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カーボンニュートラル達成の次なる一手 ‘洋上風力’
~洋上風力の電気調達に向け需要家企業だからこそできること~

2022年09月20日 早矢仕廉太郎段野孝一郎佐藤悠太、中村佳央理


はじめに
 本ホワイトペーパーは、RE100やカーボンニュートラル達成に向けて、クレジットやコーポレートPPA等電力利用に係るさまざまな手段を講じている需要家企業向けに執筆したものである。
 洋上風力は、これまで発電事業者の切り口から語られることが多く、電力事業に直接関わらない企業には遠い存在であった。一方、洋上風力の公募制度の変更やFIP(Feed-in Premium)制度の本格運用など洋上風力を伴う事業環境が変化する中、今後洋上風力を含む発電事業者と需要家企業が電力の契約に関して直接交渉する機会が増えていくだろう。
 本ペーパーでは、洋上風力の魅力、洋上風力の電気を調達する手法、そして、調達するにあたり必要となる公募参画の際の留意点を説明する。本ペーパーが、需要家企業のカーボンニュートラル達成に役立つことを願う。

1章 需要家企業にとっての洋上風力の魅力

 カーボンニュートラル、脱炭素、グリーンイノベーション。昨今、エネルギーに関するさまざまなパワーワードが飛び交っている。需要家企業にとっても、近年、事業活動する上で無視できない話題だが、最近は「洋上風力」を見聞きする機会が増えている。この「洋上風力」については、自社の事業活動にどのように関わってくるのかイメージのつかない方も多いのではないか。本章では、エネルギー分野に関連の少ない需要家企業も含め、再エネ由来の電気(以下、再エネ電気)の調達をもくろむ企業に対して、洋上風力の魅力を説明する。

企業が置かれた電力調達環境
 企業の電力使用を巡る環境は、ここ数年で一変した。RE100(※1)やSBT(※2)等の国際イニシアティブへの対応、コーポレートガバナンスコードの改定により、化石燃料由来の電力を使うことに対する外部の目は日に日に厳しさを増している。加えて、昨今のウクライナ情勢を背景とした電力価格の高騰も、電力を大量消費する企業にとっては大きな悩みの種となっている。こうした状況から、海外からの輸入に頼る石炭やLNG由来の電気よりも、国内で発電する再エネ電気の方が相対的に安価になることも多く、企業の再エネ調達ニーズは年々高まっている。

安定かつまとまった量を調達できる洋上風力
 こうしたニーズに対して企業がとり得る施策としては、電気とともに非化石証書を購入してCO2をオフセットする手法が短期的には有効だが、レピュテーションリスクを懸念する企業もある。こうした懸念を解決しつつ、安定的に再エネ電気を調達する手法として、特定の発電所の再エネ由来の電気を実質的に直接取引する「コーポレートPPA」への注目が集まっている。
 コーポレートPPAとは、需要家企業が発電事業者と10年以上の長期間の契約を実質的に締結することで、安定かつまとまった量の再エネ電気を調達するスキームである(※3)。代表例としてAmazon社と三菱商事グループの取り組みが挙げられる。Amazon社は、三菱商事グループが保有する大量の太陽光から発電される電気をコーポレートPPAの手法を通じて調達し、RE100の達成を目指している。
 一方、調達手法としてのコーポレートPPAがどれだけ普及しても、調達できる再エネ電気が太陽光だけでは、需要家企業のニーズは完全には満たされない。わが国の主たる再エネである太陽光発電は、近年適地の減少に伴い数十MW以上の大規模電源の新規建設は難しくなっている。工場やデータセンター等大量の電気を使う需要家企業にしてみれば、大規模の再エネ電気を調達する手段は限られてきている。また、太陽光発電が発電する時間帯は、日中の時間帯となり、一日を通じて電気を利用したい企業にとっては、利用できる時間に制約があるという課題もある。
 このような状況の中、将来的に大規模な再エネを安定的に調達できる数少ない選択肢が、洋上風力である。洋上風力は、現時点でも少なくとも1サイトで200MW、将来的には1GW級の発電所の建設も見込まれており、十分に大規模である。洋上風力の平均的な設備稼働率(35%程度)を踏まえれば年間6~30億kWhの電力量を見込むことができ、超大型のデータセンターの電力需要も1サイトで賄うことができる。また、洋上風力は、自然に左右はされるものの、夜間も発電することができるため、一日を通じて安定して電気を使う需要家企業にとっても使い勝手がよい。
 一日を通じて電気を大量に消費するデータセンターや工場を有する需要家企業はもちろんのこと、電気料金の増加に頭を悩ませる需要家企業にとっても、洋上風力は魅力的な電源と言えるであろう。



