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イノベーション勉強会:第127回討議録

研究本_M&I勉強会(第127回)
「第三セクターの再生について」討議録
(記録:山浦。その後、参加者による修正・加筆)

1. 日時、場所、参加者

日時、場所 2007年9月5日(水) 8:30~10:10 日本総合 研究所303会議室

参加者 原田専務、蓬田(コンサルティング営業部)、梅田(同)、水谷(同)、片桐( 地域戦略クラスター)、新保(TMT戦略クラスター)、浅川(同)、今井孝之(同)、吉田賢哉(同)、 岡本(同)、山浦(同)
2. 発表の概要
「第三セクターの再生について」 (地域戦略クラスター 片桐亮)
≪題材≫
第三セクターの再生について。
≪主な内容≫

第三セクターの再建の背景。

地方公共団体及び金融機関から、 再生の推進が求められている。

地方公共団体の関与及び財政支援 の下で、当該団体の事務事業と密接な関連を有する業務を行っている地方独立行政法人、一部事務組合 ・広域連合、地方三公社及び第三セクターとする。

第三セクターの債務残高が、平成 17年度末において16兆円。16兆円のうち、11兆8,000億円は金融機関によるもの。そのうちの大半は地方 銀行に対する債務であるものと推測される。

今後、第三セクターのもつ債権の 不良債権化が危惧される。
第三セクターとは

地方公共団体及び金融機関から、 再生の推進が求められている。


第三セクターは①と②の2つの性質に分類される


総務省の定義によれば第三セクターとは「地方公 共団体が出資または出えんを行っている民法法人及び商法法人」。


定義は曖昧。基本的には民法法人、商法法人で団 体の性格が異なる。


下図で①が示すフォーマルで非営利の団体が民法 法人の第三セクター。


②が示す公的で営利の団体が商業法人の第三セク ターとして定義される。


加えて、特別の法に基づき設立される法人(特別 法人:土地開発公社等)も通常第三セクターに加えられる。


特別法人は①に近い役割を果たしている。

【図表】 第三セクターの定義

(出所)Pestoff(1992)、堀場勇夫・望月正光(2007)「第三セクター 再生の指 針」を参考に作成

民法法人と商法法人の違い。

民法法人三セク≒公共公益事業を 行う団体で、商法法人三セク≒一般企業である。

民法法人(財団法人、社団法人) 。


設立には所管官庁の認可が必要であり、事業内容 が限定される。但し、自主事業も認められる。


収益事業であっても税率の優遇措置がある。

商法法人(株式会社)。


利益獲得を目的としており、事業内容は幅広い。


出資者は所有株数に応じて議決権と配当等の経済 的権利を有する。


法人税等について優遇措置がない。

第三セクターの経営状況は、全体 の約38%が単年度赤字で、全体の約3%は債務超過である。

債務超過であるの多いケースは観 光、レジャー関連、地域都市開発関連、農林水産関連。

これまでの第三セクター再生の政 策的な取組①

総務省「第三セクターに関する指 針」。


予備的診断は最終的に定性的な判断基準によって 決定されるため、評価の有効性には疑問が残る。

これまでの第三セクター再生への 政策的な取組②

第三セクターの中で公益性のない 民法法人が整理の対象になるものと推測される。


「公益法人制度改革関連3法案」の可決(H18)。


公益法人会計基準の改正(H18)。

これまでの第三セクター再生の政 策的な取組の成果公益企業と箱物の管理のための法人の整理が進んでいる。

平成17年度には502法人が減少し ている。平成18年度にはさらに401法人が減少している。

特に民法法人、地方三公社の統廃 合が顕著である。

統廃合の理由として最も多いのは 指定管理者制度の影響や対象法人が事業目的を達成しているなどである。

第三セクター再生への個別的な取 組①

地元の金融機関と公共団体の連携 によって達成されたスキーム。


中小企業再生支援協議会による第三セクターの再 生。

【図表】 隠岐汽船再生
 
(出所)第127回M&I勉強会資料「第三セクターの再生について」から抜粋

第三セクター再生への個別的な取 組②

公共性と民間活力とのバランスが 重要。


中野サンプラザの売却と運営完全民営化。

