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【ニューノーマルエコノミーシリーズ】
生物多様性保全編 |TNFDを契機にネーチャー ポジティブへの転換を目指そう

2023年08月14日 大森充、株式会社バイオーム 代表取締役 藤木庄五郎氏




ポストコロナ時代における新たな産業や事業について、その第一線で活躍している方々にインタビューをしてきた「ニューノーマルエコノミー」シリーズですが、第5回目は株式会社バイオーム代表取締役の藤木さんに「生物多様性の保全」をテーマについて伺いました。藤木さんは京都大学在学中に、熱帯ボルネオ島にて2年以上のキャンプ生活をしながら衛星画像解析を用いた生物多様性可視化技術を開発し、京都大学大学院博士号(農学)を取得後、2017年にバイオームを創業しました。幼少期から近くの池でブルーギル(※1)ばかり釣れることに違和感を覚え、外来生物による生態系の崩壊を肌で感じていたそうです。



(大森)
日本の企業の多くがESG対応やSDGsに代表される社会課題解決を目指す中、生物多様性の保全という言葉もよく聞くようになりました。藤木さんは生物多様性の保全とは、どういうことを意味するとお考えですか。

(藤木)
人によって答えが異なるかも知れませんが、私は生物多様性が維持されているというのは、特定のエリア内における生物種の構成が安定した状態で保たれていることを意味すると考えています。里山など人と自然の関係の中で安定している生態系を除けば、地球環境の中で何億、何十億という時間が経過してきた中で作られてきた生態系を保持することが重要と思います。

(大森)
地球が作ってきた生態系を守ることが生物多様性の保全ということですね。それでは、生物多様性を保全しなければならない理由というのは何でしょうか。

(藤木)
人類はこの安定した生態系の恩恵を受けて生活をしてきました。食料生産が最もわかりやすいですが、例えば、ミツバチのような 花粉媒介者がいなくなってしまうだけで私たちの食料生産は大きく影響を受けます。というのも、世界の主な農作物の7割以上がミツバチのような花粉媒介者の影響を受けているからです。また、生態系が崩れることによってウイルスも増えるといわれており、人類の病気の発生確率も高まるといわれています。なので、生物多様性保全は人類にとっては生存や生命に関わる領域の問題と捉える必要があります。

(大森)
コロナ禍のようなパンデミックの発生確率も上げてしまうのが、生物多様性の喪失ということですね。そもそも、生物多様性はどういった原因で喪失しているのですか。

(藤木)
それはよくいわれる生物多様性の4つの危機で表現できます。第1の危機は人類による土地利用による破壊行為です。ビルや建物、インフラ施設などの開発行為により生物が喪失しています。第2の危機は人類による働きかけの縮小の危機です。これは耕作放棄地や里山の縮小など、人類が逆に手間をかけなかったことによる生物の喪失です。第3の危機は、人類による持ち込まれた侵入種や汚染です。私が小さいころ、近くの湖でブルーギルしか釣れなかったのはこの影響ですね。そして第4の危機は、気候変動による危機です。これは近年の気候変動の影響により、台風やハリケーンが甚大化し、土砂災害や洪水の影響により生物が失われることです。およそこの4つが生物多様性の喪失に影響しているといわれており、私は第1の危機でいわれる人類による土地利用・開発が最も大きな影響を及ぼしているのではないかと思います。



(大森)
人類における土地の利用・開発による生物多様性の喪失が大きいとなると、持続可能な社会に向けて企業はどのような責任と行動を取るべきでしょうか。

(藤木)
生物多様性喪失の発生源となっている業種の責任はやはり大きいと思います。例えば、建設や不動産、食品や林業など土地を直接、あるいは間接的に利用するビジネスはどうしてもその責任は大きくならざるをえません。また、製造業も例外ではありません。サプライチェーン全体で考えると、レアメタルやレアアースのような材料を調達している場合や自然由来の資源を利用している場合には責任は発生すると思います。なので、ITサービスなど、あまり土地利用を必要としない業種を除き、幅広い業種で企業としての生物多様性保全に対する責任は生じると思います。

(大森)
近年はTCFDに続き、TNFD(※2)の動きが出てきています。2023年9月にはTNFDの最終提言があることから今後、徐々に生物多様性保全に関する企業対応の枠組みが決まってくるかと思いますが、企業が取るべき行動としてアドバイスありますか。

