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コラム「研究員のココロ」

「“絵に描いた餅”の中期経営計画からの脱却」のすすめ<第3回>
~経営者(トップマネジメント)の資質と資格~

2008年09月01日 三浦 利幸


1.はじめに

 “絵に描いた餅”の中期経営計画からの脱却に関するリレー連載の第3回である。今回は経営者(トップマネジメント)の役割のうち、「経営理念・経営ビジョンの明示」について考えてみたい。

2.実行しなくても許される中計

 コンサルタントとして伺ったクライアントにおいて、中期経営計画(以下、中計という)など経営者(トップマネジメント)の方針が実行されていなくても、うやむやになってなぜか許されてしまう、というシーンを目にすることが少なからずあった。まさに“絵に描いた餅”の中計である。
 しかし中計のような企業の最重要ともいえるはずの方針が、なぜこのように軽んじられてしまうのだろうか。そして経営者(トップマネジメント)は、なぜこのような状況を放置しているのだろうか。
 このような疑問を持ってクライアントを観察していると、共通するパターンがだんだんと見えてきた。このような状況になる企業の経営者(トップマネジメント)は、売上や利益などの短期的な財務指標の達成にはこだわるものの、中長期的な経営理念やビジョンについて具体的なイメージがない、こだわりがない、という傾向が強いのである。

3.こだわりの経営理念やビジョンがあるか

 売上や利益などの短期的な財務指標の達成にこだわることは悪いことではない。しかし経営者(トップマネジメント)が強烈にこだわるべきは、「将来こういう企業になりたい」という具体的な経営理念やビジョンであり、売上や利益の達成はそれを実現するための手段として位置づけるべきである。売上や利益の達成が優先されるのは本末転倒である。
 もし経営者(トップマネジメント)が熱望する経営理念やビジョンを持っているならば、行動指針のような内容に関して、日々実践することの重要性を理解しているとともに、具体的な到達目標を示したビジョンに関しては、中長期的に対応しなければその実現に至らないということを十分に認識している。したがって理想と現実のギャップを埋めるためにどのような道筋を通って行くべきか、そして今はその道筋のどこにいるのか、道筋を前に進むにはどうしたらよいかということを常に考えることになる。この「どのように進むか」を示すものが中計となり、経営者(トップマネジメント)はその実行状況に大きな関心を寄せることになる。うやむやにはけっしてできなくなるのである。
 もちろん、経営理念やビジョン達成のためには売上や利益の達成は手段として不可欠なものであり、毎年の数値目標も設定される。しかし、それはあくまで道筋のなかの1つの要素、中間目標であり、経営理念やビジョンがそれより高い次元の目標として、明確に位置づけられることになる。

4.経営者(トップマネジメント)が絵に描いた餅の中計の原因に

 しかし売上や利益が究極の目的だとすると、日々の営業活動が、目的である売上や利益をいきなり生んでしまう。つまり長い道筋を通らなくても、それどころか下手に長い道筋に入るより、目の前の営業活動に力を注ぐことの方が、少なくとも短期的には究極の目的に近づくのである。中計のなかには中長期的に活動し、成果を上げていく計画が多く含まれているはずだが、本当に売上や利益につながるかどうか現時点では確実ではない中長期的活動より、目の前で目的そのものに直結する日々の営業活動の方が重視されてしまうのは、経営者(トップマネジメント)が財務指標を最も重視している組織では当然のことだろう。そして成果が上がるまでに時間がかかることに我慢ができなくなり、単年度の業績に意識が集中してしまう。つまり、中計が絵に描いた餅になる原因を、経営者(トップマネジメント)自身が作ってしまっているのである。

5.社員への影響

 経営者(トップマネジメント)が財務指標ばかりにこだわると、目先の売上や利益に直結する仕事しか評価されないので、当然社員もそのような仕事を最優先するようになる。中計は実行しても評価されず、逆に実行しなくても特に責められもせず、存在感のないものになる。このような状況が続けば、時代の変化に対応していくための挑戦など生まれようもなく、日々の仕事をこなすだけ、仕事に対する意義やプライドなども感じられなくなる。
 本来ならそのような社員に対して、経営者(トップマネジメント)がビジョンや中計の意義を説き、社員のモチベーションを高めていかなければならないのだが、そもそも経営者(トップマネジメント)に中計推進のモチベーションがなければ、何も始まらない。
 一般的には社員のモチベーションをいかに高めるかという議論は多く交わされているが、経営者(トップマネジメント)のモチベーションも大切なことである。

6.経営者(トップマネジメント)の資質と資格

 経営理念やビジョンは組織全体で共有・共感・共鳴することが大切だが、その根幹は経営者(トップマネジメント)がこだわりを持ってそれを熱望することだろう。経営者(トップマネジメント)には、戦略的意思決定や執行管理を行うためのビジネスセンスなどの“資質”が求められるが、こと経営理念やビジョンを描けるかどうかということに関しては、経営者(トップマネジメント)の“資格”といってもよいのではないだろうか。“資質”が欠けていれば勉強したり、参謀役を得たりして補うことは可能であるが、“資格”がないのを他人が補うことはできない。
 それから経営者(トップマネジメント)が何にこだわるかということに関しては、原則的にコントロールできるものではない。例えば現在は環境問題が話題になっているからといって、環境にやさしい企業になることをビジョンに加えてみても、もともと経営者(トップマネジメント)の環境問題への関心が薄ければ、こだわりのあるビジョンになるはずがない。社会に対する見識を広めたり、人間としてさまざまな経験を積むことで、こだわりに変化が生じることは十分にあり得るが、就任する時点で社員、顧客、社会に支持されるこだわりを持っていることが、経営者(トップマネジメント)としての“資格”といえるだろう。

第2回を見る | 第4回へ続く

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