【図表】 中野サンプラザ再生
 
(出所)第127回M&I勉強会資料「第三セクターの再生について」から抜粋

第三セクターの再生とは。

日本型の第三セクターとは2種類 に分けられる。


公共公益事業を行う本来的なサードセクター。


公共と民間との中間的部分に位置する日本型第三 セクター。

公共公益事業を行う本来的な第三 セクターの存在意義とはなにか。


迅速な事業の実施や特定業務への集中などが可能 。



- 事業が完了次第、速やかに清算する必要性 があるのか。



- NPOに代替させることが可能か。

日本型第三セクターの存在意義と はなにか。


民間活力の導入により、サービスの向上、経営努 力が図られる。



- PFI事業によるメリットと類似する。



- PFI事業と異なる点は、経営の責任が民間事 業者に移転されるという点。

どちらの第三セクターにあっても 単なる財務上の再生を目指してはいけない。

本業=公共事業としての元来の設 立意義を見失わず、その意義を全うできるような再生スキームを検討する必要がある。
3. 討議の内容
第三セクターの分類の図で、コミ ュニティとはどういう定義になっているのか。【山浦】

家庭など一般的なコミュニティの 事。欧米ではサードセクターにはNPOや生協などが入ってくるために、日本とは定義が異なっている。【 片桐】
総務省の言っている「出えん」と は何か。【梅田】

出資のことを言っているのではな いかと考えている。【片桐】
隠岐汽船の例で、隠岐広域連合と は公共団体なのか。だとすると、第三セクターでは厳しいから公共の度合いが強いように戻したという 動きか。【今井】

運行するのは第三セクターである 隠岐汽船のままで、隠岐広域連合や地方銀行などが支援しながら、どう隠岐汽船を生かしていくのか、 生かすためにはどうすればよいのかというスキームであるので、単純に公共に戻すという方法ではない 。【片桐】
隠岐汽船の例で、フェリーを売却 する事により一時的に借金が減って、財務状況はよくなるが、事業の根本は変わっていないのではない か。【吉田】

もともと過剰投資を行うなどの放 漫な経営体質の問題があったが、再生計画が策定されると、経営状態の厳しさを再確認できる上に、経 営方針の指導が入るため、体質改善がなされるという意味で、変化はあるだろう。この計画は、地方銀 行が中小企業再生支援協議会にもっていったから策定されたものではないかと考えられる。【片桐】
「民営化」の勉強会(第124回討議録参照)で出た議論とつながるが、同じ「再生」とい っても、不採算事業の出血を止めるのと、民営化される事業に関して公共としての発言力を残したいと いうのとは別の話であり、隠岐汽船の例と中野サンプラザの例は、別のものとして考えるべきではない か。そもそも中野サンプラザは事業として成立していたのではないか。【今井】

中野サンプラザの例では、独立行 政法人の雇用・能力開発機構が、売却の際に公共的な質を残したいと考えてやったものである。もとも と事業として成立していたかは調べていないが、立地がよい事を考えると成立していたのではないかと 思っている。【片桐】

中野サンプラザが売却されたのは 2004年で、このような計画は1ヶ月や2ヶ月という期間ではなく、1年や2年という期間を見て動かなけれ ばならないため、この計画が持ち上がったのは2003年頃と考えられる。この頃は「構造改革」によって 導入された市場原理主義により、金融機関の不良債権処理が過度に加速され、こうした3セクも厳しい状 況にあった頃である。【新保】

中野サンプラザの例は、PFIと同 様に、公共に民間を入れようという流れであり、隠岐汽船の例は公共に戻そうという流れである。この 二つは根本的には公共と民間、公共性と経済性のバランスという意味で同じだが、再生という意味で考 えると流れの向きが異なるものであり、分けて考えなければならないのではないか。【今井】
雇用や人材などに関するある団体 に2年間出向していたことがあるが、そこはある府省の外郭団体で過剰投資が問題になっていた。「○○ ○○小田原」という公共施設の例では、当時数千億かけて作ったものを民間に売却するときは数百億程 度になっていたようなことがあり、これは中野サンプラザの例に似ているのではないだろうか。そもそ も中野サンプラザに公共の要素が必要な理由は何なのかが疑問である。【蓬田】

