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【シニア】
第20回 2030年の働き方

2017年05月09日 齊木大


 今回は、これから先10年程度を見据えた、私たちの暮らしの姿を考えてみたいと思います。
 10年後には、日本全体では団塊世代が全て75歳以上となり、国全体での高齢化率も3割近くになります。特に、団塊世代が暮らす割合が大きい大都市の郊外部では高齢化が急速に進みます。例えば埼玉県では、75歳以上高齢者が、2015年対比1.5倍となり、全国の中で最も75歳以上の高齢者が増えることになります。この傾向は千葉県や神奈川県でも同様です。

 一方、高齢者自身の健康状態はどうなるでしょうか。よく「最近の高齢者は昔の高齢者と違う」といいますが、実際、「今の高齢者は昔の高齢者よりも10歳程度若返っている」というデータもあります。既にプロスポーツの世界では、これまでには無かった比較的高年齢で活躍する選手も現れています。2020年を契機として、医療だけでなく健康や栄養といったさまざまな分野でも、いわゆる技術革新が進展し、さらに“若返り”が進むのでしょう。高齢者の定義を「75歳以上とすべき」という提言が日本老年学会から示されているように、2030年の75歳は今の65歳、かつての55歳くらいの体力を有していてもおかしくありません。もちろん、加齢に伴って体や認知機能の低下、および生活習慣病に由来する脳血管疾患や心疾患などの罹患率も上がりますが、総じて今の高齢者よりも健康な割合が大きくなり、こころもからだも元気な方が増えると見られます。

 つまり、2030年というのは、団塊世代が75歳以上になりますが、その姿はおそらく今の60歳代後半くらいの「元気な」人も多くを占めることになるわけです。そして、その多くは変わらず現役で働き続けるのでしょう。
 実際、60歳以上の7割以上が今後も働き続けたい意向を持っています。一方、現在、65歳以上人口に占める雇用者数の割合は約14%となっているため、65歳以上の雇用者数を増やす余地は大きく残っているといえます。これを人材需給の観点から見ると、今後、2025年時点でも既に、日本全体・全産業合計で580万人以上の労働力が不足するという推計もあります。もちろんこの全てを高齢者の就業で埋めることはできませんし、まずは生産性向上を追求する必要がありますが、「働きたい」という高齢者の意向も踏まえると、2030年までに150~200万人程度の新たな高齢者の就業を生み出していくシナリオが現実的だと考えられます。

 このような社会においては、ギャップシニア層の「やりたいこと」は、生活や趣味の継続以上に「現役で働き続けること」、「さらに新しい知識や技術を身につけること」、「より魅力的な職場を探すこと」が上位になるでしょう。特に、これまで自分が培ってきたキャリア、知識・技術を活かしつつも、その周辺の新たな職域へとピボットしていく意欲を持つ高齢者が増えることで、より高度な学習や技術研修といったトレーニングセクターへの需要も大きくなると考えられます。
 さらに、こうした意欲的な高齢者が増えるとともに、高齢者の存在を念頭にしたオフィス環境の整備や支援サービスの需要が増えるでしょう。具体的には、バリアフリーならぬエイジフリーなワークプレイス、具体的には目や耳、体力や認知機能の加齢に伴う低下をサポートしつつ、さらに新たな技術や知識の習得を促すような職場環境が求められます。また、フルタイムではなく、個人として独立的に働く人が増えるならば、シニアにも使いやすいワークシェアオフィスのような場が求められるでしょうし、シニア個人が持つスキルと企業のニーズをマッチングするサービスの需要も大きくなるでしょう。

 働くことは、お金を稼ぐ以上に、社会参加と自らの役割を実現するという高次欲求を満たす行為といわれます。生活の困りごとの解決に留まらず、生涯現役で役割を担い続けられる、そんな社会の実現に向けて、引き続きサービスや仕組みの開発を進めていきたいと考えています。

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※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。



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