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【北京便り】
グリーンオリンピックに貢献する水素エネルギー

2022年02月22日 王婷


 北京冬季オリンピック開会式典が2月4日夜に行われました。トーチからどのように聖火台に火を移すかは、毎回、オリンピック開会式典のハイライトですが、今回の点火方式は一味違ったと、驚きとともに話題になっています。若い男女二人のアスリートが、トーチを持ち、点火台にのぼり、トーチを各国の名前で構成された大きな「雪の花」の真ん中に差し込んで、小さな炎がそのまま聖火になりました。

 開会式後、式典の総指揮者であり、中国著名な映画監督であるチャン・イー・モウ氏がテレビインタービューに対して、「点火しない聖火」は独創的なスタイルで、オリンピック100年の歴史にはなかったこと、低炭素・環境保護を重んじるグリーンオリンピックの理念を伝える演出だったことと説明しました。

 資料を掘り出してみると、2008年の北京オリンピック開会式では点火した聖火は1時間当たり約5,000立方メートルのガスを消費したということでした。その巨大な炎を維持するために、ナショナルスタジアムである鳥の巣ではガスステーションを作ったという話がありました。一方、今回の聖火で1時間当たり消費する水素燃料は1.2㎥だといわれています。

 先頃、北京冬季オリンピックに使われたトーチの仕組みを解説した記事を読みました。記事によれば、今回のトーチは「飛揚」と呼ばれ、水素燃料を使う高度技術で、航空航天の関連会社が開発したものです。トーチ内部はガスボンベ、水素制御弁、バーナーという3つの部分で構成されています。聖火となるメイントーチは、他のトーチの構造と大きく異なり、2つの燃焼システムを有するといいます。1つはトーチ内部の水素燃焼システムであり、トーチリレーを完了するために内部の水素ボンベによって燃料が供給されます。もう1つは鳥の巣にある水素ガスステーションと接続し、燃料供給を受け燃焼するシステムです。メイントーチの水素燃料は35Mpaの水素貯蔵タンクに貯蔵され、鳥の巣の上方部に設置されています。水素がタンクから減圧弁を介して高圧から通常に減圧され、「雪の花」に沿って敷いた柔らかいパイプで水素をメイントーチに供給することで少なくとも、8時間の燃焼を可能にする仕組みだそうです。また、トーチの開発について、300回以上の信頼性試験をし、レベル10の強風、マイナス40°Cの低温、豪雨、5,000メートルの高度でも安定稼働するといっています。

 今回北京冬季オリンピックの運営において、最も注目されるのは水素の利用でしょう。北京冬季オリンピック組織委員会の発表によると、会場間の移動や資材の運搬などに使うのは、水素燃料自動車(FCV)を中心とした新エネ車です。1000台以上の水素燃料電池車、30カ所以上の水素ステーションが導入、整備されたそうです。具体的には、北汽福田汽車や宇通汽車、吉利汽車は、大型FCVバスやマイクロバス、トヨタはFCVマイクロバスと乗用車に加え、資材を運ぶトラックや除雪車などを担当したということです。

 2008年の夏季北京オリンピックのときには、FCVバス3台使われただけでした。それが、2010年上海万博では196台となり、2022年の北京冬季オリンピックでは1000台となったのです。今回の冬季オリンピックは、FCV実用化のデモンストレーションの場になったといえるでしょう。

 2020年9月の燃料電池車実証利用モデル事業構想、2021年の3つのモデル都市群選出(京津翼、上海地域、広東地域)、2021年末の財政部など5つ政府機関共同による「燃料電池車の新しい実証利用開始に関する通知」公表、河北省と河南省の2つの都市群における実証利用の正式承認と一連の動きが続いて来ました。今回の冬季オリンピック会場となる張家口市は河北省モデル都市群の中心となっています。モデル事業の期間は4年間で、2025年にはFCV10万台を普及させるという導入目標の実現を目指しています。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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