中野サンプラザに公共の要素を残 したかったのは、中野再開発の核にしたいという思惑があったからだと考えられる。中野周辺の街づく りに貢献してほしかったために、完全に民間のものにはしたくなかったのではないか。【片桐】
Economyを整理すると、キャッシ ュフローの悪化の要因は過剰投資と放漫経営の2つに分けられる。前者が要因となる再生事業の場合には 誰かが損をしているはずである。後者が要因となる再生事業の場合は、外資系企業のゴルフ場再生の様 に、中身を改革することにより再生したという例もある。中野サンプラザの例では、売る側(独立行政 法人)が損をしているはずで、買う側(まちづくり中野21)は安く買うことができるために苦労は少な いだろう。再生事業というのは買う側にとって出資額が少なくて済むために、比較的簡単である。【原 田】

先のこの勉強会での「民営化」な どの話にも通じるが、コンサルタントが再生にフォーカスする場合はたいがい「経営」のみの視点で見 る。しかし問題の背景には深刻なデフレ下で行われた、当時の緊縮財政政策と金融再生プログラムにあ ったとの指摘がエコノミスト(中でも菊池英博氏。最近の著書『実感なき景気回復に潜む金融恐慌の罠―このままでは日 本の経済システムが崩壊する』(ダイヤモンド社、2007年6月)は必読書。国会喚問で証言し当時の 梶山静六官元官房長官の構想にも影響を及ぼした)によりなされている。本日の「3セク」議論には、こ のマクロ経済(=財政政策と信用創造を加味した金融政策)の視点と公共性(市場原理主義の儲け主義 との対局に位置)の視点が重要となる。これまでの為政者の考え方の多くは、古典派経済学または新古 典派経済学のみの発想に限定(支配)されている。この発想ではデフレ経済で起こっていることは説明 できない。


GDPデフレーターでみて1993年頃から始まったデフ レが次第に深刻化し、やがて金融恐慌さながらの状況をもたらした。それがデフレを固定化させるとい うデフレ・スパイラルに落ち込み、この信用収縮が1997年の東アジア危機となって飛び火した。今でも そのデフレは継続している。多分まだ2年は完全には脱しきれないと思われる(完全脱皮はGDPデフレー ターが2年間プラス基調になって)。中野サンプラザの例がどうかはわからないが、このとき多くの企業 や運営団体が、資金繰りで厳しい状況にあった。マクロ経済の視点で見ると、個々の団体や企業の問題 (過剰投資と放漫経営)に加え、マクロ経済の運営の問題でもあったと言えよう。


公共性の視点について。最近では連邦制や道州制 を採用し、地方を大きなくくりとして捉えようという議論がある。それぞれの地域の良い所を民営化で はなく、地元の元々の公営的な主体により再挑戦するという動きは重要である。先日取り上げた「グロ ーバリズム」は、結果として地域の良い所を破壊させることにつながっているのではないか。民営化や グローバリズムが必須だとか今の時流だという考え方があるが、それは大きな誤解、勉強不足。私たち のようなシンクタンクでは、その根本・核心を押さえた上で、本当に必要で重要なことは何か、なぜか を議論する必要があるだろう。【以上新保】
ここ10年くらいで私たちが学んだ のは、第三セクターは経営感覚が鈍く、投資センスも貧困だということ。ここに民間の知恵を導入する のが流れだが、最後は民間か公共のどちらにするべきかという極端な二項対立の議論にしてはいけない 。公共性そのものは尊いものだから、結果的に破壊につながるような方策には慎重にならなければなら ない、ここでJRIとして知恵は出せないか。【新保】
JRIのシンポジウムを開催するに あたって、部門長とのやり取りが、今回の話と近いのではないかと考えたので紹介する。【以下、新保 】

