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コラム「研究員のココロ」

「“絵に描いた餅”の中期経営計画からの脱却」のすすめ<第2回>
~<中期経営計画の勘所>計画が実行されない要因と処方箋~

2008年08月04日 中川 隆哉


1.はじめに

 筆者が職務を通じて痛切に感じるのは、多くの企業が中期経営計画(以下、「中計」と記す)の持つ意義や重要性を認識し、その実行性を高めるべく日々努力を重ねているにもかかわらず、PDCAを十分に徹底することができず“中計が画餅に終わっている”ケースが非常に多いということである。本稿では、“画餅の中計から脱却する”ために、特に実行面における問題点とその対処方法についてメッセージを送ることとしたい。

2.中計に対する認識変化 実行性重視と閉塞感

 筆者は、経営者や経営企画部門長の方々と意見交換の場を持つ機会が多いが、近頃、中計に対する認識が2つの点で大きく変わってきていると感じている。
 1つめは、「中計は実行しないと意味がない」という考え方が浸透しつつあるということである。中堅規模以上の企業を対象とすると、およそ8、9割の企業が中計を策定していると思われる。そしてそのほとんどが、策定のみに終わることなく、ビジョンの達成に向けてPDCAを繰り返すことが重要と考えている。このことは、ひと昔前に「中計不要論」、「中計策定自体の目的化」が散見されたことを鑑みると、長足の進歩を遂げているといえる。
 2つめは、ほとんどの企業において、「中計は実行しないと意味がない」と定義すると、それが即時的に「うまく実行することが出来ず、中計が画餅に終わっている」という問題に帰するということである。そして、画餅に陥ることを打破出来ず、中計に対する焦燥感・閉塞感が急速に高まっている。
 経営革新クラスターでは、“画餅の中計から脱却する”ための3つのコンセプトとして、
  • 中計のPDCAを徹底し、その合理性を担保する「経営戦略力」

  • 中計を実行する組織全体の成熟度を高める「経営品質」

  • 「経営戦略力」と「経営品質」の適合性を高める
    「経営ビジョンに対する共有(理解)・共感(納得)・共鳴(自律)」

を掲げているが、本稿では、これを踏まえたうえで、『経営と現場、中計における戦略と業務のギャップを埋め、策定された戦略が実行されるための方法論』について述べたい。

3.中計が実行されない要因と処方箋

 筆者は、中計が実行されない要因は以下の3点にあると考えている。

 a)中計の意義・目標・戦略の浸透不足
 b)戦略から業務活動への落とし込み不足
 c)中計に基づいた業務活動の徹底不足・継続不足

 まず、中計が実行されない最大の要因は、その意義・目標・戦略が従業員の腹に落ちていないということに尽きる。経営者は中計について十分に伝えたつもりになっているが、実際は従業員にはそれほど伝わっていない。多くの従業員は、中計についてある程度知っていても、「中計はあくまでお題目で日々の業務は別」と考えている。こうしたギャップを解消する唯一の処方箋は、経営者自らが中計の意義と目標、その達成のための合理的な戦略を自分の言葉で語り続けることである。経営者から部門長、部門長から課長、課長から担当者へと、地道にコミュニケーションを重ね、正しく中計の意義・目標・戦略を伝えていくことによってのみ、中計は組織の末端まで浸透していくのである。
 2つめの要因は、中計の守備範囲はあくまで戦略レベル、すなわち大きな方向性レベルであるため、戦略から業務活動への落とし込みを行なわないと、現場の従業員は具体的に何をしたらいいかわからず、従来どおりの業務を行なうということである。つまり、戦略は計画や日々の業務活動であるアクションプランに展開されてはじめて実行性を担保するのである。そしてその展開に際して注意すべきことは、計画やアクションプランそれぞれの実行者自身が主体となって、「戦略に従って具体的にどのような業務活動を行なうべきか」を徹底的に考え、決めたことに対して責任を持つということである。
 3つめの要因は、中計に基づいた業務活動に取組んだとしても、すぐには結果が出ないので途中で息切れしてしまうということである。中計では相対的に短期的な業績拡大よりも、中長期的な業績拡大を目標として、その抜本的要因である顧客満足・業務品質・能力の向上に手を入れることが多い。ところが、現場の従業員は短期的な時間軸重視で動いているため、中計で規定された中長期的な時間軸での業務活動、特にこれまでにはなかった業務活動を「余計な仕事」と認識するのである。そして、「余計な仕事」と捉えるがゆえに、それが結実するまで徹底・継続することが出来ず、短期的成果の期待できる従来どおりの業務に留まるのである。これを克服するためには、短期的成果のみを評価するのではなく、「中長期的な視点での業務活動を実行したかどうかというプロセスそのもの」を評価する仕組みを導入することである。
 以上のように、筆者は、『経営者自らが中計の意義・目標・戦略を語り、それを実行する従業員が主体となって業務活動に落とし込み、その活動プロセス自体を積極的に評価する』ことで中計の実行性が担保されると考えている。

4.おわりに

 筆者の属する経営革新クラスターでは、企業がその価値向上を図り永続的に発展するためには、中長期ビジョンに基づいて企業の全体戦略・事業戦略・機能戦略及び組織戦略を総合的に中計として明示することが最重要であると主張している。そして、中計のPDCAを徹底するという「当たり前のことを当たり前にできれば当たり前の企業でなくなる」と唱え、経営者の視点から中計のPDCAサイクル高度化支援をさせていただいている。
 この観点で本年1月から2月にかけて、「“絵に描いた餅”の中計から脱却する」をテーマとしてセミナーを主催したが、経営者や経営企画部門長の方々を中心として約250名にご参加いただき、その反響の大きさに驚かされた次第である。*このことは、筆者が本稿で述べた中計における実行性重視の認識と画餅中計に対する閉塞感の高まりを顕著に示していると考えている。自社の更なる価値向上のために、中計のPDCA徹底に日々努力されている経営者・経営企画部門の方々が、本稿から何らかのヒントを見出していただければ幸いである。また、紙面の関係上割愛せざるを得ない部分もあり、消化不足の感をもたれる方がおられるかもしれないが、そのように感じられた方は是非我々経営革新クラスターのメンバーにコンタクトをお願いしたい。同じ目線で議論ができれば望外の幸せである。

*応募者数制限によりご参加がかなわなかった方々のご要望にお応えして、9月に東京及び大阪にて再度企画・実施させていただきます。関連リンク欄をご参照ください。

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