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アジア・マンスリー 2012年8月号

【トピックス】
地域間人口構成の格差が広がる中国

2012年08月01日 大泉啓一郎


2010年11月に実施した中国の人口センサスの結果が公表された。人口増加が続くが、一部の省・市
で人口が減少に転じたこと、労働力の偏在、高齢化の進展などの地域間格差が拡大したことが判明した。

■人口センサスの結果が公表
2010年11月1日に実施された中国の人口センサス(国勢調査)の結果が明らかになった。中国では、人口センサスは10年に1度実施され、今回の調査は通算6回目になる。近年、中国では「一人っ子政策」による出生率の低下、農民工などの出稼ぎ労働者の増加、高齢化の進展などの人口動態が経済社会に及ぼす影響が注目されている。人口センサスは、その実態を確認する上で重要な資料である。

2010年の中国の人口は13億3,281万人と2000年の12億4,261万人から9,020万人増加した。増加数は大きいが、この10年間の年平均伸び率は0.7%と、世界平均の1.2%を大きく下回っている。これは「一人っ子政策」による低水準の出生率の影響を受けている。国連の人口推計(中位推計)によれば、中国の人口は2027年から減少に転じる見込みである。

右上図は、2010年の人口ピラミッドである。20~45歳に大きな人口の塊がある一方、14歳以下の人口は極端に少ないことがわかる。2010年の合計特殊出生率(女性が生涯に出産する子どもの数)は公表されていないが、1.5を下回った可能性が高い。第12次5カ年計画では、経済社会構造の転換が強調されているが、その背景には若年労働力をテコにした経済成長が今後困難になるとの判断があると考えられ、人口動態と整合的な計画といえる。

他方、高齢化率(65歳以上の人口比率)は、2000年の7.1%から2010年には8.9%に上昇した。人口ピラミッドに示される人口の塊が65歳を超えると、高齢化は加速する。国連の人口推計では、高齢化率は、2020年に12.6%、2040年には23.3%に上昇する見込みである。

2012年7月1日に北京で開催された国内初の「人口高齢化に関する戦略会議」で、人的資源社会保障部の何平社会保障研究所所長は、高齢化の負担を軽減するために、2045年までに男女を問わず定年退職の年齢を65歳に引き上げるべきだと主張した(現行は、男性が60歳、女性が55歳)。

■人口動態の地域格差が顕著に
もっとも、広大な中国においては各地域で人口動態が異なる。

2000年と2010年のセンサスを比較すると、最も人口が増加したのは、広東省の1,910万人で、2010年の人口は1億432万人となった。第2位が浙江省で850万人(人口は5,443万人)、第3位が上海市で661万人(同2,302万人)、第4位が北京市で604万人(同1,961万人)となっている。これら人口増加数の多い省・市は概して所得水準が高く、主因は、他の地方からの人口移動である。たとえば、広東省では、他の市・省・自治区の戸籍を持つ住民は、2,149万人と同省人口の20%を占める。また、上海市、北京市、天津市の生産年齢人口比率(15~64歳)は、それぞれ82.7%、81.7%、81.3%と高い。

他方、4つの省・市で人口が減少した。人口減少が最も著しいのは湖北省で、227万人減少した。そのほか、四川省、重慶市、貴州省でそれぞれ193万人、167万人、50万人の減少となった。湖北省の戸籍を持ち同省外に住む人口は589万人で、なかでも広東省が234万人と多い。湖北省から広東省への出稼ぎが多いことがわかる。わが国では、人口減少は経済成長を阻害する要因の一つとして捉えられており、中国国内にも成長力を阻害するような人口動態を持つ省・市が出現したことには注意したい。これらの4つの省・市の一人当たりGDPの水準はいずれも国平均を下回っており、生産年齢人口比率も湖北省(77.0%)を除いて、四川省(72.1%)、重慶市(71.3%)、貴州省(66.0%)は低い。人口移動による地域間で労働力偏在が生じている。

■「未富先老」の現実化
国内の人口移動は、地域ごとの高齢化の違いにも影響を及ぼしている。2000年時点では、高齢化率が最も高かったのは上海市で11.5%、第2位が浙江省8.9%、第3位が江蘇省で8.8%であった(右表)。以下、北京市、天津市、山東省と、所得水準の高い沿海地域が上位を占めていた。ところが、2010年では、第1位が重慶市で11.7%、これに四川省(11.0%)と江蘇省(10.9%)、さらに遼寧省(10.3%)、安徽省(10.2%)が続く。江蘇省を除き、いずれも所得水準の低い省・市である。つまり、この10年間で人口移動により所得水準の低い地域で高齢化が加速したといえる。他方、上海市の2010年の高齢化率は10.1%と第6位に位置するものの、2000年の11.5%から低下している。北京市や天津市も同様で、高齢化率はこの10年間で0.1~0.2%ポイント増加したにすぎない。

また、省・市・自治区内で、都市と農村の高齢化率の格差が拡大している。2000年の都市の高齢化率は6.4%、農村は7.5%であり、その差異は1.1%ポイントであったが、2010年には都市が7.8%、農村が10.1%に上昇し、差異は2.3%ポイントに拡大した。この傾向は所得水準の低い省・市・自治区で顕著で、重慶市ではその差異はそれぞれ0.5%ポイントから5.2%ポイント、四川省では1.0%ポイントから3.3%ポイントに拡大した。重慶市と四川省の農村の高齢化率は14.5%、12.3%と高く、中国で懸念されている「未富先老(豊かになる前に高齢化が進む)」は、これらの農村ではすでに現実化している。

中国では、都市と農村を厳しく区分する戸籍制度を格差是正の観点から見直すべきだとの議論が高まっている。しかし、戸籍制度の見直しにより若年人口の移動が増加することは明らかである。その結果、地域間、都市・農村間の人口構成の格差が拡大し、かえって地域経済格差の拡大の原因になることに注意したい。一人っ子政策や戸籍制度などの人口政策に、どのような姿勢で臨むのか、秋に開催予定の党大会の行方が注目される。
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