。これは、13次5カ年計画の目標を上回ると同時に、2009年に中国政府が宣言した「2020年までに、GDP単位あたりの二酸化炭素排出量は2005年よりも40〜45%減少し、非化石エネルギーの割合は約15%に達する」との目標をクリアすることを意味します。非化石エネルギーの増大は、再エネ投資と再エネ導入によるものです。最近IEAが公表した「2023年再エネ報告」を踏まえると、2023年、世界の再生可能エネルギー設備容量は2022年より50%増加したといいます。うち、中国の風力発電設備容量は前年比66%増加し、太陽光発電設備容量は2022年の世界の太陽光発電設備容量に匹敵するレベルに達し、2028年までに世界の新規再生可能エネルギー容量の60%を占めるといわれています。中国は、省エネに加え、再エネを中心としたエネルギーシステムへの転換を通じ、気候変動対応問題を解決しようとしています。

3.今月のニュース
【生態環境部等】「生態環境型開発(EOD)プロジェクト実施ガイドライン(試行)」に関する通達

中国人民銀行、中国金融監督管理局などと共同で発表。EODのイノベーションを推進するという。
2024-1‐4 網易新聞
https://www.163.com/dy/article/INKIK0LD0512UCIM.html

【国家気象局】「データ要素x気象サービス」を「データ要素x3カ年アクションプラン」に取り入れる
「データ要素x気象サービス」を用いて、気候変動リスクの特定、リスク評価、リスク早期警報、リスク移転を統合した新しいモデルを構築し、主要部門や産業の気候変動リスクを予防・解決する。
2024-1‐9 国家気象局
https://www.cma.gov.cn/2011xwzx/2011xqxxw/2011xqxyw/202401/t20240109_5995110.html

【工業情報化部】グリーン工場で「グリーンコード」の導入を実証
すべてのグリーン工場に対して、環境配慮のレベルを定量的に評価し、格付けを行う「グリーンコード」を付与するとの施策を公表。企業のグリーンレベルと所属の業界での位置づけを明確にすることを目的とする。
2024-1‐18 SINA財経
https://finance.sina.com.cn/jjxw/2024-01-18/doc-inacwzmi2419230.shtml

【江蘇省】「水利権融資」グリーン金融サービスを開始
江蘇省水利局と人民銀行江蘇支店が共同で開発。省内で水資源の開発・利用、保護、保全、管理、グリーン炭素削減、生産水処理・再利用、非従来型水処理・利用プロジェクトを支援するという。
2024-1‐21 江蘇省政府
https://www.jiangsu.gov.cn/art/2024/1/21/art_84323_11130533.html

【山東省】初めて「省レベルのエネルギー消費管理」から「CO2排出量管理実施プログラム」への移行を公表
全面進化改革中央委員会第2回会議で決議した「エネルギー消費管理からCO2排出管理への段階的転換の促進に関する意見」を踏まえ、山東省が方針を作成し公表した。
2024-1‐11 SOHUニュース
https://news.sohu.com/a/751198124_484815

【上海市】グリーン金融サービスプラットフォームが正式にスタート
プラットフォームは、グリーン情報サービス、グリーン金融供給、グリーン産業の識別、グリーンプロジェクトサービス、分析、早期警告の5つの機能を持ち、グリーン金融の発展を後押しする。
2024-1‐11 上海市生態環境局
https://sthj.sh.gov.cn/hbzhywpt1272/hbzhywpt1157/20240112/6c9e5fc1c0524bca917a5644e7ff487c.html

【天津市】EUのCBAM(炭素国境調整メカニズム)に対応したデータ商品に関する初の取引が成立
同取引が、北方ビッグデータ取引センターの承認・登録後、天津排出権取引所で取引を完了した。
2024-1‐10 天津市政府
https://www.tj.gov.cn/sy/tjxw/202401/t20240110_6504547.html

紹介した記事の原文は中国語です。内容を日本語でより詳しくお知りになりたい方は、
下記アドレスまでお気軽にご連絡下さい。
100860-green-asiaatml.jri.co.jp(メール送付の際はatを@と書き換えての発信をお願い致します)


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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