2章 洋上風力開発と地域貢献の関係

 洋上風力の開発では、一般的な電源の開発プロセスに加え、国が定めた公募プロセスを経る必要がある。この公募で占有事業者として選定されない限り洋上風力の開発を行うことはできない。本章では、洋上風力開発において公募制度が設立された背景やその仕組みとともに、公募で選定されるために重要となる地域貢献や電力のオフテイクの考え方について説明する。

公募制度の設立の経緯
 わが国では、2007年の海洋基本法制定に端を発し、総合的な海洋政策の立案・施行が進められてきた。2010年には、菅政権が定めた「新成長戦略」の中で、「漁業協同組合との連携等による洋上風力開発の推進等への道を開く」と明記され、洋上風力導入拡大に向けて、漁業組合等の先行利用者との調整や地域共生の重要性が示された。
 その後、2012年には、国土交通省・環境省から、港湾区域を対象にした「港湾において風力発電の導入を円滑にするマニュアル」が共同発表され、再エネ海域利用法の検討プロセスの原型が示された。同じく同年に水産庁から「再生可能エネルギー(風力発電施設)の導入について」が公開され、地元漁業組合等との間で意見交換を行うための「地元協議会」の設置に関して言及され、洋上風力と地域共生の実現を図るための枠組みが示されてきた。
 その後、2017年に第1回再生可能エネルギー・水素等関係閣僚会議において「再生可能エネルギー導入拡大に向けた関係府省庁連携アクションプラン」が決定され、2017年度内に一般海域利用のルール化の検討を行うこととされた。その後は、「再生可能エネルギーの大量導入時代における政策課題に関する研究会」、「再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会」において立地制約を含む洋上風力発電の導入施策の議論が進む傍ら、内閣府において再エネ海域利用法の法案準備が進められ、一般海域を対象とした洋上風力の公募区域指定、地元協議会による調整の枠組み、公募による事業者選定の考え方などを定めた「再エネ海域利用法」が成立するに至った(2018年11月)。



洋上風力公募における事業者選定の仕組み
 再エネ海域利用法に基づく洋上風力公募における事業者選定の仕組みは次の通りである。まず政府は、「海洋再生可能エネルギー発電設備整備促進区域指定ガイドライン」に基づき、各海域の海域情報、地元関係者との調整状況を収集し、より具体的な検討を進めるべき区域を「有望な区域」として指定する。有望区域指定後、対象海域では地元協議会が組成され、地元利害関係者が促進区域案に関する合意形成を行う。その後、促進区域案に関する公告・意見聴取、関係行政機関の長への協議、関係都道府県知事・協議会の意見聴取を踏まえ、経済産業省および国土交通省が促進区域を指定する。促進区域指定が行われた後、洋上風力事業者の公募要綱等が公表され、6カ月の公募期間の後、各事業者の提案は第三者委員会(地域と密接に関係する事項は立地地域の都道府県知事の意見を最大限尊重)によって評価される。第三者委員会での評価を踏まえ、経済産業大臣および国土交通大臣が海域を占用する洋上風力事業者を選定する。(公募基準の詳細は後述)。

