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コラム「研究員のココロ」

教育産業ソリューションシリーズ(第2回:内部管理)
~学習塾業界の内部管理体制における課題と解決の方向性~

2007年01月29日 佐藤邦明


 本シリーズでは成長戦略クラスターが取り組んでいる、学習塾をはじめとする教育産業向けのソリューションについてテーマ別に紹介しています。詳細につきましては、ページ下部、お問い合わせ先までお願いいたします。

学習塾業界の内部管理体制における課題と解決の方向性

内部管理体制や人事制度といった組織維持に関わる体制・制度は、個別企業ごとにその水準や内容、規模に大きな差が見られるのが普通です。当業界においても、日本全国をカバーしている大手予備校と少数の講師が近所の生徒を集めて運営を行っている小規模塾では、その組織内容と規模の違いから内部管理体制における課題も大きく異なるものと思われます。
 本稿では、業界団体が実施したアンケート調査に基づき、主として比較的大手で会社組織となっている予備校・学習塾において想定される課題と対策を提起しつつ、最後に小規模塾で予想される課題についても取り上げます。

1.組織全体に関わる課題と対策

 (社)全国学習塾協会の「学習塾業の雇用管理に関するアンケート調査結果」(平成17年3月)によると、塾・予備校等において全従業員に占める「講師」の割合が100%、つまり従業員全員が「講師」という組織が全体の81.8%にのぼり、講師が授業と事務を兼務しているケースが非常に多いことがわかります。講師が授業のほかに生徒募集や講師採用、塾の資金繰りから労務管理といった組織維持のための事務の全てをこなしている塾が大半を占め、講師以外の事務職員がいる塾は少数にとどまっているということです。(ちなみに事務職員のいる塾でも事務職員の全従業員に占める割合は10%未満となっています。)
 これを内部管理上の観点からみると、下記のような問題点ないしはリスクがあるものと考えられます。

(1)人員不足を原因とする事務管理水準(内部牽制機能)の低下。事務ミスや不正の誘因(業者や父兄との癒着)となるほか、生徒父兄への対応や情報管理等がおろそかになりかねない。(※)

(2)多店舗展開型の塾においては、統一的な教室運営が困難になる惧れがある。各教室に本部と直結した専門スタッフが配置されていないと、教育方針、講師採用、労務管理、生徒募集(販促)等の統一的な運営は容易ではない。

(※)筆者が訪問した某大手予備校では、DMや窓口に置いてあるパンフレットは本部で作成した立派なものでしたが、応対してくれた担当者はサービス業では到底考えられないような風体(頭髪や身だしなみ)をしていたほか、実際の学費や授業内容の説明資料は、パンフレットの一部をモノクロコピーした粗末なものでした。また、DMの勧誘により子供を「お試し授業」に参加させたところ、先方の事務ミスのため、パンフレットに掲載されたサービスの一部が受けられませんでした。

 上記問題点について、解決の方向性としては下記のような対策が考えられます。
(1)大手については、組織としての講師職と事務職の分離、事務部門の充実。(講師の授業と事務の兼務は、業務効率上も牽制機能上も好ましくない)

(2)スタッフ業務軽視の風土の払拭。顧客(父兄)と接触する最前線の窓口として、徹底した接遇教育の実施や、事務水準を向上させる取組みが必要。

(3)フランチャイズ教室等で十分な事務スタッフが確保できない場合は、統一的な教室運営のため、下記のような本部支援の仕組作り検討。
  1. 本部担当者の巡回による教室意見の吸上げや現状の把握

  2. 本部による各教室父兄の意見・要望の直接吸上げとフィードバック

  3. 本部で収集した学校や進学に関する情報やデータ、開発教材等の迅速な提供

  4. 各教室の講師募集や採用事務の軽減(本部に集中できるものは集中させる)等
(4)指揮命令系統の明確な組織体制構築(組織内における責任と権限の明確化、本部から教室への指示命令系統の一本化)


2.従業員に関わる課題と対策

 前述のアンケート調査によると、塾に雇用されている全従業員の内95%が「講師」であり、その内約半数(56.9%)が非正社員となっております。
一方、進学塾や予備校の場合、レベルの高い講師の採用は死活問題であり、大手予備校による有名講師の引き抜き合戦は周知の事実となっています。
 これらの事実を内部管理上の観点からみると、下記のような問題点やリスクが考えられます。

(1)非正社員講師が正社員講師とほぼ同一の労働条件で勤務しているにも拘わらず、賃金や休暇などの待遇面で大きな差があると、不満の原因となり定着率の低下を引き起こす。ひいては講師の採用難となる。

(2)パート・アルバイト講師を大量に必要とする個別指導塾において、出勤状態が不安定な講師を多く抱えた場合、生徒側からすると授業の度に講師が変わることとなり、授業の質と一貫性に不安が出ることになる。

(3)優れた講師には一匹狼的な人も多く、待遇次第で他社に引き抜かれてしまう。これでは優れた指導ノウハウが蓄積できず、場合によっては生徒まで講師と共に他社に移動してしまう。

上記問題点について、解決の方向性としては下記のような対策が考えられます。
(1)非正社員と正社員の待遇差が著しい場合、有能な非正社員の定着率向上のため抜本的な待遇改善を検討する。その際、非正社員にも正社員同様の人事考課制度を導入し、非正社員のモチベーションアップを図る。

(2)非正社員について法令上のルール(労働時間、休日・休暇、安全衛生管理、社会保険、労働保険の適用など)が遵守されていない場合は見直しを行う。

(3)教育の質確保のため、指導ノウハウ蓄積の方策が必要。(組織的なOJT支援体制作り、非正社員に対する継続的・体系的な研修体制の構築など)

(4)優秀な講師採用のため、計画的に有名大学や大学院とのパイプ作りを行う。(父兄は講師の出身大学にこだわる。人材採用のための組織的かつ継続的な活動が必用)


3.情報システムと個人情報管理に関わる課題と対策

 最後に、筆者の最近の訪問調査結果から、小規模塾や本部支援の不十分なフランチャイズ塾において、その人員や設備、情報システムのノウハウ不足等が要因と思われるいくつかの問題点を取り上げておきます。

(1)学習塾や予備校にとって、塾の授業や試験結果と学校の成績・進学実績等との相関関係分析及びその結果のフィードバック体制は、父兄が塾・予備校を選択するうえでの重要なポイントとなるが、小規模塾や個人指導塾においてはそれが十分に行われていない場合がある。

(2)塾・予備校は、その性格上父兄や生徒の詳細な個人情報をかなり大量に保有せざるを得ないが、いまだに情報管理の体制が十分に出来ていない組織がある。
これらの問題点について、解決の方向性としては下記のような対策が考えられます。
(1)生徒に全国規模の模擬試験への参加を義務付け、その結果と進学実績を自社で蓄積し、以降の指導材料とする。

(2)システムによる成績管理を徹底する。(塾の授業・試験の成績と進学実績・学校の定期試験結果等の相関関係をシステムに蓄積する。小規模塾であればパソコンで対応可能)

(3)個人情報の管理については、社員の責任と権限を明確に定め、情報保護に関する規定や手順書を整備する。また入退室の管理、個人データの盗難防止等の措置についてルールを整備する。(具体的措置例は下記の通り)
  1. 情報管理に関する組織体制と規定等の整備

  2. 個人データ取扱台帳の整備

  3. 事故または違反者への対処方法制定

  4. 入退室管理の実施

  5. 盗難等への物理的対策や機器・装置等の物理的保護

  6. データへのアクセス管理や暗号化等による保護

←第1回を見る | 第3回へ続く

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