コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

オピニオン

【ビジネスケアラーの実態と企業に求められる取り組み】
第2回:企業に求められる取り組みや実践のポイント

2023年08月02日 石山大志小島明子石田遥太郎


 高齢化や生産年齢人口の減少が進む中で、ビジネスケアラー(仕事をしながら家族等の介護に従事する者)が増加しており、国や企業に対する影響の大きさから注目が集まっている。2023年3月には経済産業省が日本全体でのビジネスケアラー人数や経済損失についての将来推計を公表し、話題を呼んだ。推計では、2030年には家族介護者約833万人に対してその約4割(約318万人)がビジネスケアラーとなり、ビジネスケアラーの離職や労働生産性の低下に伴う経済損失額は約9兆円に上るとされている(※1)。第1回(※2)で述べた通り、その経済損失の大きさから、企業にとってビジネスケアラーへの支援は喫緊の課題である。また、2023年6月に公表された「経済財政運営と改革の基本方針2023 加速する新しい資本主義~未来への投資の拡大と構造的賃上げの実現~」(骨太方針2023)においても、ビジネスケアラーの増大等を踏まえた介護と仕事の両立支援を推進が掲げられているなど、わが国全体のとしても対策が求められている。そこで本稿では、経済産業省のビジネスケアラーの実態に関する調査結果(※3)や先行事例などをもとに、従業員が安心して仕事と介護を両立するための取り組みステップや取り組みの実践に向けたポイントを解説する。

■ビジネスケアラーの実態に関する調査結果
 まず、経済産業省のビジネスケアラーの実態に関する主な調査結果は以下の通りである。(※カッコ内のページ数は調査報告書のページ数。文意を変更しない形で一部表現を修正している。)

<ビジネスケアラー向け調査>

・会社における介護に関する情報提供について、「勤務先で何をサポートしてもらえるか知らないし、興味もなかった」といった意見が多く見られた。また、「会社では介護セミナーが開催されているのも知っていたが、特に必要性を感じることがなく受講したことはなかった。」のように、制度や取り組みの有無にかかわらず、介護に関する情報や会社の制度についての興味関心が低い。(P.143)

・家族の介護を始めて以降に感じる仕事への影響について「自身の仕事のパフォーマンスが低下している」と回答した方が3割を超えており、特に女性管理職では41.7%と半数近くが、パフォーマンスの低下を感じている。(P.73)

・現在の勤務先に長期的に働き続けるためには、企業からどのような支援があると良いと思うかという設問では、いずれの属性においても「柔軟に休暇を取得できる制度」と「テレワーク、フレックスなど柔軟に働ける環境整備」が5割前後となっている。(P.93)


<企業担当者向け調査>

・法定の義務的措置以外の取り組みとしては、法定を超えた休業・休暇制度を整備している企業が約3割と最も多い。従業員向けの介護セミナーの実施や、社内外の専門窓口を設置している企業は約1割程度にとどまっている。(P.153)

・約5~6割の企業が従業員の現時点の介護の状況について把握を行っていない。今後、従業員に対して、介護が必要となり得る親族の状況について把握する予定がない企業は約7割に上る。(P.152)

企業向けのヒアリングでは、会社における課題認識・今後取り組みたい事項として、上司や周囲に相談しやすい環境づくりを挙げる企業も見られる。(P.139)


 これらの結果から、介護に直面していない従業員は、会社の制度や取り組みの有無にかかわらず、介護に関する情報や会社の制度についての興味・関心が低いこと、現状多くの企業が法定通りの対応にとどまっており、法定を超えた制度の整備や従業員の状況把握を行う企業は比較的少数であることがわかった。加えて、今後必要なビジネスケアラー支援の取り組みとしては、上司や周囲に相談しやすい環境づくりといった、制度の整備のみにとどまらない風土に着目した取り組みも示されている。これまでも、厚生労働省が「仕事と介護の両立支援対応モデル(※4)」として、両立セミナーの開催やハンドブックの配布、人事・管理職向けの相談を受けた際の対応整備など、制度の整備のとどまらない取り組みの重要性を示しているが、本調査においても同様の示唆が得られた。そこで、本稿では従業員が仕事と介護を両立するための支援制度の整備と、それらの制度を利用しやすい風土への変革につなげる取り組みのステップを説明する。