諸外国と比較したわが国の制度のポイント
 洋上風力導入において、欧州等の諸外国でスタンダードとなっている手法は、いわゆる「セントラル方式」と呼ばれるものである。具体的には、政府が長期的・挑戦的な導入目標を掲げた上で、洋上の開発区を定め、系統接続や各種許認可など必要な手続きを国が済ませた上で、そのエリアでの発電事業者を入札で決める仕組みである。この仕組みの導入は、事業者の開発リスクが低減するとともに、入札価格の多寡が勝敗を分けるため、事業者の入札価格の競争を促す効果がある。再エネ大量導入小委等の議論においても、「政府等が導入計画を明確化し、環境アセスメントや系統接続等の立地調整を主導することで事業者のリスクを軽減する仕組み(いわゆる「セントラル方式」)が、発電コスト低減のための競争が有効に行われている。」と記され、そうした手法が日本においても競争促進、事業予見性確保、発電コスト低減の観点から有効ではないかと論点提起された。
 しかし、2007年からの議論の積み重ねで強調されてきたように、①一般海域においては漁業権者等のさまざまな先行利用者が存在する一方で有効な調整の枠組みが存在しない、②それによって一般海域の占用に関する統一的なルールがない、といった、欧州等の諸外国とは異なる課題を日本は抱えていた。この解決には、個々の海域ごとに洋上風力導入事業者と地域の先行利用者との間で調整を図ることが必要との問題意識の下、公募を実施する海域ごとに地元協議会を組成して合意形成を図る仕組みが導入された。欧州等のセントラル方式がトップダウン型であることに比べると、日本の再エネ海域利用法は、海域ごとの事情をボトムアップ型ですくい上げ、海域ごとに解決を図っていく、という姿勢が見て取れる。
 また、地域共生を重視する姿勢は、洋上風力発電事業者を選定する際の配点にも現れている。全体配点240点のうち、定量評価(=入札価格/発電コスト):120点、定性評価(事業の実施能力+地域との調整・地域経済等への波及効果):120点となり、定性評価も重視する方針が打ち出された。加えて、定性評価120点の内訳としては、港湾区域洋上風力プロジェクトの1つである響灘プロジェクト(※4)を参考に、定性評価に占める地域との調整・地域経済等への波及効果の配点は40点とされた(定性評価の33%を占める)。
 このように、入札価格を重視する欧州等と異なり、地域共生を重視する点も日本の再エネ海域利用法の特色と言えよう。



評価基準の変更によりさらに重要となる非価格要素
 2018年に制定された再エネ海域利用法に基づき、本稿執筆時点で4件の公募が行われている。最初の1件(長崎県五島市沖)こそ応札陣営は1陣営のみであったが、続く3件(秋田県能代市、三種町および男鹿市沖、秋田県由利本荘市沖、千葉県銚子市沖)では複数陣営による競争が発生し、最も競争力のある入札価格を提示した陣営がすべての海域で落札者となった。入札価格の高低が優勝劣敗を決めたことに対して、発電計画の実現性や地域貢献の魅力度といった非価格面の要素が軽視された、早期稼働が適切に評価されていない等評価基準に不備があった、との批判が少なからず出た。これを受け、政府は、エネルギー政策上、洋上風力発電の早期稼働を促す観点から公募指針の改訂を行うこととし、現在、検討が進められている。
 公募指針改訂後も、「地域との調整・地域経済等への波及効果」には引き続き40点が配点される見通しであり、地域共生の重要性は不変である。加えて、「電力の安定供給」では、「サプライチェーン形成について、国内産業育成の観点を評価すべき」という声もあり、国内および地域企業を組み込んだサプライチェーンがより評価される傾向になるだろう。「事業計画の基盤面」、「事業計画の実行面」においても、当該海域において必要な許認可取得や地元調整を行う基盤(実施体制)、それを踏まえた事業計画がより評価される傾向となり、それらの結果として「事業計画の迅速性(運転開始時期)」を早期に設定できた事業者が評価される、という構造になる。

FIP制度の適用により重要性が高まる需要家企業の役割
 さらに、次回以降の洋上風力公募においては、FIP(Feed-in Premium)(※5)への移行が図られる可能性が高い。FIT制度では、一般送配電事業者が発電した電気を無条件で購入するため、販売先が倒産する等の理由から販売先を確保できず電気を販売できなくなるリスク(オフテイクリスク)を発電事業者が負うことはなかった。一方、FIP制度では、こうしたオフテイクリスクを発電事業者が負うことになり、リスクが顕在化した場合、大きな売電収入の減少を招く。そのため、FIP制度を前提とした洋上風力公募においては、オフテイクリスクをヘッジするため、あらかじめ需要家企業を確保し、収益を安定化させることが重要となる。1海域当たり最大500MWという洋上風力の規模を考えると、1企業への供給だけで電力を売り切ることは難しく、再エネ調達を志向するサステナビリティ先進企業や外資系企業などの需要家企業への電力供給に加え、当該企業の誘致、地元企業や公共施設・地域新電力への供給なども視野に入ってくるだろう。 

3章 洋上風力の電気を調達する手法

 1章では洋上風力の電気の魅力、2章では洋上風力の公募の仕組み、を説明した。2章で述べた通り、洋上風力の公募制度が変わる中、発電事業者にとっては需要家確保が重要な論点となってくる。こうした点を踏まえ、本章では、魅力的な洋上風力の電気を、需要家企業が手に入れるための具体的な方法を紹介する。

