コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

コンサルティングサービス

企業のための生物多様性Archives/
国内事例

積水ハウス株式会社様
http://www.sekisuihouse.co.jp/

環境推進部 企画グループ チーフ課長 佐々木 正顕 氏
ハートフル生活研究所 主任 樹木医 畑 明宏 氏


大阪駅に近い梅田スカイビルの公開空地にできた「新・里山」は、訪問した2月には目を引く花もなく一見寂しい冬の里山の風景でした。しかし、街の中にありながら最近都会では見かけなくなった百舌(もず)が営巣するなど、ここを訪れる生物は非常に多様であるといいます。もとは「花野」と呼んでいた場所を、生物との係わりを意識した「新・里山」に作り変えたのが積水ハウスです。実は造園での売上げ規模では日本で最も多く、庭やまちづくりなどの緑化事業や木材調達などを通して本業の中での生物との係わりに注目している同社にお話を伺いました。

Q.生き物との係わりを意識されるようになったのはどういったきっかけでしょうか?

A.積水ハウスでは1999年に全社的な環境取組みについて統括的に推進する部署ができました。そして、環境保全という視点から事業を分析し直す中で、本業に即して最も環境への貢献度の高い活動のひとつとして行き着いたのが生態系に配慮した造園緑化でした。
従来、住宅の造園緑化はいかに美しい庭を造るか、という観点から何よりも景観としての価値を重視して進められてきたと言えると思います。これに対して、私たちは、単にデザインだけでなく「生物が来る庭」という価値観があるのではないか、ということに思い至ったのです。地域の植物や鳥などに詳しいNGOシェアリングアース協会代表の藤本和典氏の協力を得られたことで、造園緑化事業の基本コンセプトとして生き物を呼べる庭というテーマが動き出しました。当社では「3本は鳥のために、2本は蝶のために」という想いをこめて、この取組みを象徴的なネーミングとして「5本の樹」計画と名づけています。地域生態系を意識した取組みが、2001年という比較的早い段階から実施されているのも、こういった背景によるものです。

Q.生き物が来るというのは害虫が来るということもあるのではないでしょうか?

A.多様な植物を植えて多様な生き物が来るようになると、結果として特定の昆虫による被害が少なくなります。例えば、虫が集まればそれを捕食する鳥が集まる、生態系は本来そういう自然のバランスによって巧みに保たれているものです。もちろん、お客様の中には虫や鳥が苦手であったり、落葉樹が落とす葉の掃除が嫌だという方もいらっしゃるので、営業のマニュアルの中でそうしたことは確認するようにしています。その上で、イントラネット上で庭に来る生物との付き合い方の情報共有も行っており、お客様にアドバイスできる体制を整えています。
生き物の話題はお客さまとのコミュニケーションの上でも入りやすいテーマです。例えばアシナガバチが庭に来るというお話があれば、あれは庭木の葉の裏についている毛虫を探して退治してくれているのだとか、刺されないようにするにはどのような注意をしたらいいか、というお話をしながらお客様の昆虫に対する嫌悪感を除いていくようなことができたらいいと考えています。当社では、研修を通してこうした話ができる社員が徐々に増えつつある状況です。