≪参考 ≫地域の再生に関するコメント

資料中「②高齢者がこれまでの土 地にしがみついて生活。高齢者を安全な地域・地区へ移住させる。地域コミュニティの変質」に関して 。地域コミュニティが破壊されているというシリアスな問題である。繰り返しだが、これはデフレ下に かかわらず緊縮財政としてしまったことが根本的な原因である。地域コミュニティを破壊する(無闇に 都市型コミュニティ優先につなげる)事を是として議論を進めていいものなのか、もっと他の案がある のではないか。

地域通貨の導入が日本の地方再生 にも効果があるのではないか。次の「地域通貨」(お金の革命)に関する試みは殆ど知られていない。 ただ、JRIの創発戦略センターで地域通貨の研究をしていたチームがいたはず。もう1度、地域の再生と 「地域通貨」のもつ潜在性とを、海外のいくつかの例と併せて研究して欲しい。



- 「おかねの革命~エンデの遺言」シリーズ 1/6 ~根源からお金を問う~(ビデオ映像:1999年5月4日にNHKが放送。当時の日本総研の 嵯峨研究員や重吉専務も登場。参考ページに「 エンデの遺言」)


シルビオ・ゲゼルの自由 土地と自由貨幣の理論 :



- 当時のドイツ(今 のベルギー)出身で、スペインやアルゼンチンにて商売の経験もし、スイスでは財務担当人民委員も歴 任するなどの政治家でもあり学者でもあったゲゼルは、利子水準が円滑な貨幣循環下、従来の実質下限3 %を下回るような、資本供給と資本需要のバランスをとる方法について言及、1920年頃の当時高い評価 を得る。生涯、資本主義から解放されたところの、市場経済の仕組みをもつ「自由経済」を標榜。


ヴェルグルの労働証明書という地域通貨



- オーストリアの地 方都市(ヴェルグル)では1930年頃の不景気で失業者があふれていた時、町長のウンターグッゲンベル ガーは、月初めごとに額面価値の1%を失っていく仕組みをもった地域通貨を考案。手元で持っていると 損するので、できるだけ早くこのお金を使おうとするメカニズムを埋め込んだ。結果、消費が促され経 済を活性化、完全雇用を実現したことで有名。このスタンプ型通貨は米国でも大きな注目を集めたが、 ルーズベルト大統領は既存通貨システムへの混乱を危惧しこれを禁止し、ニュー・ディール政策を実施 。大きな政府による統制経済へ移行したことはもっと有名となったが。


ラルフ・ボーソディの「 コンスタンツ」地域通貨など



- 1972年頃(ニクソ ン・ショック後)、大量の失業者がいた米国ニューハンプシャー州でボーソディにより実験がなされた 。生活必需品をいくつか選んでバスケットにし、それで担保した地域通貨「コンスタンツ」を発行。あ らかじめ銀行にコンスタンツ分だけ預金しコンスタンツ用の口座を持てるようにしておく。地方政府の 後押しを持たないにもかかわらず、急速に普及。コンスタンツが商品価格インフレに対し住民の購買力 を守り、地域通貨の実験を行い大きな効果があった。コンスタンツの保持者は、商品バスケットの価値 に基づき銀行でドルと交換できた。つまり、ドルの価値が下がっている時には、その影響を回避できた し、上がっている時にはコンスタンツをドルに変えれば良い。このアイデアの効果を十分確認したボー ソディであったが、自身が高齢であったこともあって1年でこの試みは終わってしまったようだ。

資料中【A】に関して。例えば最 近、北海道へ旅行に行った際に商店街のシャッターが閉まっている光景をたくさん目にした。これは今 の日本ではよくある光景だと思う。道州制などで地方を大きなくくりにしていこうという流れは、本当 に地域復興に寄与するのか、それとも破壊者になるのか、見極める必要がある。JRIとしてもきちんと議 論する必要があるのではないか。


【A】なぜ今、都市・地方 の再生か?



