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取締役会のジェンダーバランス調査(2023年度版)

2023年10月13日 綾高徳


 株式会社日本総合研究所リサーチ・コンサルティング部門は、上場企業3,258社(プライムおよびスタンダード上場企業)における役員33,997人(※1)のジェンダーバランスについて実態調査(2023年4月1日時点)(※2)を行った。

□調査結果の概要と考察

1.役員における女性役員数および比率
・役員33,997人のうち女性役員は3,693人(役員に占める女性比率は10.9%)であった。うち、プライム市場では役員20,341人のうち女性役員は2,760人(13.6%)、スタンダード市場では役員13,656人のうち女性役員は933人(6.8%)であった。プライム市場の女性役員比率はスタンダード市場のおよそ2倍に達する。
・女性役員3,693人のうち、社内役員(※3)は529人(社内役員に占める女性役員比率は2.9%)、社外役員(※4)は3,164人(社外役員に占める女性役員比率は20.5%)であった。
うちプライム市場の社内役員は303人(2.9%)、社外役員2,457人(25.3%)であった。スタンダード市場の社内役員は226人(2.9%)、社外役員707人(12.3%)であった。両市場とも育成・キャリア形成に時間を要する社内役員よりも、外部労働市場から招聘してくる社外役員から女性役員の任用が進んでいる。(図表1-1)




・役員に占める女性比率に関してプライム市場では構成比率10~15%レンジが最も多く523社(28.7%)、スタンダード市場では0%が最も多く724社(50.3%)であった。(図表1-2)




2.役員の兼務状況
・役員の兼務状況(2社以上)(※5)について、プライムおよびスタンダード両市場あわせて女性役員675人が別のプライムおよびスタンダード市場の上場企業において役員を兼務している(両市場の女性役員に占める兼務者の割合は24.6%)。男性役員に占める兼務者の割合は6.9%であり、女性役員に占める兼務社の割合は男性のおよそ3.6倍に達する。エグゼクティブ労働市場で女性役員の需給ギャップが大きいことなどがうかがえる。(図表2)




3.社外役員の職業背景(バックグラウンド)(※6)
・社外役員の職業背景(バックグラウンド)に関して多い順に①経営者(プライムおよびスタンダード両市場における社外役員に占める“経営者を社外役員の職業背景とする者”の割合は35.1%)、②弁護士(18.8%)、③公認会計士(15.0%)、④金融機関(13.3%)、⑤公務員(5.5%)、⑥学者(5.0%)、⑦税理士(4.6%)であった。女性の社外役員に関しては弁護士や学者の構成比が男性の2倍程度と、外部労働市場でクオリティーが認証される職業からの任用が進んでいることがうかがえる。弁護士に関しては女性登録者数8,630人(※7)に対して女性社外役員963人(登録者の11.2%(※8))に達する。女性弁護士のキャリア価値を高める選択肢の一つとして上場企業の社外役員への就任というオプションの可能性が高まっているように見える。もう1つの特徴としてその他の比率が男性に比べて高いことが挙げられる。著名人や、伝統的な社外役員の職業背景としてカテゴライズされない新しい職業背景をもった方の任用が男性に比べて顕著に多い。(図表3)




4.都道府県別の女性役員比率(本社所在地ベースの調査)
・都道府県別の女性役員比率(※9)は下記のとおりである。一部の地域においては女性役員比率が関東・関西圏の2分の1以下にとどまる県もある。女性の社外役員を確保し難いこと等が要因であると想定される。(図表4)




5.業種別の女性社内・社外役員の任用バランス
・図表5では縦軸に社内役員に占める女性役員の割合、横軸に社外役員に占める女性役員の割合を置き、それぞれの平均を用いて4象限に区分した。業種によって社内役員と社外役員の任用バランスに特徴が見て取れる。(図表5)




付記
・今後は政府方針(男女共同参画推進本部『女性活躍・男女共同参画の重点方針2023』(令和5年6月13日))(※10)を受けて2030年に女性役員比率30%目標を達成すべく、女性役員の任用が急速に進むことが予想される。女性の社外役員に対する需要が既に高い今日において、各企業のとるべき施策として「社内役員候補者の層を厚くすること」「社外役員候補者の発掘に注力すること」「安心して引き受けてもらえる処遇および環境整備を推進すること」が重要であると考える。


(※1) 有価証券報告書をソース とし、有価証券報告書記載の4【コーポレートガバナンスの状況等】(2)【役員の状況】①役員一覧、に記載の役員を整理・集計した。なお、人数は重複した人数も含めた総合計(延べ人数)である。
(※2) 2022年4月1日~2023年3月31日に決算を行ったEDINET(Electronic Disclosure for Investors' NETwork)提出のプライムおよびスタンダード市場の計3,258社を分析対象とした。
(※3) 本稿において社内役員は、社内取締役(監査等委員を含む)と社内監査役を指す。
(※4) 本稿において社外役員は、社外取締役(監査等委員を含む)と社外監査役を指す。
(※5) 兼務状況はプライムおよびスタンダード企業における兼務である。なお、兼務状況の人数は実人数である。本調査では旧漢字体、アルファベット表記、ミドルネームの有無等、氏名に関する表記上のゆれによる同一人物の判定精査は行っていない。
(※6) 職業背景(バックグラウンド)の仕分けについては独自の方法を用いた。
(※7) 出所:日本弁護士連合会『弁護士白書2022年度版(第21号)』p.24
(※8) 弁護士の女性登録者数8,630人は実人数であるのに対して、女性社外役員963人は延べ人数である点に注意が必要である。
(※9) 当該集計に関しては、各地域(本社所在地ベースの調査)における各企業の女性役員比率を単純平均した。尚、長崎県は上場企業がないことから本分析の対象外とした。
(※10) 男女共同参画推進本部『女性活躍・男女共同参画の重点方針2023』(令和5年6月13日)において、プライム市場上場企業に数値目標を設定して女性役員比率の引き上げを図る旨が示された。具体的には2025年をめどに女性役員を1名以上選任するよう努めること、2030年までに女性役員の比率を30%以上とすることを目指すこと、およびこれらの目標を達成するための行動計画の策定を推奨することである。なお、令和5年中に東京証券取引所の上場規則に上記内容の規定を設けるための取り組みを進める旨が述べられている。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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