■仕事と介護の両立支援の取り組みのステップ
 仕事と介護の両立支援に関しては、個社の事例も含めさまざまな取り組みが実践されている。ここでは、より多くの企業が自社の取り組みレベルを把握し、今後の取り組みの方向性を検討できるよう、企業文化の変革に着目したステップ形式で紹介したい。
 企業文化の研究者として著名な組織心理学のエドガー・H・シャインは、企業文化にはレベル1「文物:目に見える組織構造及び手順」、レベル2「標榜されている価値観:戦略、目標、哲学」、レベル3「背後に潜む基本的仮定:無意識に当たり前とされている信念、認識、思考及び感情」の3つのレベルがあると提唱している(※5)。これらを企業の取り組みの状態に沿ってわかりやすく言い換えると、レベル1は「制度や仕組みが整えられている状態」、レベル2は「整備した内容と会社の経営方針等とが整合しており、それらが経営層や管理職を通じて組織内で浸透している状態」、レベル3は「背景となる課題や制度の利用について、従業員間での無意識の偏見が取り払われている状態」であるといえる。企業が取り組みを進めながらこのレベルを高めることによって、企業が掲げる方針や制度に基づいて企業文化が変革されていくのである。では、従業員が安心して仕事と介護を両立できる企業文化への変革につなげるために、どのようにしてこのレベルを高めていけば良いのだろうか。仕事と介護の両立支援の取り組みを、上述の企業文化のレベルを高めるための取り組みステップとして整理したのが図表1である。



<ステップ1:制度の整備と情報の周知>
 まずは「制度の整備と情報の周知」である。第1回で述べたように、これまでの企業の取り組みは「介護離職の防止」に重きが置かれ、ビジネスケアラーのパフォーマンスの低下やキャリアに対する不安への対応については十分な検討や対応がなされていないことが多かった。しかし、介護離職に至らずとも、ビジネスケアラーとなり家族の介護によって仕事のパフォーマンスが低下することは避けられるべきである。そのためにも、特に介護事由発生直後と両立期において、介護保険制度や自社の仕組みをうまく組み合わせながら、仕事と介護を両立し、仕事のパフォーマンスの低下を防ぐことが重要である。ここではそのために必要な取り組みを2つ提案したい。
 一つ目は制度の整備である。例えば上述の調査では、仕事と介護の両立支援として「柔軟に休暇を取得できる制度」と「テレワーク、フレックスなど柔軟に働ける環境整備」が重要との結果が示されるなど、柔軟な働き方の推進がビジネスケアラーから求められている。確かに、仕事と介護を両立し、仕事のパフォーマンスの低下を防ぐためにも、柔軟な働き方の推進は重要である。一方で、テレワークなどの柔軟な働き方が実現することで従業員が恒常的に自ら介護を行うことは、要介護者の過度な依存を助長する恐れもある(※6)。介護休業制度が「介護の体制を構築するために一定期間休業する場合に対応するもの」であるように、柔軟な働き方を推進する制度も、仕事と介護を両立し、仕事のパフォーマンスの低下を防ぐための制度であることを念頭に置いて制度の整備が進められる必要がある。加えて、介護に関する相談窓口の設置を行うことも有効である。社内に介護専門の相談窓口を設置することができれば、個別性の高い介護の問題についても安心して企業に相談でき、介護に関する制度(介護保険制度・自社の制度)の利用、地域包括支援センターやケアマネジャー、FPなどの専門家の紹介につなげることができる。一方で、介護専門の相談窓口を設置することが難しい企業も多いであろう。このような場合には、人事・総務の担当者が、地域包括支援センターや地区町村の介護保険担当課の連絡先を把握し、従業員から相談があった場合にはそれらの連絡先を紹介することから始めても良い。
 2つ目は、情報の周知である。ビジネスケアラーの人数は45歳以降に特に大きく増加する(※2)。そのため、従業員が45歳になるまでに家族の介護に関する情報や、会社や国が行う支援に関して研修等を通じて伝えることが必要である。家族の介護は「突然」発生することも多く、事前の準備や心構えがないと、介護休業の長期化や本人の金銭的負担の増加などの課題も発生しやすくなる。だからこそ介護に直面する前に情報を取得し、家族との相談や準備を進めることによって、介護事由発生直後と両立期のいずれにおいても仕事のパフォーマンスの低下を防ぐことが必要だ。また情報の周知に際して、介護経験者の声を聴くことも一案である。自社で仕事と介護を両立している従業員がいる場合にはその話を聞くことや、厚生労働省などが発刊しているレポートに掲載されている経験者の声や事例を紹介することが考えられる。加えて、企業が利用する福利厚生サービスや、企業と提携しているケアマネジャーを通じて介護サービスや介護保険制度に関する情報提供を受けること、ビジネスケアラーやその予備軍の相談を受けることも検討しても良いだろう。

