コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

オピニオン

より広い視点での「再生」推進を

2009年11月02日 山田英司


 企業業績の回復基調に不透明感が残る中で、一部の金融や情報通信、さらには航空会社など大型企業の経営再建策が巷間を賑わせている。一方で、企業再生に関して各種の公的機関によるスキームが提示されるなど、再生が再び重要なテーマとなりつつあり、これらの動きを見越して、企業再生ブームの復活を企図するような動きも活発化している。
しかしながら、時代環境は大きく変化しており、企業再生のあり方もそれに応じて様変わりしつつある。それでは、企業再生における変化とは何か。この問いについては、下記の3つがあげられる。
(1)再生の主眼の変化
(2)支援対象先の変化
(3)支援者の変化
以下では、その変化を説明しながら今後の企業再生のあり方を整理する。

(1)再生の主眼の変化
 まずは再生の主眼の変化について整理する。かつての企業再生の主眼は、バブル期に企業が溜め込んだ不良債権の処理であり、さらに言えばそれらの不良債権に貼りついている過剰債務の清算が目的であった。実際、政府系再生機関が関与した案件において過剰負債は解決され、支援先も確保されており、バランスシートの改善という意味では一定の成果が現れている。
それに比して今回の企業再生の主眼は、不況下において改善の確保が困難であることに起因したキャッシュフロー不足への対応にある。もちろん、現在話題になっている企業についてはバランスシートに大きな課題を抱えているのは間違いない。しかしながら、これに加えて収益・キャッシュフローの悪化が大きな課題になっており、これらの改善については、不況下における内需の縮小と、グローバルでの競争の激化を踏まえると、債権者・債務者の当事者のみで決着のつくバランスシートの改善よりも現段階においては難易度が高いといわざるを得ない。

(2)支援対象先の変化
 さらに、再生の対象となる企業について考えてみたい。前回の再生ブームにより多くの企業はバランスシートの改善は済ませており、今回の事業再生においては、収益・キャッシュフローでの再成長路線の探索に主眼が移行しつつあることは説明した。
一方で、従来のバランスシート改善が必要な企業は、中央の大手企業から、地域中堅企業や第三セクターに移行しつつある。これは、他の説明とリンクするが従来の支援対象先と比較すると小粒であるとともに、その性格上、急激な成長が望めないところから、再生に向けて多くの困難が予想される。

(3)支援者の変化
 さらに、企業再生における支援者についても変化が見受けられる。従来は、豊富な海外の資金を背景にしてファンドを中心とした支援者が多数存在したが、現段階においてリーマンショック以降はこれらの支援者たる資金の出し手が急速に減少したことが大きな変化要因である。
また、一方で投資案件は地域中堅企業や第三セクターがその対象になると予想されることは既に説明したが、これらの案件については規模が小さいため、投資回収の方法や効率性にも限界があり、さらには地域経済の実情を踏まえると回収までの期間が従来よりも長期化することが予想される。したがって、従来のファンドでは対応が困難な案件が増えることが予想され、新たな資金の出し手をどのように探索するかが大きな課題となると思われる。

 これらの変化を踏まえると、企業再生については、複雑さと難易度が増しており、従来の成功体験だけでは十分に対応できなくなっており、新たな枠組みによる対応が必要になると思われる。
 まず、バランスシート改善から収益構造改善への主眼の転換については、企業単独での解決策では限界がある。バリューチェーン再構築による収益構造の変革や、グローバル市場への進出などがいっそう要求されることになり、その意味では企業間の大掛かりな再編も視野にいれる必要があり、産業再生的な視点が不可欠となる。
 一方、上記の方法については、地域中堅企業や公営企業、第三セクターへの再生支援にはあてはまらない。地域そのものの経済力が地盤沈下していく中でどの様に対応していくかといういわゆる地域再生的な視点がより重要であるからである。
 いずれにせよ、これらの視点は民間の支援者では限界がある。その意味で、今後において行政における再生への取組みが今後問われると思われる。

 これまで、行政の再生についての取組みは、主に個別企業に対して補助金や税務的なメリットを享受するスタンスから、かつての産業再生機構などによる、具体的に踏み込んだ再生支援まで移行しており、これについては評価されるべきと思われる。
しかしながらこれらの支援は、あくまでも個別企業の支援に過ぎず、産業の再生とはいえない。私見であるが、経済の低迷期において、個別企業の成長の前提には行政による意図的な産業育成も必要であると考える。
具体的には、今後は行政において、国際競争力のある産業振興にかなう産業については、行政主導で再編も視野に入れた再生支援を実施すべきである。一方で地域においては過去にもてはやされた単純な企業誘致だけではなく、地域のあり方を根本的に問い直しながら、現存する企業群をどの様に有機的に結合させて活性化させるか、へと導く施策を進める必要がある。
いずれにしても、このように産業や地域といった幅広い視点からの再生アプローチが求められているのであり、行政による再生が個別企業への支援へと埋没することのないように十分留意すべきである。個別企業の問題については、既存のファンドでも対応が可能であり、これに行政が多額の資金を持ち出して行うべきはないと思料する。

 さらに、現状においてはこれらの支援の枠組みが各省庁、自治体でそれぞれ別個に企画され運用されているという問題を打破する必要があると考える。実際問題として、各種の支援について行政機関がそれぞれの財政スキームの中で、類似のスキームで対応しているケースが散見される。
しかしながら、これでは対応が小粒になり、その効果も限定なものとなってしまうであろう。少なくとも現段階では企業再生を推進する組織については、予算を含めて一本化することが必要である。

 おりしも政権が交代したが、新政権の基本路線は省庁主導の縦割り行政から、政治主導の包括的な政策立案への転換となっている。これは、現状を転換するためのまたとない機会である。というのは企業再生という個別課題は重要であるが、産業や地域再生の全体像を描く必要性はさらに重要であると考えているからである。
具体的には、国の再生に対しての基本的なスタンスを提示し、民との役割分担を明確にしたうえで、産業・企業・事業の再生支援について、今後は従来の各省庁縦割りから、例えば国家戦略局などが主導で行う形で推進してみるのはいかがであろうか。従来の違った形での再生への展望が開けるのではと思われる。

 いずれにしても、日本経済の建て直しのためには企業再生は重要なポイントであるが、そのためには産業や地域がより強固な形で「再生」することが不可欠である。そのためにも、この数年が重要な時期であることは間違いがない。そして、残された時間は少ない。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