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DX が拡張する博物館機能と収益機会 ~収蔵品の NFT 化やデータ活用が鍵~

2022年10月01日 山崎新太


博物館等での DX 展開は 4 つの視点から検討
 2022 年4 月、約70 年ぶりに博物館法が大幅に改正され、博物館や美術館(以下「博物館等」)が行う事業に「博物館資料(収蔵品や文献資料等)のデジタルアーカイブ化と公開」が追加された。ただし博物館等が収蔵する資料やファンの属性は多様であり、DX の方向性もデジタルアーカイブの作成や公開だけでなく、幅広くあると考えられる。
そこで本稿では、①収集・調査研究、②展示、③教育普及、④施設運営の 4 つの視点から、博物館等における DX の可能性を概観する。

①収集・調査研究
 文化遺産オンラインが目指すように、デジタルアーカイブは作成・公開のほか、全国の博物館等での共有化や研究データの蓄積に活かすことが肝要である。そのためデータ形式の共通化とクリエイティブコモンズの適用を行い、少なくとも公立博物館等のデータを統合することが望まれる。
 別の方向性としては、収蔵品データのNFT の売買が考えられる。例えば、著作権(複製権・公衆送信権等)が失効した、仏像などコアなファンを持つ収蔵品のデータを NFT 化することで、博物館等の新たな収入源になる可能性がある。既に大英博物館では、所有する葛飾北斎作品のデジタル画像の NFT を 2021 年に販売している。
 NFT アートに歴史的・学術的な価値が認められるようになれば、博物館等が NFT アートを購入することになろう。NFT 鳴門美術館やシアトルNFT ミュージアムのようにNFT アート専門の博物館等も現れてきており、今後は博物館等がNFT アートを収集する際のルールを整理する必要がある。

②展示
 収蔵品や文献資料のみならず、展覧会自体もデジタルアーカイブの対象となる。森美術館ではコロナ禍による休館後、すぐに展覧会の VR データを作成・公開した。また、弘前れんが倉庫美術館では、全ての展覧会を VR データでアーカイブしている。同美術館における実証事業「VR ミュージアム」では、VR によるバーチャルな鑑賞体験の提供が博物館等のサービスの多角化や新たな収益源の創出に寄与する可能性が示唆された(※1)
 全国の過去の展覧会データが蓄積・共有され、誰もがアクセスできるプラットフォームの構築も必要となる。EU のヨーロピアーナや日本の文化遺産オンラインなどは今のところ「モノ」のアーカイブであるが、展覧会という「一回性のコト」のアーカイブは、文化芸術の時代性を伝えるという別の重要な機能を持つからである。
 評価の高い展覧会の場合、展覧会データの売買も考えられる。ただし、著作権の扱い等についてのルール整備が必要となる。また、展覧会データの固有性を証明するため、NFT 化の検討も欠かせない。
 展覧会をメタバースで開催することも考えられる。2022 年8 月には、金沢 21 世紀美術館では企画展と連動するかたちでメタバースミュージアムが開催された。

③教育普及
 コロナ禍において、オンラインでのコンテンツ配信は利用者との新たなタッチポイントとして急速に広がった。東京国立博物館には 5,000 回程度視聴されているコンテンツもある。博物館等はとかく来館者数で評価されがちであるが、今後は来館者数だけではない KPI が必要となる。

④施設運営
 コロナ禍以降、来館者数の管理のために普及したウェブチケットと予約制によって、来館者の個人情報を入手できるようになり、それらを活用したデータマーケティングが可能となった。民間の小売店舗等と同様に、博物館等も来館者の属性をリアルタイムに把握することで、適切なプロモーション戦略を立てられる。また、来館者属性は、博物館等への協賛金を募る際にも有効なデータとなるはずである。

公立博物館等の DX は幅広い業界との官民連携で実現
 これらの取り組みは民間企業や私立博物館等が先行している。DX を前提とした博物館等の実現には、ハード(施設)、ソフト(運営)、デジタルの融合が欠かせないため、公立施 設の場合、官民連携で取り組むことになる。
 これまで連携してきた建設系企業(設計事務所、建設会社、展示会社)や運営企業(維持管理会社、運営会社)に加え、IT、NFT、メタバース、デジタルマーケティングなど幅広い業界との官民連携によって、デジタル時代の博物館等として生まれ変わることができるであろう。

(※1) 「VRデータで見る展覧会」の鑑賞者調査結果について (ニュースリリース/2022年9月28日)

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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