<ステップ2:マネジメント層の意識改革と組織への浸透>
 次のステップ2は「マネジメント層の意識改革と組織への浸透」である。つまり、仕事と介護の両立支援に向けた取り組みが、会社の経営方針(経営理念やビジョン、中期経営計画など)の実現に必要なものであるというストーリーを経営層が示したうえで、示されたストーリーを前提にして仕事と介護の両立支援に向けた取り組みをマネジメント層が組織内で浸透させることが必要である。ここでまず重要なポイントは、仕事と介護の両立支援の取り組みは、ビジネスケアラー本人と企業側の担当者(人事部、総務部など)の2者だけで扱うべきものではなく、ビジネスケアラー本人の上司であるマネジメント層を含めた3者で扱うべきテーマであると認識することである。例えば、仕事と介護の両立支援に先進的に取り組むハウス食品グループ本社株式会社では、介護に関する相談を、社員と上司、人事担当者の3者で行い、抱える課題の解決に向けた検討を行っている(※7)。このように、仕事と介護の両立支援の取り組みを3者で進めるためにも、マネジメント層自身が、仕事と介護の両立支援制度について深く理解すること、そしてこれらの支援が従業員の離職や生産性の低下を防ぎ、中長期的な企業価値向上につながることへの認識を持つ必要がある。では、具体的にはどのような取り組みが求められるのか。ここでも大きく2つの取り組みを提案したい。
 一つ目は、マネジメント層の意識改革である。ここでは、一般的なダイバーシティマネジメントやアンコンシャスバイアス、心理的安全性などをテーマとしたマネジメント層向けの研修や、仕事と介護の両立支援制度に関する周知を行い、マネジメント層の知識レベルの底上げを行うことが有効である。加えて、マネジメント同士で学び合う場をつくることも有効である。例えば、経済産業省が2022年に公表した人材版伊藤レポート2.0では、人的資本経営の要素である「知・経験のダイバーシティ&インクルージョン」を進める取り組みとして、マネジメント層が優れた工夫を学び合う環境を整備することが有効であるとされているが、DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)への対応の一環である仕事と介護の両立支援に向けた取り組みにおいても学び合う場をつくることは同様に有効であるといえる。特に実際に現場の組織マネジメントを行うマネジメント層が抱える悩みの解決策は、他社の事例だけではなく自社の事例からヒントを得る場合も多い。ビジネスモデルや慣習、制度の内容は企業ごとで異なるからこそ、仕事と介護の両立を支援し中長期的な企業価値向上につなげるための工夫を、自社のマネジメント同士での学び合う場も重要なのである。
 2つ目は、組織への浸透である。ここでは部下との「1on1」などの定期的な面談の機会を活用し、部下の将来のキャリアに関する相談などと関連づけて、仕事と介護の両立支援に向けた取り組みを説明することが有効である。例えば全日本空輸株式会社では、介護に直面した際には、まず上司へ相談することが大切であるとの認識のもと、仕事と介護の両立に向け「日頃からコミュニケーションがとりやすく、話しやすい風土をつくる」「上司と部下の定期的な面談を積極的に行うよう促す」など、部下との対話や面談を活用している(※8)。その一方、多くの企業では、企業の制度を活用して仕事と介護を両立したことがある社員が現時点では少ないため、部下自身に介護に関する理解が不足しており、課題であると認識できていないケースも多い。そのため、仕事と介護の両立支援に向けた取り組みが会社の経営方針の実現に必要なものであるというストーリーをマネジメント層が適切に部下に伝え、部下が介護の状況や見通しを述べられるよう、マネジメント層を対象とした1on1スキル向上プログラムを提供することも、仕事と介護の両立支援につながる取り組みである。

