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取締役会のジェンダーバランス~2030 年までに女性役員比率 30%~

2023年10月01日 綾高徳


女性役員の選任を進める東証
 後から振り返ってみれば、2023 年はわが国にとって取締役会のジェンダーバランスの実現に向けて踏み出したスターティングイヤーとなるのかもしれない。
 大きな推進力になると期待されるのが、6 月に政府(男女共同参画推進本部)が発表した『女性活躍・男女共同参画の重点方針 2023 』である。以下 3 点を軸に、プライム上場企業の女性役員比率に数値目標を努力義務として設定し、引き上げを図るプランとなっている。
・ 2025 年を目途に、女性役員を 1 名以上選任する
・ 2030 年までに、女性役員の比率を 30%以上とする
・ 上記目標の達成に必要な行動計画の策定を推奨する
 東京証券取引所では、2023 年中にこの方針を上場規則に取り込む方針を明らかにしている。努力義務とされるものの、プライム上場企業にとっては「必達」の経営テーマとして扱われることが予想される。

女性役員の増加は市場にも企業にも必要
 女性役員比率が低いことによる本質的な経営リスクとしては、取締役会の多様性が低いことに起因する経営判断や組織運営上のパフォーマンス低下が挙げられる。また、機関投資家の投資判断や総会での議決権行使行動へのネガティブな影響のほか、印象低下が引き起こす各種競争力低下(例えば採用応募者の減少など)も考えられる。
 また、政策論として今回の政府方針を捉えると、上場企業として公開市場でプレーする前提として、取締役会の多様性を求めるものと理解できる。プライム市場そのものが社会的公正を体現するルールを有することで、国際的取引市場としての魅力を増し、ひいてはそこに上場する企業価値向上につながる一連の戦略ストーリーを見て取れる。

まだ遠い「2030 年目標」
 日本総研では、プライム上場企業 1,820 社における女性役員の選任状況(2023 年 4 月 1 日時点)を調査した。本調査によるとプライム市場では総役員数 20,341 人のうち女性役員は 2,760 人(女性役員比率 13.6%)、うち社内役員は303 人(女性役員のうち社内役員である比率 11.0%)、社外役員は 2,457 人(同 89.0%)であった。
 これを 2025 年目標の「女性役員 1 名以上」という基準で見ると、未達の会社は 200 社で、プライム上場企業の11.0%を残すまでであった。一方、2030 年目標の「女性役員比率 30%以上」となると 1,743 社が未達であり、つまり95.8%のプライム上場企業に対策が必要な結果となった。

女性役員の増加を図るカギ
 プライム上場企業全体で女性役員比率 30%を達成することを、現在の総役員数を前提として概算すると、女性役員を 3,342 人増やし、6,102 人という現在の 2.2 倍以上の規模にする必要がある。これだけの人数を内部・外部労働市場から獲得するには、基本的に社外役員とするのが現実的な対応と考えられる。社内役員とするには、女性の候補者母集団が小さく育成・キャリア形成にも時間を要するうえ、順番待ち男性候補者のジェラシー問題もあり、急速な増加は見込めないからである。
 また、女性役員の場合は、複数の会社を兼務することが非常に多い。プライム市場では女性役員のうち 516 人が兼務者であり、女性役員全体の 25.0%に上る。これは男性役員の兼務者 6.7%の 3.7 倍以上であり、スタンダード市場も含めた外部労働市場で、女性社外役員の需要が既にひっ迫していることがうかがえる。
 地方の状況はさらに厳しく、女性役員比率が関東・関西圏の 2 分の 1 以下にとどまる県もある(本社所在地ベースの集計)。筆者が出席した地方企業の指名報酬委員会でも「現在は地元や所縁のある方にお願いできているが、それも限界。今後、都市部でスキルを持つ方にお願いしなければならなくなった場合、どのようにお願いするのか、また処遇や環境整備などを検討する必要がある」といった意見が出されるようになった。
 結局、各企業が取るべき施策は、「社内役員候補者の層を厚くすること」「社外役員候補者の発掘に注力すること」「安心して引き受けてもらえる処遇および環境整備を推進すること」である。政府が求める行動計画に落とし込み、指名報酬委員会で協議しながら着実に進めていくことが求められる。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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