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企業と生物多様性の関係構築にむけた補助線

2024年01月30日 古賀啓一


 気候変動に続き生物多様性についても企業が対応する必要があるとの認知が広がり始めている。2023年12月25日に日本経済団体連合会が公表した「企業の生物多様性への取組に関するアンケート調査(※1)」によると、「経営層の8割以上が生物多様性という言葉の意味を知っている」とする企業が約60%、「生物多様性を扱う担当部署を設置する」企業が約66%に達するなど、経団連会員企業においては「生物多様性の主流化」が進んでいると評価している。

 とはいうものの、取り組みを始めることで初めてわかる課題もある。例えば、世界中で取り組むべき方向性を合意した「昆明・モントリオール生物多様性枠組」には23のターゲットが示されており、温室効果ガスを減らすというような分かりやすく、計測・評価可能なテーマとは、性格が異なっていることに気づかされる。このため、示されたターゲットを自社の具体的な行動につなげるまでには距離感を感じることも多いようだ。また、一部の気候変動に対応するための取り組みが生物多様性の損失につながってしまう問題も認知され始めた。生物多様性に関する取り組みには地域性や状況に応じた対応が必要とされ、たとえアカデミアであっても分かりやすい「正解」を示すことは難しい。

 分かりやすい「正解」と異なり、「不正解」の事例を確認することは過去の蓄積から比較的容易であるという点に着目し、日本総研では生物多様性分野のアカデミアが「不正解」、言い換えれば取り組みとして「不適切」と評した事例のデータベース化を進めている。これは、「不正解」の事例を通じた生物多様性の理解促進が、企業による望ましい取り組みにつながると効果を期待したものだ。本稿では2023年度に蓄積された事例から、2024年度に注目すべきテーマの一部を紹介したい。

① 放流のみに頼ることが招く水産資源の枯渇
 昨年もサンマの不漁が続いたほか、全国でサケの遡上も芳しくないことが確認されている。水産資源が減少する状況に対し、わが国で一般的に行われているのが稚魚を放流する取組(種苗放流)だが、放流量を増加させても資源の回復につながらないばかりか、放流先の水域の生態系に悪影響を与えるとする研究成果(※2)が発表された。自然界は、減った生物種を増やして投入すれば元に戻る、という単純な仕組みではない。活動量の計測や取り組みやすさは劣るかもしれないが、現場の状況に照らし、資源回復まで漁をしない、生物が生息しやすい水辺環境を改善する、といったこれまでとは異なるアプローチの必要性が高まっている。

② 外来生物駆除の遅れによる問題の固定化
 ヒアリ、ツマアカズスメバチ、セアカゴケグモなど、人への健康被害が懸念される外来生物の問題は近年話題となったが、条件付特定外来生物に指定されたアカミミガメとアメリカザリガニ(※3)、河川を移動して生息域を拡大する恐れのあるコクチバスなども注目を集めている。こうした外来種では、その初期駆除対応に失敗すると、後々の対応が一層困難になる。例えば千葉県ではキョンが7万頭を超える生息が確認される事態となっている。この事例では、ジビエとして活用することで駆除を促進しようとする動きも生まれているものの、このような対策は、外来種の活用・維持につながり、根絶にはならないとの懸念も示されている。駆除対象となる頭数が増えた後では、「可哀そう」といった感情的な反発も生みやすく、より対応を難しくさせることとなっている。

③ ペットに関わる事業者・飼い主の不適切な管理
 野生生物の違法取引が世界的な問題となる中、国内では海外産のカブトムシ、クワガタムシの大量流通や特定の島にしかいないカエル、イモリの持ち出しが問題視されてきた。水際での持ち出し阻止のほか、主にインターネット上での取引ルートを監視・規制する対応が求められている。また、飼育するペットについても、飼いきれないペットを野外に放してしまうことで外来生物となってしまう問題、猫の外飼いが野生生物に危害を与えるといった問題を指摘する声も国内外で高まっている。

 これらのテーマに直接関係しない企業においても、このような情報が、自社のバリューチェーン上の類似のリスクやソリューション開発・提供の可能性を検討するきっかけとなれば幸いである。

(※1) 企業の生物多様性への取組に関するアンケート調査結果概要
(※2) https://doi.org/10.1111/oik.09802
(※3) 生態系被害防止外来種ピックアップ | 日本の外来種対策 | 外来生物法


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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