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日本総研ニュースレター 2008年11月号

三セク改革は、外部の視点と包括評価で活路を見出せ

2008年11月04日 亀山典子


 10月20日、日銀は「地域経済報告」の中で、2005年の調査開始以来初めて、全9地域の景気判断を下方修正した。当社が今年7月に地銀・第二地銀を対象に実施したアンケート結果でも、各行が地盤とするエリアにおける過去3年間の景気について、「回復している」が8.1%にとどまる一方、「足踏み状態である」は45.9%、「悪化している」は37.8%となっており、地域経済の回復が進んでいない実態が明らかになっている。
 地域経済を苦境に陥らせている原因の一つが、第三セクターや公社の経営である。三セクの3割、公社の4割以上は赤字であり、さらに見かけ上黒字であっても、自治体からの補助金がなければ赤字に転落する法人が、三セク1,489社、公社109社に上っている。
 総務省も対策に乗り出している。たとえば財政健全化法を施行し、これまでフロー指標しかなかった自治体経営に、財政規模に対する将来負担の大きさを表すストック指標である「将来負担比率」を新たに導入。三セク等に対する負債・債務を含めた財政状況をより正確に把握し、早期健全化の必要性を判断するための指標の役割を担っている。

改革機運は盛り上がらず
 しかし9月末に総務省から出された速報(平成19年度決算に基づく健全化判断比率・資金不足比率の概要)によると、将来負担比率における早期健全化の基準値(都道府県および政令市:400%/市区町村:350%)を超えたのは、夕張市、鰺ヶ沢町、大鰐町、泉佐野市、淡路市の5市町だけで、他の自治体は対象外となった。しかし改めて三セクの債務残高を見ると、民法法人では303法人、1兆6,157億円、株式会社などの会社法法人は213法人、4,607億円に上る(平成19年、総務省調査)。
 これらを見ると、今回設定された基準値によって三セク等の苦しい経営状況が明らかになったとは言い難い。そもそも将来負担比率は自治体の財政力から見た債務の返済能力を示すものであり、三セク等の経営状況を直接示すものではない。結局、将来負担比率の導入が三セク等の改革機運を高めるだろうという当初の期待とは、状況が異なっているのが実情である。
 ただし自治体が何もしていないわけではない。都道府県や政令市の多くは、行革の一環としてすでに三セクの経営状況や存廃等に関する評価は実施している。しかし、多くは自治体自身による評価であり、評価結果が「お手盛り」となってしまうおそれも捨て切れない。本来なら積極的に外部有識者を交えるべきであるが、ほとんどの自治体の腰は重い。筆者が10月上旬に都道府県や政令市等に対して実施した電話ヒアリングでも、「外部に頼る予定はない」「外部の有識者に適切な判断ができるか疑問」など、否定的な声が数多く返ってきた。
 さらにいくつかの県の市町村課からは、「県下の市区町村にガイドラインは送付済だが、具体的な支援はまだ行っていない」「市区町村からも特に相談はない」「新指標への対応で手がいっぱい」などの回答もあった。6月に総務省が出した「第三セクター等の改革について」というガイドラインには、外部の専門家の必要性をはじめ、各三セク等の進路を事業継続から私的整理まで幅広く検討すること、そして今年度と来年度で「集中的に(改革を)行う」ことなどが明記されているが、現実はその方向性とは程遠い。
 先日筆者が訪れた某市では、「三セク改革は気になっているが、パンドラの箱を開けられない」という声も聞こえた。地元の有力者や政治家、金融機関も含めて責任論になるのが厄介なのだそうだ。しがらみが多く、抜本的な改革が地元の力では困難になっているケースも存在するのである。

外部の視点は不可欠
 現状のまま赤字を垂れ流せば、「三セク不要論」が独り歩きすることにもなりかねない。
 筆者は、外部の有識者など、利害関係のない第三者による“外部の視点”を取り入れることこそが、膠着状態に陥った三セク改革を進める起爆剤となると考える。外部に適任者がいないというのは、第三者にも適切な判断ができるよう、十分な情報提供をしてこなかったことの裏返しに過ぎない。そして自治体が出資している三セクや公社を、いちど包括的に評価することによって俯瞰し、提供すべきサービスのポートフォリオを再検討することが、財政的にもメリハリをつけると同時に、存続の意義が高い三セク等の再生をもたらすのではないだろうか。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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