- 地域社会や地域経 済の破壊の状況・実態



- 2002年からの「構 造改革」と都市・地域の関係



- 道州制は地域経済 復興の救世主か破壊者か

資料中【B】に関して。まずデフ レを止める必要がある。GDPデフレーターが2年連続でプラスにならなければデフレが解消されたとは言 えない。日本はデフレ脱却しつつあるといわれているが、GDPデフレーターの観点からは、未だデフレ状 況下。デフレ下で郵政完全民営化などやると、地域経済を直撃するだろう。


【B】都市・地方の再生問 題の核心はどこにあるのか?



- まずデフレを止め るべきでは? ⇒(主に財政政策と日銀の金融政策への提言)(デフレがもたらしている地域の現状を 直視しよう)



- 地方にお金が回るようにする ⇒(金融再生プログラムの功罪の明確化)



- 地方金融機関の復 活のためのプログラムとは? ⇒(地方銀行の統廃合の功罪。郵政民営化の影響)
デフレが起こると地方経済が直撃 を受けるとあったが、なぜデフレと地方経済が直接つながるのか。【今井】

デフレには2つの解釈があった。 ①不要債権がデフレを起こす流れと、②デフレが不良債権を生む、というもの。あれから4~5年経って 、現在は後者②であると判明していると言ってよい(当時から②であると指摘していた識者も結構いた のだが)。デフレが起こると、売りが立たないことが問題となる。地方交付税交付金や財政投融資など の仕組みは、明治以降の日本国の背骨(かたち)だった。現在これらは悪いものだという風潮があるが 、そうではないだろう。また、日本はGDPにおける公共投資の比率が欧米と比較して高いことを理由に欧 米並みにすべく公共投資が減らされてきたが、日本の国土は山あり谷ありの環境であるために、実態に そぐわない。公共投資は弱いところから絞られるため、脆弱な所が多くなり、金が回らなくなってしま う。【新保】

昔は全国均一のサービスという前 提でやっていたが、デフレにより全体が縮小したために、弱いところは捨てようというものなのだろう 。【今井】
安部政権はGDPの実質成長率3%、 名目成長率2%程度を目指しているが、これが達成されれば問題ない(多くのことが解決される)だろう 。【新保】
マクロ経済は国全体に及ぶもの。 民間のスキームを入れるというのはミクロ経済の世界。日本を船に例えると、マクロ経済は大海そのも のであり、その潮の流れであると言えよう。今は潮の流れが船の進行方向と逆(デフレ)である。その 中でうまく舵取りをしないと効率が悪くなる。目下先進国でデフレが続いている国は日本以外にはなく 、経済の自然成長率(1%~2%)程度のインフレになっている方が健全な経済である。【新保】
全体を伸ばすというのはわかる、 また、そのために、マクロ的に見てインフレの方がいいということも同意できる。が、マクロの方針と 、「地域の均衡な発展を目指すのか、地域の一部を切り捨て都市部への集中を前提とするのか」という 地域発展の方針とは別の議論ではないだろうか。【今井】
別の議論ということは成り立たな い。都市部も地方部も同じマクロ経済圏(経済システム)の中にあるもの。相互に影響を及ぼし合う。 このような全体最適の考え方(特に“量”の問題)をとり、その上で両者への“配分”の問題を扱う。 これが基本。ここを多くの人が間違える。連邦制や道州制という思想は、いわば弱い地方を切り捨てて 都市部に集中させようとするものであり、単なる経済合理主義に基づくものである。地方において経済 基盤が重要であることは言うまでも無いが、連邦制や道州制に移行しても全体の“量”(総需要不足) の問題が解決できなければ効果は期待できない。また、市場原理主義的なやり取りが過度になると、コ ミュニティを破壊する恐れがある。経済効率主義と公共の役割は二律背反的な問題、つまりバランスの 問題である。グローバリズムや民営化という前者(経済効率主義)にするか、後者(公共性重視)のど ちらがよいという二元論ではない。根本的な議論がシンポジウムでできることを期待している。【新保 】
地方は都市部と産業構造が違って いて、建設系が大きい。しかし、公共投資の無駄の削減が叫ばれるような時代の中、建設を中心として 公共投資を地方に振り向ける事で再生をはかるというのだけでは効率が悪いのではないかとの疑問があ る。また、地方の産業構造が建設中心の今のままでよいのか、産業構造を変えなくてよいのかという点 も気にかかる。地方の活性化には、公共投資よりも産業構造の変化の議論を前に出すという考え方もあ るのではないかと考えるがどうか。【吉田】

