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農産物の価値訴求を通した適正価格確保の重要性

2023年04月11日 三輪泰史


 農業を取り巻く環境が大きく変化する中、農林水産省主導で食料・農業・農村基本法の検証が進められている。
 検討の柱の一つが環境面である。農林水産省のみどりの食料システム戦略では、2050年までに農林水産業のCO2ゼロエミッション化、有機農業の取組面積の割合を25%(100万ha)に拡大、化学農薬の使用量(リスク換算)の50%低減、化学肥料の使用量の30%低減を実現するという目標を掲げている。もう一つの重要な焦点が食料安全保障である。気候変動に起因する農業大国における不作、新興国の食料需要の急増、ロシアのウクライナ侵攻などにより食料の需給が逼迫しており、円安の影響も相まって輸入農産物の価格高騰が問題となっている。このような食料安全保障リスクに対して、ポテトチップス用の馬鈴薯のように需要が高い品目における国産品の生産のテコ入れを行っている。基本法の見直しにおいては、これらの実現に向けた方針等が盛り込まれると考えられる。
 環境配慮と食料安全保障の2つは別々の課題ではなく、相互に関連している。例えば、肥料価格の高騰対策として、ドローンや人工衛星によるセンシングデータを活用した適正施肥(過剰施肥の回避)や、国産の有機堆肥の活用推進などが推進されているが、これらは同時に環境負荷低減にも大きく貢献している。個別の法律や戦略を基に推進するよりも、基本法で大きな方向性を定めた方が、連携した施策を講じやすくなると期待されている。
 このような環境や食料安全保障に関する取り組みを加速させるためには、それを実施することが農業者の利益増加に直結することが欠かせない。しかし現状は、例えば有機農業の場合であっても、十分な利益を確保できていない農業者が散見される。環境、地域、食料安全保障等に配慮した農業を営む農業者の利益向上には、①消費者への価値訴求による単価向上、②カーボンクレジット等の副次的収入の獲得、③補助金の受領、④コスト削減、といったアプローチが選択肢となるが、いくら環境や社会のための取り組みとはいっても補助金で支えられる範囲には限界がある。やはり、基本的には、農産物の価値を消費者に伝え、適正価格を維持することを軸にすべきである。
 国産の有機堆肥を活用した農産物を例とすると、まずは味や栄養素等の品質向上による価格向上がベースとなる。加えて、環境配慮や食料安全保障リスク低減や地域振興といった価値を消費者に訴求し、それによって単価を高めることが重要となる。農林水産省では、GHG排出量の見える化や生物多様性保全の取り組みの見える化に関する取り組みを推進しており、実証事業を通した効果検証が行われている。
 農産物の価値訴求のためには価値源泉となる情報を消費者に適切に伝えることが不可欠であるが、一方でさまざまな情報を取得・加工・伝達するのは農業者にとって大きな負担となってしまうため、デジタル技術の有効活用が求められる。農業分野のデジタルトランスフォーメーション(スマート農業)の普及に伴い、現場の動画やセンサー情報等、伝えられる情報の量・種類が格段に増えている。それぞれの農産物の特徴やターゲットとする消費者層によって、どのような価値を伝達するのが効果的かは異なる。デジタル技術を活用した複合的な価値表現手法を構築した上で、状況に応じて柔軟に価値訴求できる仕組みが求められる。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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