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日本総研ニュースレター 2022年9月号

グローバル市場における日本農業の 3 つの稼ぎ方

2022年09月01日 三輪泰史


「輸出」がグローバル市場で稼ぐための基本的な柱
 近年、農業の成長産業化に関する政策が推進され、儲かる農業を実現した農業者が各地で出現し、農業の総産出額も長期的な下落傾向に歯止めがかかった状況にある。農業に対する注目度が高まり、企業の農業参入の増加やIoT・AI・ロボティクスを駆使したスマート農業の実用化等につながる等、農業再生に向けた萌芽が出てきている。
 一方、国内では、高齢化による一人当たり消費量減少と人口減少の掛け合わせによって、市場が急速に縮小するこ とが危惧されている。そのような中、国内農業の新たな成長源として期待されるのが、急拡大するグローバル市場である。アジアの新興国を中心とする高品質な農産物の需要の高 まりは、日本にとって大きなチャンスとなっている。
 グローバル市場での稼ぎ方には、輸出、インバウンド消費、現地生産現地販売の3 つがある。基本的な柱は農林水産物の輸出である。政府の積極的な輸出拡大政策の下、輸出先の規制に合わせた施設整備や栽培・製造方法の見直し、地域や業界が一丸となったマーケティング等に取り組んだ結果、2012 年に 4,497 億円であった輸出額は、2021 年に 12,385 億円と 1 兆円の大台を突破した。新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)の影響もあり、当初目標からは1 年遅れたものの、10 年弱で2.5 倍以上に急増した。コメ、茶、和牛、ホタテ等の農林水産物に加え、日本酒やジャパニーズウィスキーも海外で高く評価されている。農林水産省は順調な輸出拡大を受け、2025 年に 2 兆円、2030 年に 5 兆円という新たな目標を設定した。10 年間で 5 倍という非常に高いハードルだが、この規模になると多くの農業者が輸出による収入増加を実感できるレベルとなる。

インバウンド消費には農林水産物の良さを伝える役割も
 二つ目がインバウンド需要である。海外からの訪日観光客の日本国内での農産物の消費も、大きな収入源となってきた。輸出の場合には農林水産物を海外に輸送するが、インバウンド消費の場合は海外の消費者が日本に来るものであり、疑似的な農産物輸出と捉えることもできる。輸送費がかからず、かつ鮮度が落ちないことから、日本の農林水産物の良さを海外の消費者に最も直接的に伝えられる手法である。観光庁の統計では、観光客が訪日に当たって期待する事項の最上位が「日本食を食べること」となっている。
 COVID-19 の拡大前の 2019 年には年間3,000 万人以上の観光客が訪日しており、訪日中の飲食費支出は約1 兆円にも達していた。だが、COVID-19 の拡大を受けた入国制限の強化で、海外からの旅行客がほぼ途絶えており、残念ながらインバウンド消費は大きく落ち込んでいる。

スマート農業技術が現地生産・現地販売モデルを実現
 第三の柱として注目度が高まっているのが、日本の農業技術を活用して海外で現地生産・現地販売するモデルである。日本総研では「日本式農業モデル」と命名し、アジア各国でのプロジェクト立ち上げを支援してきた。ただしこれまでは、技術指導に長時間を要することや、技術の持ち逃げリスクに備えるため、大規模展開は難しかった。
 それが IoT、AI を活用したスマート農業技術により、遠隔からでも効率的に技術指導できるようになった。日本に居ながら、現地の栽培環境を気象・土壌センサーからリアルタイムで把握したり、温室の空調設備や自動運転農機を操作したりすることで、海外でも日本に近い水準の栽培を行える。
 スマート農業は、技術持ち逃げリスクの低減にも効果を発揮する。農業生産支援アプリや環境制御システム等ではクラウドでデータの管理・分析を行うものが多く、現地側からの指導料・ライセンス料の支払いが遅滞した場合、アプリ・システムへのアクセスを制限することで、ノウハウ流出を止める仕組みとなっている。
 日本の農林水産物は世界から価値が高く評価される一方でビジネスでは遅れをとってきたが、輸出拡大を筆頭に目に見える成果が出始めている。いち早くグローバル化が進んだ製造業と同様に、日本の農業もグローバルで稼ぐ時代に突入した。特に、目下の円安下においては、海外で稼ぐことの重要性は一層高まっている。高い技術・ノウハウ・経験を用いて国内外の市場を攻略することが、日本農業が今後30 年、50 年と続いていくための鍵となる。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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