公募参加時点から関与することが重要
 まず考えられるのは、選定された洋上風力発電事業者から電力を買い取ることである。しかし、今後は公募の仕組み上、事業計画段階で需要家と綿密に協議・交渉することが想定される。このため、発電事業者が落札した後に当該発電事業者に対して電力供給を打診しにいくのでは、既に買い手が決まっており、交渉は不調に終わることが予想される。すなわち、洋上風力の電気を手に入れるためには、公募が実施される時点で、なんらかの形で応札参加者として名を連ね、落札時点で電力供給を確約する形に持ち込むことが重要となる。

 洋上風力の開発・実現にはさまざまな能力が求められるため、その各能力を有する複数の企業が集まりコンソーシアムを組成して入札することが一般的である。こうした中で、電力事業のノウハウを持たない需要家企業は、どのようにしてコンソーシアムに参画できるのだろうか。

魅力的なオフテイカーとなるか、魅力的なパートナーとなるか
 コンソーシアムへの参画手段は大きく2点ある。一つは、前で述べたように自分たちが魅力的な電力の買い手となることだ。洋上風力が生み出す電気は大規模であるため、発電事業者は、電気が売れ残るリスクを抱えやすい。そのため、工場やデータセンター等大量かつ安定的に電気を使う需要家企業との契約を好む傾向にある。大量かつ安定的に電気を使うような需要家企業は、有利に交渉を進めることができるだろう。一方、こうした需要特性を持つ企業は多くない。
 次に、高く買うことでも、魅力的な買い手になり得る。2章で説明した通り、FIP制度の適用で発電事業者が実際に受け取る収益は、入札価格(下図では15円/kWh)ではなく、需要家企業が購入する価格と政府から受け取るプレミアムの合計(下図では17円/kWh)になる。発電者事業者は、高い価格で買い取る契約先を確保することで、入札価格の引き下げによる価格点向上、あるいは、収益性確保による定性点向上等で公募を有利に進めることができる。



 もう一つのコンソーシアムへの参画手段は、魅力的な地域貢献の材料を提供することだ。先述した通り、洋上風力の公募では、発電事業の巧拙だけでなく、魅力的な地域貢献策を提案できるかが評価を左右する。公募対応を主導する発電事業者は、地域貢献に資するケイパビリティを必ずしも持っているわけではない。洋上風力開発を取り巻く、発電、建設、機械、メンテナンスなどB to B のビジネスを展開してきた事業者が多く、地域貢献に欠かせない地元住民に寄り添った提案が不得手なケースが散見される。こうしたコンソーシアムに対して、彼らの不得手とする部分を補える地元住民に寄り添ったソリューションを提供できるのであれば、地域貢献策の魅力度向上に大いに貢献できよう。こうした貢献を通じて電力価格の交渉にて有利な条件を引き出せるようになる可能性がある。

4章 洋上風力公募における地域貢献策

 前章で、需要家企業が洋上風力発電事業者のコンソーシアムに参加するポイントとして、地域への貢献をあげた。地域貢献の提案については立地する海域の都道府県の意見が最大限尊重される仕組みとなっている。本章では、洋上風力の公募において、これまで提案されてきた具体的な地域貢献策を紹介する。
 洋上風力公募で事業者が提案し得る地域貢献策は、産業振興策(B to B施策)、生活支援策(B to C施策)、漁業共生策の3類型に大別できる。以下では、産業振興策(B to B施策)、生活支援策(B to C施策)として、考えられ得る施策について述べる。

産業振興策(B to B施策)
 産業振興策としては、洋上風力発電事業における地元企業活用、拠点港整備による関連産業拠点形成などの洋上風力産業振興策、再エネを活用した企業誘致など新産業誘致策、洋上風車と既存の観光資源を組み合わせた観光振興策、その他基幹産業などの地場産業振興策などが挙げられる。
 例えば、秋田県三種男鹿沖、由利本荘沖、千葉県銚子沖の3海域の公募を総どりした三菱商事陣営は、キリンホールディングスと連携した観光人材の育成策や、Amazonの商流を活用した地産品の販路拡大策を提案して高評価を獲得した。公募に入札する発電事業者自身でできることが限られる中、三菱商事陣営は自社以外のパートナーとうまく連携して提案の厚みを持たせた格好だ。こうした外部パートナーと連携した提案は、内容に迫力や現実性が増し、評価者である自治体からも高い評価を得られると考えられる。