その議論は半分当たっていて、半 分間違っている。むやみな公共投資が見直されるのは良いことだが、GDPにおける公共投資(政府部門) は23%程度で民間投資(企業部門)がせいぜい15%程度。公共投資のインパクトは大きい。デフレ下では 公共投資によって、地域を再開発し総需要を刺激することで大きな効果が得られるはず。デフレ下での ケインズ的な手法はいまも十分有効。同時に雇用を創出することにもつながる(1930年代での米国で採 られたニュー・ディール政策は、金融恐慌に対して効果があった。日本の1998年~2000年頃の情勢は当 時の米国にかなり似ていたとの指摘もあった)。【新保】
新古典派の思想を持った為政者・ 識者らは、ミクロ経済的(または市場原理主義的)発想で国の運営に当たろうとした。これは大きな間 違い。マクロ経済とミクロ経済はまったく異質なもの。この種の過ちは、1980年代頃からの“日米貿易 戦争”時にも生じた。例えば、ボストンコンサルティングのコンサルタント(MBA)出身の、当時の政権 の経済ブレインが、企業のマネジメントを国のマネジメントに適用しようとした。一例として、企業の 当期利益を国の貿易収支とみなし、相手国(日本など)の貿易黒字を槍玉に挙げた。しかし当時の米国 の経済問題は、外国相手との貿易に起因したというよりも、国内経済に問題があったのである。需給が 一致することを前提とするミクロ経済と、需給が必ずしも一致しない(特にデフレ)状況下での国のマ ネジメントはアプローチがまったく異なる。そうしないと、合成の誤謬が起きる。

郵政民営化が騒がれていた頃、亀 井静香氏が10兆円規模の公共投資を行おうと主張していたが、その考え方は正しかったとことを指摘す る声は最近高まっている。個人的にはもっと大きな額が必要だと考えているが。

日本の10年ほど前の名目GDPは500 兆円。当時の消費は同GDPの7割。それが過去15年間ほど6割に低下。つまり、毎年50兆円ほどの不足とな り15年間で計750兆程度のデフレギャップがあると考えられる。言い換えると、大きく総需要が不足して いる状態。ここに上記のような地方にもお金が回るよう、日銀が資金供給量を増やし、財務省が財政拡 大的な政策を打てば、経済は急回復する。原理原則。最近の企業の業績回復パターンはコスト削減で益 出しをしている状態であり不健全(長続きしない)。売上高が増加すれば税収も増える。このやり方を とったのが1990年代のクリントン政権。この政権は8年間でGDPを1.5倍に引き上げた。日本も同様のこと をしていれば、今のGDPは800兆円近くになっていただろう(企業の従業員の給料も上がっていた。しか し最近はまた労働者の平均給与水準が下がり始めた)。緊縮政策では、デフレを固定化するだけだ。【 以上新保】
道州制にした場合、何をどうすれ ば地方に活力が生まれるのかという具体的な方法を考えて、それを埋めていかなければいけないが、実 際に埋めていくのは難しいだろう。なぜならそのための知恵がないと思われるため。【新保】

道州制のエリア区分だけでは大き なエリア内が同質かのように見えてしまうが、実態としては同一エリア内でギャップが生じる懸念があ る。【片桐】
新保さんは公共投資をどこが受け る・どのようなものに振り向けられるべきだと考えているのか。【吉田】

建設に偏るのはいけないという意 見があったが、もちろん全体的なバランスが重要だという前提で、建設をやっていくことも選択肢の1つ 。前言のとおり、わが国の国情(山が多い、台風災害が多いなど)に鑑みれば、本当に必要な建設への 投資はあってしかるべき。欧米と比較して、道路・下水道などインフラはまだ弱い部分がある。もちろ ん使わない高速道路の建設などは論外ではあるが。また今後重点投資すべき分野は、エネルギー整備( 国内での開発に加え、南シナ海上で中国と接している天然ガス田なども含む)、国土環境(特に安全保 障面含む)、医療環境整備、教育整備など新たなタイプとなろう。【新保】
従来の日本の構造が良くないとい う見方が存在するが、必ずしもそう考えるべきではない。日本の状況に合っているから、そのように発 展してきたと考えることもできるだろう。

