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日本総研ニュースレター 2013年7月号

介護業界におけるマーケティング保険外分野で問われる商品開発力

2013年07月01日 紀伊信之


介護保険外サービスへの期待とビジネスの壁
 財政健全化を図りつつ、高齢者の暮らしを支えるべく、政府は、高齢者が自宅で暮らし続けられるための政策に力を入れ始めた。とりわけ、従来の介護保険サービスを補完するものとして、介護保険外サービスの普及を図っている。例えば、厚労省では「地域包括ケア」の一環として、各地域における見守り、配食、買い物など、多様な生活支援サービスの確保を重点課題の一つに挙げている。また、経産省では新たな産業創出の一環として、公的保険外の「新たなヘルスケアサービスの創出」に補助金を出すことを決定した。
 事業者側も、介護保険の報酬改定などの制度リスクに影響されない安定収益源として、保険外サービスに大きく期待している。8兆円を超える介護保険費と比べて市場規模は限られるが、今後の拡大は間違いないからだ。
 ただし、保険外サービスは100%自費負担となるだけに、パフォーマンスに対する顧客の目線は非常にシビアであり、今のところ、ビジネスとして成功している介護事業者は極めて少ない。もっぱら公的な介護保険の枠内でサービスを提供してきた介護事業者は、自ら顧客のニーズをくみ取って商品やサービスに反映させる発想や経験に乏しい。そのため、彼らが開発した新たなサービスの大半は、現在の介護保険内で提供しているサービス内容の域を出ず、保険外=100%自費で顧客に支払ってもらうだけの付加価値を生み出せていない。例えば、保険外サービスに取り組んでいるという事業者でも、実態は単に介護保険の区分支給限度額を超える部分を自費で対応しているだけであったり、保険外サービス独自のサービス内容・価格体系を用意せずに、顧客からの要望に受け身で応じるのみであったりすることも珍しくない。

「商品としての作り込み」で成果を上げる事業者
 そうした中、事業者側で自由に設計できる保険外サービスの強みを活かし、商品としての作り込みに力を入れる企業も現れ始め、成果を上げている。
 例えば、介護最大手のニチイ学館では、従来の訪問介護サービスの延長にとどまらず、家事代行事業者等の価格設定やサービス提供手法を取り入れて日常清掃等の保険外サービスを提供し、売り上げを伸ばしている。具体的には、顧客の多様なニーズに対応した「短時間」「定期」「入退院」「お試し」などのきめ細かな単位の料金プランを設定したり、保険外専任のサービスマネジャーを各支店に配置し、顧客の詳細なニーズ把握やスタッフ教育に努めたりするなど、サービスの質向上にも注力する。同社では、介護関連事業の売上高のうち保険外サービスが占める割合を、平成25年3月期の9%から、4年後には20%まで引き上げる計画だという。
 また、東京建物と在宅介護中堅のやさしい手が運営するサービス付き高齢者住宅でも、提供時間と価格設定の工夫で顧客を獲得している。ここではオプションサービスとして、入居者は1カ月10,500円という手頃な価格で、5分程度の短時間ケアや簡単な手伝いを24時間何度でも受けられるため、服薬確認やちょっとした移動介助を気軽に利用できる。利用時間を短時間に限ることで費用負担を抑えつつ、介護保険サービスで定められた30分単位や45分単位といった硬直的な時間単位の間を埋めたのだ。
 専門性の訴求で支持を得ている例もある。佐川アドバンスの「お出かけ介護」サービスは、介護が必要になっても旅行や冠婚葬祭に行きたいという強い要望に特化したサービスだ。「トラベルヘルパー」という民間資格を持つ専門スタッフを擁し、1日約15,000~26,000円でちょっとしたお出かけから海外旅行の外出介助まで対応している。鉄道や宿泊先の予約など、旅行そのものの手配までワンストップで受け付けており、全国展開も計画されるほどの人気ぶりだ。

介護保険サービスとの最適な組み合わせが鍵
 本来、介護保険サービスに比べれば、保険外サービスは差別化の余地は非常に大きい。今後、各社のサービス開発が進み、質の高い介護保険サービスと、魅力的な保険外サービスとの最適な組み合わせを、顧客一人ひとりに合わせて一体で提供できる事業者が選ばれることになるだろう。まだ始まったばかりのサービス開発競争のなかで、顧客ニーズを理解し、それを継続的に具体化できる力が、今後の介護事業者の存続を左右していくはずだ。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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