生活支援策(B to C施策)
 生活支援策としては、再エネ電気の地産地消、非常時の避難所への電力供給など住民への電力供給、生活に必要なサービスや拠点の整備など地域課題の解決や生活の質向上に資する施策などが考えられる。
 洋上風力だからと言って、それに関連する電力インフラに限った提案だけではやや物足りない。とりわけ洋上風力の適地は、多くの場合人口減少などに悩む地域と重なっており、地元自治体には人口増加や活性化につながるような生活支援に対する切実なニーズがある。地域のニーズに合わせた生活インフラの拡充策まで踏み込むことで、評価者の琴線に触れることができるだろう。また、地域の課題解決の観点からは、生活インフラだけでなく、娯楽性を高める施策や地域のコミュニティ形成につながる施策などを提案する事業者も今後生まれてくるのではないか。



先行事業での状況および今後の展望
 洋上風力産業振興や観光振興など産業振興策は、先行する海外の洋上風力発電事業でも事例が多数存在する一方で、生活支援策の地域貢献策の事例は少ない。これは、3章でも述べたように、洋上風力の公募主導する発電事業者の多くがB to Bのビジネスを手掛ける企業であり、B to C施策の企画立案・実行ノウハウに乏しいことが主な要因だと考えられる。
 発電事業者の出自を理由に、生活支援策の手薄な提案で地域を満足させられるかというと、そうはならない。洋上風力発電事業を契機に、産業振興や雇用創出のみならず、地域課題の解決や住民生活の利便性の向上を自治体がもくろむ以上、そのような視点が盛り込まれた提案が高く評価されることになる。また、提案事例が広く知れ渡っているB to B施策はどのコンソーシアムの提案も酷似することが想定される。そうした中、地域にとって有効性の高いB to C施策を、実効性を担保した提案に仕立てられれば、公募評価上大きな差別化につながると考えられる。今後、公募に参加する発電事業者にとって、B to C施策を得意とする需要家企業との連携により、B to C施策を充実させることが公募を勝ち抜く上で有効な手段となるだろう。 

5章 洋上風力公募に参画する際の留意点

 前章で述べたようにわが国の公募制度では、地域との共生が重視され、事業者の選定評価の一部には自治体が関与する。また、事業者に選定された後も、自治体、漁業者等の地域関係者と協議して計画を進めることが求められる(※6)等、地域との関わりは切っても切り離せない。こうした地域との関わりを重視する洋上風力発電事業の公募に取り組む上では、過去の官民連携プロジェクトの公募が参考になる。
 官民連携プロジェクトの定型の一つとしてPFI事業が挙げられる。当社は、PFI事業がわが国に導入されて以来、自治体側の支援を多数実施してきた実績を有する。
 本章では、地域・自治体の側からいくつもの公募提案を審査し、優先交渉権者の選定を支援してきた経験・視点から、洋上風力の公募に参画する際の留意点を紹介する。

過去のPFI事業でも地域貢献策の巧拙が勝敗を左右
 PFI事業とは、公共施設の整備、運営等を、公費の投入を前提とし、包括的に民間事業者に委ねる手法である。この背景から、当初はいわゆる儲からないハコモノをターゲットした事業手法であったが、近年は空港、アリ―ナ、発電施設など、収益を生む施設への適用も増加しつつある。
 このような収益を生む施設の整備・運営を対象としたPFI事業においては、事業の実現性と、地域への貢献が強く求められる傾向にある。
 例えば、日本総研が鳥取県のアドバイザーを務めた「鳥取県営水力発電所再整備・運営事業」においても、こうした傾向が顕著に表れた。当該事業では、応募企業7者から第一次審査にて4者を選定し、第二次審査を経て優先交渉権者を選定する方式を採用した。その中で、二次審査においては、実施体制や収支計画に対する評価を含む「確実な事業遂行体制に関わる審査事項」と、地域への貢献を評価する「地域経済の発展への寄与に関わる審査事項」が、ともに、300点中、60点配点されていた。
 優先交渉権を獲得した丸紅子会社の三峰川電力Gは、エネルギー系事業者が得意とする発電所の整備、運営に関わる事項について着実に点数を獲得していることに加え、「確実な事業遂行体制に関わる審査事項」「地域経済の発展への寄与に関わる審査事項」についても他の3者より優れた提案を行ったことにより、公募に勝利することができたのである。 