スティグリッツはグローバリズム というものは各国の良さを消してしまって、ある一つのやり方に無理やり当てはめられてしまうという ことを警告している。中南米(特に「ジャマイカの楽園の真実」や「ダーウィンの悪夢」)における民営化やグローバリゼーションの例を見れば、明らかに問題があることがわかるだ ろう。民営化の勉強会の時にいなかった人はぜひ討議録を参考にしてほしい。【以上新保】
JRI公共分野の人は、PFIやPPPに 関わっているが、その手法だけを考えるのでは良くない。もちろんコンサルタントしてお金をもらえる のは手法の部分ではあるが、シンクタンクとしては、何故?何を?という根本から考える必要があるだ ろう。根本を考える際に、シニア層は、固定概念に縛られる傾向があるが、若いコンサルタントにおい ては、本当にそうなのか、本質を考え抜いて欲しい、それが競合他社との差別化にもつながるのではな いだろうか。【新保】
インフラやサービスの効率性を考 えて地方の高齢者を街へ無理やり移住させるというのは抵抗がある。一方で地方に千代田区と同じレベ ルの光ファイバー網を構築するというのも間違っている。重要なのは地方と都会で最適なインフラを構 築することではないだろうか。つまりは地方におけるむやみな投資を見直す必要があると感じる。

隠岐汽船の例を挙げると、フェリ ーを売却することによって財政的には効果があったかもしれないが、事業そのものに変化はない。見直 すべきは、フェリーの数が最適なのか、島の人口や規模に見合ったものであるのかであり、放漫経営や むやみな投資がないかというところにフォーカスするべきではないだろうか。【以上浅川】
日本はこれまでは、ユニバーサル サービスという考えで様々なことを実施してきた。現在、そのグランドデザインに混乱が生じていると 思われる。隠岐汽船の例では、民間に任せた事業を公共に戻すという流れと考えられるが、公共サービ スとしてどこまでを実施すべきなのか、今一度そのあり方を明確にすべきではないか。【岡本】
営業的な観点から見ると、最近公 益法人の制度改革の依頼や相談が多い。公益法人は民間企業と比較して、内部統制がとれていないとこ ろが多いように感じる。これは、公共的な事業では責任の所在がはっきりしない事が原因ではないかと 考えられるため、根本から見直さないといけない。うわべだけの改革では意味がないと考えている。【 梅田】
公共の部分の透明性を確保してか なければならないと思う。その解決方法が公共と民間のバランスだと考える。【水谷】
日本中どこでも均一のサービスを 提供するという思想は、都市部の人間としては無駄が多いような気がしてしまう。地方や都市部でそれ ぞれ最適なインフラを提供すればよくて、そのバランスが重要となってくるだろう。【山浦】
世の中の流れが地方の切り捨てに なってしまっているので、“しょうがない”という諦める傾向があるが、“しょうがない”からそれで 受け入れてしまうというのではいけない。当社の研究員(またはコンサルタント)には、そう簡単に諦 めてほしくない。【新保】
官の人間はそれに対してしょうが ないと考えている傾向にあるのではないか。改革を訴えても心に響かない人が多い、言ったとしても懐 疑的な見方をする人が多いと感じる。【蓬田】

【新保の補足】  まず本当に「改革」であったかを再考すべき。私は当社として通信簿を付けるべきだと思う。
≪参考≫倉沢さん事前提供のコメ ント

テーマは事業体の再生プロセスに 着眼しているが、そもそも論も、加えたい。

また、技術者・開発者が情報を集 めてマネジメント層に提供し、マネジメント層が判断をするのか、あるいは、技術者・開発者が情報を 集めた上で、自分たちで分析してマネジメント層に報告し、マネジメント層がその報告を元に判断する のか、どのような主体を意識して議論しているのかを明確にした方がよいのではないか。

