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【サステナブル・ブルーエコノミー】
食卓にのるタンパク源の多様性

2023年06月13日 村上芽


 生命にとって貴重な水。塩(塩類)を含む水の非常に大きな広がりである海が、「供給サービス」という種類の生態系サービスで私たちに提供してくれるもののひとつが、魚介類や海藻といった海の幸である。

 「令和3年版水産白書」によると、日本での生鮮魚介類の消費量は年々減っており、2016年以降は肉類よりも少ない。また、サケ、マグロ、ブリが上位を占め、上位種の占める割合が高まっている。流通や冷蔵技術がよくなったために、地域ごとの生鮮魚介類の消費の特徴が薄れ、調理しやすい切り身の状態で購入できる種類が全国的に食べられるようになったこと、ノルウェーやチリからの輸入が増えたことも指摘されている。

 つまり量が減ったうえに種類が偏ってきているわけだが、肉類の種類が「鶏肉、豚肉、牛肉」で99%(注1)を占めることと比べれば、魚介類はいまだに、より多様なタンパク源として私たちの食生活を支えてくれている。家計調査によれば、鮮魚のカテゴリ内で個別にデータを取られているのが14種類あるが、これらの合計でも消費額全体の約70%にとどまる(注2)。その他に含まれる品目が多様で、季節性があることも特徴である。

 最近では、これまで「未利用魚」「低利用魚」扱いで市場に出回ってこなかった魚種や、大きさや形の問題で規格外になってしまう魚を対象に、練り製品・干物などへの加工や、外食業による商品化など、新たな動きも各地で始まっている。この背景として、政府は2013年度から、漁村地域での漁業所得を5年間で10%以上向上させることを目標に「浜の活力再生プラン」を推進してきたことがある。さらに、SDGsやESGの浸透により、食品ロス削減や海の豊かさを守るといった観点から企業による取り組みが拡大したことも後押ししていると考えられる。

 では、市場において、また、私たちの食卓において、どの程度「多様なタンパク源」としての水産資源が評価されているかというと、非常に心もとない。国内で利用できる、持続可能な方法で生産された水産物に対する表示(水産エコラベル認証)としては、MSC認証(漁業向け)、ASC認証(養殖業向け)、MEL認証(両方)があるが、これらは個々の漁業者や流通加工事業者単位で取得することが前提となっている。
 
 つまり、極論すれば、非常に意識の高い人がいて、個人レベルで「私の食卓は、100%認証付きです」と主張することは可能だが、その場合、「100%サケのみ」になってしまうかもしれないのである。実際、北欧でMSC認証が浸透している背景として、ニシンやタラなど食べる魚種がもともと限定的だったということが指摘される。
 水産エコラベル認証開発の背景は、水産資源を乱獲から守ること、漁業による海洋環境への負荷低減の必要性が高まったことがあり、こうした観点での活動や透明性確保の重要性はいうまでもない。しかし、食文化の多様性がもたらす魅力や、地域における生業の維持といった観点も、何らかの形で評価されるべきではないだろうか。

 最近は、物価高の影響により、価格を重視せざる得ない消費生活を強いられる側面もあるが、地産地消な食品は輸送コストがかからないというメリットも本来ある。筆者は最近、アイゴ(磯焼けの原因とされる未利用魚のひとつ)の干物を購入してみたが、購入できる機会があってこその、新たな体験だった。多様なタンパク源を扱っている小売や外食、それを支えるサプライチェーン、多様な魚介類に挑戦してみようという消費者の食べる力、それらの総合力を、是非、発揮できる流通市場にしたい。生物多様性の観点からも、色々な種類を必要な分だけ、獲れる範囲で食べる、そのような食卓の維持・発展を見通したいものである。

(注1)農林水産省「令和3年度食料需給表」の肉類、牛肉、豚肉、鶏肉の1人1年あたり粗食料より算出
(注2)総務省「家計調査」2022年計 家計収支編 第10表 総世帯・平均より算出


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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