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「エネルギー特別会計」が縛る脱炭素

2023年09月12日 瀧口信一郎


 日本のエネルギー政策を支える予算として「エネルギー特別会計」があります。これは、エネルギー政策を推進することを目的に独立経理管理が行なわれる会計です。その会計の「エネルギー需給勘定」は、国内で石油、天然ガス、石炭を利用することに対して課税される石油石炭税(2023年度予算で6,470億円)を財源とし、主に資源エネルギー庁、環境省に配分され、燃料安定供給対策とエネルギー需給構造高度化対策の事業を担います。2023年5月に成立した脱炭素に取り組みつつも産業転換によって経済成長を実現することを目指したGX(グリーン・トランスフォーメーション)推進法により、2028年度から「炭素に対する賦課金」(化石燃料賦課金)が導入されることとなり、輸入業者からの賦課金20兆円(2050年までの総額)が新たにエネルギー需給勘定に組み込まれることになります。その結果、2023年には総額1兆2,206億円の予算に規模が増大し、脱炭素に向けた政府予算の中核として今後ますます重要性が増していくことが予想されます。

 しかし、「エネルギー」という領域にこだわりすぎることで、脱炭素に向けての産業構造転換の制約となる懸念があります。多額の予算が燃料供給の設備投資等につぎ込まれることで、当該領域での解決策が優先されるからです。石油石炭税と化石燃料賦課金は最終的に利用者がコストを負担することになるわけですが、燃料供給事業者は、当然、自らの能力で解決できる範囲に注力し、化石燃料を使った既存の供給設備を可能な限り長持ちさせる事業等を優先するでしょう。排出されたCO2を地下貯留したり、水素とCO2を混合して石油に近い燃料に戻すことに関心が集中することになる訳です。その結果、燃料コストが上昇するだけで、用いられるエネルギー資源や素材は大きく変化することなく、産業構造はそのままということになりかねません。

 脱炭素は新たな素材生産機能の創出など産業構造転換を促していくことにこそ意義があります。炭素は軽量で安全性が高く、生物の体内に存在する基礎的な物質であり、化石燃料の利用が激減するとしても炭素の需要はなくなりません。石油精製はガソリンや重油など燃料として利用されると同時に、ナフサを通じた石油化学産業に原料が供給されています。このため、脱炭素で燃料供給が縮小され、石油供給そのものが激減する場合、素材生産に大きな影響が出る可能性があります。

 日本の経済を支える幅広い製造業群が事業継続できる環境づくり、特に新たな素材を開発する産業育成が必要です。新たな素材産業への転換としては、木質バイオマス、廃プラスチックのリサイクル、排出されたCO2を活用した素材製造プロセスなど、有望な萌芽は既に見られています。従って、燃料供給に係る設備投資に資金が投じられるだけでなく、燃料・原料が産業や社会と連動し、真に産業、社会の脱炭素に繋げていくことが不可欠でしょう。資金の配分を素材生産技術に振り向けることで、多くの研究者が携わる研究開発、生産技術開発を後押しすることができるはずです。

 もっとも、資金の配分を期待するだけでは実態は進みません。社会に実装する新たな素材生産プロセスを具体化する必要があります。日本総研は、大学とも連携し、新たな素材産業構築に向けたカーボンサイクル・イノベーション・コンソーシアムを立ち上げます。バイオマス資源を活用した新たな素材生産プロセスと排出されたCO2を活用した素材生産プロセスを組み合わせてマテリアルプロセスのイノベーション創出を目指しています。ご関心のある方は、ぜひ活動をご一緒できればと思います。

(参考)
 日本総研では、デマンドドリブンのカーボンニュートラルと銘打って、エネルギー・産業・社会が連携するコンセプトを提示(書籍:カーボンニュートラル・プラットフォーマー・論文:カーボンサイクル価値評価 前編:フレームワーク・動画:【カーボンニュートラル】徹底解説!)し、その具体化に向けた活動を行っていますので、参考にして頂ければと思います。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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