<ステップ3:対話の場づくり>
 最後のステップ3は「対話の場づくり」である。例えば、「介護というプライベートな問題を会社が支援する必要はない」といった仕事と介護の両立支援そのものに関する無意識の偏見や、「テレワークをする人は仕事が二の次になっている」といった制度の利用に関する無意識の偏見を、従業員同士の対話を通じて取り払うことである。各種制度やマネジメント層からの説明があったとしても、上記のような偏見によって、自身の介護について相談できる雰囲気、制度を利用しやすい雰囲気がなければ、必要な制度が利用できず仕事のパフォーマンスが低下する。あるいは、制度を利用できたとしても周囲の理解不足により精神的な負担を感じてしまう。そのため、制度を利用しやすい雰囲気、自身の介護について相談できる雰囲気を平時から醸成することが重要になる。
 具体的には、人事担当者が中心となって、仕事と介護の両立を行う当事者やその予備軍、その上司や同僚などの関係者と、おのおのの悩みや状況について対話を行う場をつくることが有効である。この「対話の場」では、当事者の経験を話すだけではなく、具体的なケースに対しての対応策を検討することが望ましい。例えば「遠方に住む高齢の家族が事故にあって、今日から急きょ入院することになった」「重要顧客からのクレーム対応に追われているが、介護施設から電話がかかってきて2時間ほど業務ができない状況にある」など、できる限り自社・自職場にとって具体的な想定ケースを用いて、上司や同僚、または企業としてどのように準備し対応する必要があるか、方法や方針を関係者同士の対話を通じて紡ぎだし、企業や組織のノウハウとして蓄積するのである。例えば、東京ガス株式会社では「部下役と上司役に分かれて、介護を抱えた部下からの相談があった場合の対応をロールプレーイングした後、オブザーバーから振り返りを行う」といった取り組みにより、介護に対する不安の解消、仕事と介護を両立しやすい職場風土の醸成を図っている(※8)。このように、実際のケースや想定ケースにおける対応についての知見を積み上げることで、ビジネスケアラー本人以外の理解も進み、制度を利用しやすい雰囲気、自身の介護について相談しやすい雰囲気が醸成される。

■DE&Iの実現の第一歩として、仕事と介護の両立支援に向けた取り組みを進める
 本稿で述べたビジネスケアラーの問題に限らず、昨今は人材における多様性の確保や育児を行う従業員への対応等、DE&Iの観点から従業員を取り巻く環境は大きく変化している。加えて、人材の多様性の高まりや雇用の流動性の向上の観点から、企業が従来通りの採用・人材育成活動を実施したとしても、人材の確保・定着を実現することは難しい。そのため、これらの環境変化に対応し、多様な個がその能力を最大限発揮できるよう各種制度を整備する企業が増えている。これらの制度の実効性を高めるにはマネジメント層がその課題や対応策を理解し、多様な人材を受け入れて組織を運営する能力を高めることも不可欠である。
 しかし、管理監督者やミドルマネジメントなどのマネジメント層の中にはDE&Iに関する諸制度を、必ずしも前向きに捉えておらず、制度の情報を周知するのみで、会社や組織の方針や目標と関連づけて従業員に説明できず、企業としての実効的な利用が阻害される場合も散見される。しかしながら、こういった課題を抱える企業ほど、DE&Iの実現の第一歩として仕事と介護の両立支援に取り組むべきであると筆者は考える。第1回で述べたように、ビジネスケアラーとなるのはマネジメント層である場合も多い。つまり、時にビジネスケアラーの当事者となるマネジメント層自身が仕事と介護の両立支援といったDE&I施策の「受け手」となるのだ。この「受け手」としての経験が、仕事と介護の両立支援をはじめとするDE&I施策の「支え手」として前向きに捉えるきっかけになると考えられる。DE&Iの諸課題は、本来誰しもが「支え手」「受け手」として当事者である。その課題を分かち合いながら、ともに解決策を考えるきっかけに仕事と介護の両立支援はなり得るのである。
 本稿では、従業員が安心して仕事と介護を両立するための取り組みを3つのステップで示した。また上述の通り、これら実行することは、従業員に向けた仕事と介護の両立支援のみならず、DE&Iに関する諸課題への対応、制約を抱える社員が働きやすい職場環境を整備するという観点からも有効である。多くのマネジメント層がビジネスケアラーとして直面するであろう「仕事と介護の両立」に関する取り組みをきっかけに、DE&Iを実現する企業文化への変革意識が醸成されることが期待される。

(※1) 経済産業省 第13回経済産業政策新機軸部会資料「新しい健康社会の実現」(2023年)
(※2) 日本総合研究所「【ビジネスケアラーの実態と企業に求められる取組】第1回:わが国における仕事と介護の両立困難による経済損失」(2023年)
(※3) 経済産業省委託調査(日本総合研究所)「令和4年度ヘルスケアサービス社会実装事業 (サステナブルな高齢化社会の実現に向けた調査)報告書」(2023年)
(※4) 厚生労働省「平成27年度 仕事と介護の両立支援事業 企業における仕事と介護の両立実践マニュアル」(2015年)
(※5) エドガー・H.シャイン「企業文化」白桃書房(2016年)
(※6) 厚生労働省「今後の仕事と育児・介護の両立支援に関する研究会報告書」(2023年)
(※7) リクルートワークス研究所「介護中でもやりがいを失わずに働く 新しいビジネスケアラー支援入門」(2023年)
(※8) 一般社団法人 日本経済団体連合会「仕事と介護の両立支援の一層の充実に向けて 企業におけるトモケアのススメ」(2018年)


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
関連リンク
経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