Q.従業員だけでなく消費者にも影響していけるというのは興味深いお話です。

A.庭木の生産者や、山で木を育てる林業者の皆さんと異なり、私たち住宅メーカーはまさに直接エンドユーザーとつながっているので、そんな私たちだからこそ、暮らしと生物や生態系との係わりについてお客様にお話ししなければならないと考えています。例えば当社では、資材調達の一環として、NGOの協力を得て、生態系に配慮して伐採された木材であるか、など10項目に及ぶ指針を含む木材調達のガイドラインを作っているのですが、消費者は家に使われている木材がどこでどのようにして生産されたかについては、意外と関心を払われません。そこで、違法伐採問題やその前提となる生物多様性の配慮の大切さを理解していただけるように、お子さまでも読めるような絵本スタイルの啓発用冊子を作成しています。展示場などの入り口に置いて、気軽に手にとって読んで頂けるものを作ったことで、消費者の木材に対する理解を深めることに役立つことができます。こうした活動は、間接的には違法な木材を使わないサプライヤーのサポートにもなっていると考えています。エンドユーザーに近い私たちにしかできない、私たちの役目、CSRなのですね。さらに、この絵本はお客さまが手に取ることから社員も質問に答える場面が出てきます。必要にかられて社員が勉強することでとても実践的な社内の普及・啓発にもつながっている側面もあるでしょう。
梅田スカイビルにあるこの「新・里山」に関して言えば、一般の方がここを訪れたり、ビルのオフィスワーカーとその家族がボランティア活動に参加する、あるいは、近隣の小学生や幼稚園児が教育の場として活用することを通じて、「5本の樹」計画の考え方や生態系の重要性が理解され、広まってきています。こうした考え方をさらに普及するために、2007年10月からは、樹木や鳥・蝶についての情報を簡単に入手できる「5本の樹・野鳥ケータイ図鑑」という携帯用の自然観察サイト(http://5honnoki.jp)も開設しています。

Q.「新・里山」も生物との係わりについて理解を広める取組みということでしょうか?

A.「新・里山」は当社の取組みについて実感を通して理解してもらうという役割を果たしています。
ここはもともと観光用のお花畑でしたので、季節の花を植えて枯れると次の花に植え替えを行うという消費型の管理をしていました。しかし、里山の思想からすると、抜いた花は産業廃棄物として処分するというスタイルのままでいいのだろうか。そんな気持ちから、管理方法もできるだけ循環型で行えるような新しい方法を模索しながら「新・里山」を作っていくことになりました。最近では、近隣の方だけでなく、環境NPOの皆さんをはじめ様々な方が里山を訪れ、自然観察や環境学習の場として活用して下さっています。

Q.生物多様性保全につながる取組みは本業の中での強みとなるのでしょうか?

A.ひとつには、こうした取組みは他社との差別化として機能すると言えると思います。例えば、「5本の樹」計画では、植えている木が自生種・在来種ということもあり、従来のマーケットではあまり商流に乗らなかったものが見直されてきています。これまで育種業者さんは、公共工事に要求されるような一定の規格のものを一度に大量に準備することを目的として植物を育ててこられましたが、当社からはいわば雑木を作ってもらうようにお願いするわけです。いろんな大きさ、種類の植物を育てるわけですから、当然取引先も多様性に配慮した育成や安定した経営、適正な納入が実現できます。彼らにとっても新たなビジネスチャンスになって相互に連携関係を強めていけるのです。
もちろん、積水ハウスでやっていることを見て、他の住宅会社が造園において似た取り組みを始めようとしているという話も聞きます。しかし、これは、住宅のペアガラスを積水ハウスが標準化した後に、他のメーカーがこれに追随してわが国のペアガラスの普及が進んだという現象と同じことが起きようとしているのではないか、日本の造園・緑化に影響を与えられるのではないかと感じているのです。実は、当社の「5本の樹」計画は2006年にグッドデザイン賞(新領域部門)を受賞しています。その受賞理由のなかで「…生態系を崩さない木をラインナップし、…日本の街づくりに大きなインパクトを与える可能性がある。」と評価して頂いているように、当社の考え方が生物多様性についての住環境づくりの望ましい方向を示し、リーディングカンパニーとしての社会に対する責任を果たすこととなり、このことが同時に当社の強みになっていくのだと信じています。

(2008年2月)


積水ハウスの特徴

5本の樹計画
住まいの庭や街路に地域の気候風土にあった自生種・在来種を植えることで土地本来の生態系を取り戻そうというもの。「3本は鳥のために、2本は蝶のために」というコンセプトで国内の生物多様性保全にも寄与しています。
http://www.sekisuihouse.com/exterior/bio/

木材調達ガイドライン
環境NGOやサプライヤーとの協働を通して木材の持続可能性を評価するガイドラインを2007年4月に策定しました。サステナブルな木材とは何かというテーマに正面から向き合い、木材に対する多面的な視点と、実効性を高めるためのチェック項目の詳細さが特徴的。
http://www.sekisuihouse.co.jp/company/newsobj825.html