(藤木)
TNFDが提唱しているLEAPモデルのうち、「Locate(発見)」から始めるべきと思います。企業としてどのような自然資本と関わりがあり、その関わりがどの程度依存関係にあって影響があるかどうかを棚卸しすることから始めるのが良いと思います。そこが可視化されなければ、「そもそも自分たちが自然資本に対して悪いことをしていると思っていない・知らない」といったケースが多いと思うので、まずは知ることから始め、その上で対応すべき課題に優先順位をつけて、できることから対応していくことが重要と思います。

(大森)
できることから対応、というのはどういうことでしょうか。

(藤木)
おっしゃるようにTNFDは2023年9月に最終提言があることから、まだ日本ではまだ明示的なガイドラインは決まっていません。ただし、プライム市場の上場企業を中心に気候危機対応としてTCFDが一定浸透した日本において、今後はTCFDへのさらなる対応が求められており、その延長でTNFDを一緒に検討することが効果的と思います。他方、TCFDもまだ未対応だけども、食品や建設といった業種のため、TNFDについて早期検討したいといった企業の場合には、自社のアセットを直接、Locate(発見)しにいくべきかと思います。


出所:TNFD 「自然関連リスクと機会管理・情報開示プレームワークベータ版v0.3概要2022.11,p3,


(大森)
そうですね。TCFDの初期対応はScope2までで終わっているケースが多いと思いますので、Scope3の範囲でCO2排出量を把握する際にLocateすると有効的ですね。自社アセットの例でいうと、食品に係る業種(企業、会社)だと原料(茶葉やコーヒー豆など)のイメージですか。

(藤木)
そうです。最近では社有林を調査する企業も増えてきています。また、製造業であれば工場や、商業施設における緑地などもLocateの対象として調査し始めている会社が増えていると実感しています。

(大森)
なるほど。工場緑地や社有林が近接の生態系と同様、もしくは補完・強化関係にあるのであればネーチャーポジティブな環境を生み出せている証跡にもなりますね。ただし、TCFDはCO2排出量の可視化から始めるといっても、ある程度、計算式なども決まっており、定量値が出しやすいですが、TNFDにおける自然資本の定量値を出すのは困難と思っていますが、いかがでしょうか。

(藤木)
そうです。われわれが展開している生き物コレクションアプリ「Biome(バイオーム)」は日本国内のほぼ全種(約10万種以上)の生き物を収録できており、リアルタイムの生物分布情報が500万件以上ある日本最大の生物情報のデータベースとなっています。なので、日本国内のダイレクトオペレーションにおけるLocateは可能であり、指定したエリアにおける生物多様性のポテンシャルを把握することができます。また、外来種駆除などのソリューションも手掛けており、生物多様性保全を、テクノロジーを通じて効果的に対応していくソリューションとしてはユニークなサービス展開ができていると思っています。



(大森)
そうですね。われわれもTNFD支援をする際にはバイオームデータを活用していますのでとてもユニークと思います。気候危機対応としてのTCFDが日本では一般化され、TNFDが一般化されるのも時間の問題と思います。最後に、ネーチャーポジティブな企業活動の実現に向けて、ニューノーマル時代の生物多様性保全についてコメントいただけますか。

(藤木)
まずは企業活動における自然資本の棚卸しから始めましょう。TNFDでいうLocateにあたりますが、自然資本と企業活動の関係を把握できていない中では対応も取れません。まずは把握し、その後の対応は経済的な企業の存続とのバランスで、できることから対応していき、ネーチャーポジティブにチャレンジしていくことが重要と思います。

(大森)
今回はバイオーム代表取締役の藤木さんに、生物多様性保全と企業の対応についてお話を伺いました。内容を要約すると、以下の3点になります。



生物多様性保全とは何か、企業の責任と取るべき行動についてのヒントをいただけました。藤木さん、ありがとうございました。

(※1) サンフィッシュ科に属する淡水魚の一種。 北アメリカ大陸原産。 同サンフィッシュ科のブラックバス、本種に形態が似たカワスズメ科のティラピア同様、日本でも分布を広げた特定外来生物。
(※2) TNFDとは、ビジネスに対する自然への依存や影響、リスクや機会を評価・管理するためのフレームワークである一方、TCFDはビジネスに対する気候変動の影響、リスクや機会を評価・管理するためのフレームワーク。日本では2022年4月の東証市場再編に伴い、プライム市場上場会社に対してTCFDの実質的な開示義務要請があったことから、企業へのTCFD対応の浸透が加速した。
以上
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