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CSRを巡る動き:CSR戦略の更新に動き出す欧州

2015年05月01日 ESGリサーチセンター


 欧州連合は、いちはやくCSR推進を政策メニューに掲げ、世界をリードしてきた存在です。その行政執行機関である欧州委員会は、昨年から「欧州CSR戦略2015~2019」の策定準備を進めています。
 最新の政策文書である「欧州CSR戦略2011~2014」に対しての、意見招請(パブリックコンサルテーション)は、昨年の4月から8月にかけて行われました(525の団体や個人が回答)。この4年間の欧州連合のCSR推進政策は概ね評価される結果となり、とりわけ非財務情報開示の制度化を実現した指令の発出は広範な支持を集めました。一方で、中小企業への焦点が十分に当てられていないこと、国連のビジネスと人権に関する指導原則に呼応した行動計画を策定すべきこと、グローバルなサプライチェーン問題(デューディリジェンス、現地支援、司法へのアクセスなど)により対応すべきこと、などが課題として指摘されました。

 今年2月には、こうした意見招請結果を踏まえて、数年ぶりに「CSRに関するEUマルチステークホルダーフォーラム」がブリッセルで開催され、企業、市民セクター、政府、国際機関から450名を超える人々が集まって、これまでの欧州連合のCSR戦略の評価と今後の戦略更新に向けて2日間の白熱した議論が展開されたということです。
 公表されている会議概要によれば、全体会議のほかに12のパネルセッションが行われ、結論としては「企業のDNAのなかに社会的責任を埋め込むことがCSRの究極の目標」、「欧州連合は引き続き、重要な役割を果していく」、「マスコミがこれまで以上にCSRを取り上げることが必要」、「更新される新たなCSR戦略は、国際的な原則やガイドラインとの整合が必須」、「対外的な情報開示の成果は、企業に負担を強いる追加的な規制によるべきではない」などが合意されたと伝えられています。
 各論では、欧州連合が腐敗防止のための枠組み作りを進めること、公共調達や公的年金、政府による証券買い入れなどに責任ある企業行動の側面を強めること、政府と市民セクターが一体となって社会的企業の梃入れ策を講じること、国連のビジネスと人権に関する指導原則を企業や投資家の活動に一層普及させていくこと、認証ラベルの増殖に一定の歯止めをかけるべきこと、統合報告書への急速な移行は幅広い問題に関する開示を損なわせる懸念があること、欧州各国での機関投資家の投資行動原則(スチュワードジップコード)の策定に注力すべきこと、格付け機関への依存は望ましいとはいえないこと、CSRの側面を金融規制に包含していくこと、などの考え方が示されたことが報告されています。

 こうした議論の内容を辿っていくと、欧州連合のCSR推進政策が、抽象論ではなく、より具体的な施策レベルで構築されようとしていることが分かります。その背景には、(1)2014年5月の欧州議会選挙で、欧州統合懐疑派の存在感が増大し、国によっては反EU政党の台頭が現実になったことから、欧州連合にはより実効性ある政策推進が求められること、(2)企業の自発的行動の限界に危機感を有する市民セクターがCSRに関する規制強化を主張する一方、産業界側は規制強化に真っ向から反対しており、領域ごとにきめの細かい政策推進が求められるようになったこと、があげられるでしょう。
 「欧州CSR戦略2011~2014」で、「企業の社会への影響に対する責任」とされたCSRの定義と「法令を順守し、労働協約を尊重するのはもちろん、あらゆるステークホルダーと密接に協動しながら、社会・環境・倫理・人権に関する問題や消費者の懸念を自らの事業活動や事業の中核的な戦略に統合しなければならない」とする基本的な考え方は、今回の戦略更新でも維持される見込みです。そのうえで、年内にも発表される新戦略に、何が盛り込まれることになるのかが注目されます。
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