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CSRを巡る動き:企業とアートの新たな融合

2016年08月01日 ESGリサーチセンター


 近年、企業が本業にアートの要素を融合させようとする新たな動きが出現しています。

 その代表例として、よく取り上げられるのが世界最大のソーシャル・ネットワーク・サービス企業であるFacebookによる取組みです。Facebookは、2012年に、Artist in Residenceプログラム(アーティストを一定期間招聘し、滞在中の創作活動を支援する事業:略称AIR)を始めました。Facebook専属のキュレーターに選ばれたアーティストが、Facebookのオフィスに4週間から16週間にわたって通い、オフィスの壁一面に絵を描いたり、造形物を設置したり、自由に作品を創作します。シリコンバレーにあるFacebookのオフィスは、ロビー、階段、カフェテリア、会議室、自転車置場の、壁、天井、床にいたるまで、アートで溢れています。

 FacebookのAIRプログラムが従来の企業によるアート収集と異なる点は、アートがFacebookという企業の一部になっていることです。Facebookは、アーティストが過去に創作した作品を購入してオフィスに飾ることはしません。アーティストがFacebookという企業に身を置き、そこで起きていることを観察し、社員と交流しながら造った新しい作品にだけ、同社はお金を払います。作品はオフィスの壁に直接描かれるため、物理的にも心理的にも、それはFacebookの一部となります。このようにして、アーティストがFacebookのために精魂込めて創った作品は、誰も気付かないバックグラウンドではなく、Facebookを構成する重要な要素となるのです。

 AIRプログラムに取組むFacebookの狙いは何でしょうか。本プログラムのミッションは、アートを通じて、社員が毎朝行きたくなるような魅力的な職場環境を作ることに留まりません。より重要なのは、社員の働き方にポジティブな影響をもたらすことです。できあがった作品だけでなく、アーティストの現状批判を恐れない革新的な思想や、作品ができあがるまでの試行錯誤のプロセスに常に触れることで、社員自身の冒険心や創造性も高まることが期待されています。Facebookの狙いは、アートを通じて、企業カルチャーを常に活性化させていくことだと言えます。

 Facebookを皮切りに、アメリカの企業の間では、本業との化学反応を狙ったAIRプログラムが広がりつつあります。例えば、2D・3D設計ソフトウェアを開発するAutodeskは、アーティストに同社のソフトウェアを使って創作活動をして貰い、アーティストからのフィードバックをきっかけに新しい機能を開発しました。アメリカ最大の鉄道会社であるAmtrakは、作家に好きな目的地への寝台列車の旅をプレゼントし、北米大陸の広大な景色を車窓から眺めながら、自由に執筆して貰います。この企画には初年度から16,000人以上の作家から応募が殺到したと言います。選ばれた作家がFacebookなどのソーシャルメディアで鉄道での体験の素晴らしさを共有してくれることで、大きな宣伝効果が生まれました。

 日本でも、これまで、多くの企業が社会貢献活動として熱心にアート支援を行ってきました。バブル期に異常なほど盛り上がったメセナ(企業の文化支援活動)は下火となったものの、資生堂、ベネッセ、トヨタ、アサヒビール、大林組など、信念を持ってアートを支援し続けている企業は少なくありません。こうした土壌を前提に、社会貢献活動に留まらない、ビジネスとアートの融合に向けた取組みが日本企業にも広がるのか、注目したいと思います。
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