かつて盛岡在住経験もあるとはい え首都圏に長く住んでしまっている立場から考えると、この問題は、「国土の均衡ある発展は是か可か 要か、あるいは非か」という、国土構造の変質とそのあり方、の議論から見下ろす必要がある。

市町村合併でわけわからなくなっ たが、10年位前まで、社会人口移動の数字は「ど田舎の人が、5万人規模の都市に猛烈に流入している」 「それ以外は、大きな人口移動はない」ということだったと思われる。町村下の「集落」が、無人化し て年間100くらいずつ消滅しているという話も数年前に聞いた。

そうなると、アメリカやオースト ラリアのように「都市と、無人地帯」という国土構造に、日本もゆっくりとなっていくため、観光開発 のような色気まじりの第三セクターは論外としても、地域の足とか地域経済の確保とかのための地道な 第三セクターは、あるいはそこにそのまま存在する自治体は、それ自体の存在意義が問われかねない、 という厳しい見方をしたほうがいいように思える。


【新保の補足】 上記の とおり、この考え方は一面的だと思われる。

第三セクターだけではないが、こ の点は、過疎地域における路線バス事業というものに着目すると、クリアに見えてくる。バスが廃止さ れれば、クルマの運転できない人は何もできない。田舎の旅行でバスに乗ると、すごく遠回りして地域 中核病院に立ち寄る路線の、なんと多いことか。実際に、都会も含めた路線バス事業のほぼすべてに、 公的資金が恒常的に入っている。

リッチinジャパンと、立地inジャ パンはもはや埋まらない溝になっていて、新潟県山古志村とか大分県中津江村とかの例をみるまでもな く、市町村合併がこれを加速しているように見える。TMTクラスター的論点で言えば、ブロードバンドを 使いたければ、街に引っ越してこい、WiMAXなんか誰が飛ばすんだい、ということ。


【新保の補足】 「市町 村合併がこれを加速」という点は、そのとおり。経済効率性のみを追求する安易な合併は不幸を招く可 能性がある。ある地域の経済状況の悪化は、その地域だけの問題ではない。国全体の問題であることも 同時に考え合わせる発想がいま求められている。ブロードバンドやWiMAXの敷設そのものは、マクロ経済 の視点に立てばそう大きな問題ではない。

かつて開発天皇・下河辺淳は、「 超高速インターネットが森の中で自由に使える日本を。」と、これと逆の国土構造をイメージしていた が、もう時代は止められないかな、と。(下河辺さんは、個人的には尊敬している。10年位前、ずいぶ ん親しくさせていただいた)


【新保の補足】 IT系の ものがマクロ経済に与える影響はそう大きくない。それよりも前述の通り、エネルギー整備、国土環境 整備、医療環境整備、教育整備に関する公共投資のほうがインパクトははるかに大きいだろう。下河辺 淳氏もそのことくらいは分かっていて、「超高速インターネット」の例を、当時の新たな開発対象とし て象徴的に出していたのでしょう。ここで言う「止められない時代」とは何か。その意味をきちんと考 察することが私たちには求められている。

冷たいものの見方かもしれないが 、この10年くらいで、日本はそっちに舵を取ってしまったため、しょうがないことかなと思われる。


【新保の補足】 繰り返 しながら、この考え方は一面的または表層的だ(そうマスコミがはやし立てるので、たいがいの場合多 くの人がその論調に影響されているだけの面が多い)。正確に言うと「そっちに舵を取ってしまった」 のではなく、一部の誤った考え方のもと一部の政策担当者らによって「そう取らされてしまった」のだ 。当社の研究員においては、現下の地方で生じている“事実”の再解釈とその対応策において、この“ 事実”が事実としてそうならしめられた本源的なところまで遡って究明し、打開策を模索することを期 待したい。
4. 参考資料
≪参考 ≫地域の再生に関するコメント(新保さん提供)
5. 次回予定

2007年9月12日(水)
以上






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