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フランスViva Technology2023に見るスタートアップトレンド

2023年06月28日 大森充


イーロン・マスク氏も参加したViva Technology2023
 アメリカのCES(Consumer Electronics Show)やSXSW(South by Southwest)、ドイツのハノーファー・メッセなど、世界的な見本市は多くある中、欧州の先端技術トレンドを抑えられるのがフランスで毎年開催されているViva Technology(以下、VivaTech)である。運営の発表では2023年は、6月14日~17日の4日間で、15万人以上が訪問し、オンライン訪問を含めると50万人を超えるイベントとなった。中でも、今年の登壇者は豪華であり、マクロン大統領が1日目に登壇し、2日目にセールスフォースCEOのマーク・ベニオフ氏、3日目に世界をにぎわせている希代の起業家イーロン・マスク氏が登壇したことでも注目を集めた。


出所:Viva Techウェブサイト(参照:2023年6月19日)


社会課題解決先進国であるフランスならではの特徴
 フランスは社会課題解決先進国であり、2023年のSDGs世界ランキングでは7位に位置している。とりわけ環境問題に対する解決姿勢が強く、プラスチック廃棄規制もフランスがいち早く着手している。また、2023年5月には温室効果ガスの排出削減を狙い、鉄道で移動が可能な国内短距離区間における航空機利用を禁止する法律が施行された。日本で言えば、東京-大阪間の航空機利用が禁止されるイメージである。
 このように社会課題解決に貪欲であるフランスならではのイベントになったのがViva Techである。例えば、Viva Techではゴミ排出量の削減のためにノベルティなどの紙配布を極力なくす、イベントに使用する装飾品や展示類などは再利用をするよう呼び掛けている。実際、VivaTech2022とVivaTech2023のエントランスモニュメントは同様であり、運営側が再利用していることが伺える。


出所:(左画像)20 Minute社ウェブサイト(参照:2023年6月19日)
(右画像)VivaTechウェブサイト(参照:2023年6月19日)


 参加しているスタートアップも特徴的である。社会課題解決型スタートアップが多く出展しており、中でも際立ったのがClimate Techと呼ばれる気候危機を解決するテック企業である。日本でもTCFDの導入が進む中、CO2排出量の可視化をサポートするようなスタートアップ群が誕生しているが、フランスではその一歩先を行く。
 中でも有名なのがKayross(カイロス)である。当社はフランス発スタートアップであり、衛星画像をAIで解析することで地球規模における排出ガスの可視化に挑戦しており、日本のNICT(国立研究開発法人情報通信研究機構)とも2020年にパートナーシップを組んでいる。例えば、下図はオーストラリアのある地域におけるメタン排出量を可視化したものであるが、これまでリアルタイムかつグローバルにモニタリングするシステムはなかった。しかし、当社とESA(欧州宇宙機関)との提携により、衛星対応のメタンウオッチが可能となり、その結果、世界125カ国が署名したCOP26における国際メタン誓約につながっている。


出所:ESAウェブサイト(参照:2023年6月19日)


生成系AIのスタートアップも躍動
 VivaTech2023ではClimate Techスタートアップの他にも、たんぱく質クライシスを解決するFood Techスタートアップや、ゴミ排出量を削減するサーキュラー型ビジネスモデルを目指すスタートアップの参加が目立った。実際、VivaTech「Next Unicorn Award Ceremony」では、食品の廃棄問題を解決するモールソリューションを展開するスウェーデンのスタートアップMatsmart(マッツマート)がグランプリを受賞している。
 また、この1年の技術トレンドに必ず上がるのが生成系AIである。Viva Techでは生成系AIを活用したシーズスタートアップの活躍も垣間見えた。AIと言えば、イーロン・マスク氏は講演の中で、人間が制御できないレベルのAIが誕生することの危険性について触れ、規制の必要性を説いた。仮に、規制がなければ人類にとって壊滅的な結果をもたらすとも述べていた。

日本におけるオープンイノベーションへの示唆
 日本においても大企業とスタートアップの連携は盛んであり、大企業が連携を望む対象は日本にとどまらない。ただし、日本は経済こそ先進国であるものの、社会課題解決の文脈では後進国である。先述したSDGsランキングでは19位に低迷しており、年々順位を下げている傾向にある。かかる状況下、大企業は自らの存在意義(パーパス)を見直し、これからの未来に向けて財務だけでなく、非財務的な成長を企図している企業群が多くなってきたことも事実である。日本の大企業がフランスを中心とした欧州エリアで躍動するスタートアップから5年先、10年先のビジネスモデルの在り方を学び、そのうえで国内外問わず、必要なスタートアップと連携していくことは有意義であろう。


以上

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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