地域が抱える課題に対して刺さる提案を
 地域貢献策の提案にあたっては、自治体が公表するマスタープラン等の計画から、行政が実現したい絵姿をくみ取り、地域が抱える課題を把握した上で、適切なソリューションを提供することが重要である。
 地域が抱える課題は、エネルギー、少子高齢化、医療、交通等多岐におよび、自治体によっても悩みの種類は多様であり、その軽重もさまざまである。したがって、公募への提案に際しては、地域の抱えるすべての課題に対して何ができるかを考えるのではなく、地域の抱える重要な課題の一つにフォーカスをあてて、地域やエネルギー事業者だけでは実現できない、自分たちがいるからこそできることを提案する姿勢が大事になる。需要家企業がエネルギーのプロが集まるコンソーシアムに参画し、存在感を持って役割を果たすためには、こうした参画の仕方が成功のコツとなるだろう。

6章 おわりに

 本ホワイトペーパーは、当社がこれまで洋上風力に関する支援を行ってきた経験を踏まえ、これから大きな成長が見込まれる洋上風力において、これまで関与の少なかった需要家企業にも、洋上風力の魅力、関与の必要性を感じてほしいとの思いから執筆した。
 本ペーパーを通じて、洋上風力の電気がカーボンニュートラルの達成に重要であること、洋上風力の開発に地域貢献が欠かせないものであり、需要家企業のケイパビリティの活用が有効であること、を広く需要家企業に認識いただくとともに、これまで関心のなかった需要家企業が洋上風力に前向きに取り組むきっかけとなることを期待する。


【著者】

早矢仕 廉太郎
リサーチ・コンサルティング部門
環境・エネルギー・資源戦略グループ
マネジャー

段野 孝一郎
リサーチ・コンサルティング部門
環境・エネルギー・資源戦略グループ
ディレクタ/プリンシパル

佐藤 悠太
リサーチ・コンサルティング部門
地域・共創デザイングループ
シニアマネジャー

中村 佳央理
リサーチ・コンサルティング部門
地域・共創デザイングループ
コンサルタント

株式会社日本総合研究所について
日本総合研究所は、シンクタンク・コンサルティング・ITソリューションの3つの機能を有する総合情報サービス企業です。「新たな顧客価値の共創」を基本理念とし、課題の発見、問題解決のための具体的な提案およびその実行支援を行っています。ITを基盤とする戦略的情報システムの企画・構築、アウトソーシングサービスの提供をはじめ、経営戦略・行政改革等のコンサルティング、内外経済の調査分析・政策提言等の発信、新たな事業の創出を行うインキュベーション等、多岐にわたる企業活動を展開しています。
ホームページ:https://www.jri.co.jp/company/

本ホワイトペーパーに関するお問い合わせ先
株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 早矢仕 廉太郎
〒141-0022 東京都品川区東五反田2-18-1 大崎フォレストビルディング
 E-mail: rcdweb@ml.jri.co.jp

(※1) 「Renewable Energy 100%」の略称で、事業活動で消費するエネルギーを100%再生可能エネルギーで調達することを目標とする国際的イニシアチブ
(※2) Science Based Targetsは、パリ協定(世界の気温上昇を産業革命前より2℃を十分に下回る水準(Well Below 2℃)に抑え、また1.5℃に抑えることを目指すもの)が求める水準と整合した、5年~15年先を目標年として企業が設定する、温室効果ガス排出削減目標
(※3) 海外諸国では、発電事業者と電力を使用する需要家との間で直接契約することが可能であるが、日本では、電気事業法の制約により、原則電力を販売する小売電気事業者を介する必要がある。
(※4) 響灘洋上風力発電施設の設置・運営事業者の公募について - 北九州市 (kitakyushu.lg.jp)
(※5) 発電事業者が卸市場などで売電したとき、その売電価格に対して一定のプレミアム(補助額)を上乗せする仕組み
(※6) 2022年4月、再エネ海域利用法に基づき建設する洋上風力発電として、国内で初めて公募占用計画の認定を受けました五島フローティングウィンドファーム合同会社は、その後、同年8月に長崎県五島市沖における協議会に参加し、事業を実施する上で留意すべき内容の説明を実施している。
以上

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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