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(3) 全てのステークホルダーを巻き込むイニシアティブの発表

2008年06月10日 古賀啓一


COP9では3つのイニシアティブが発表された。国によるLife Web Initiative、都市によるCities and Biodiversity Initiative、そして、企業によるBusiness and Biodiversity Initiativeである。これらのイニシアティブが各ステークホルダーから出揃ったことは、生物多様性の保全に向けてあらゆる主体が行動を具体化し始めたことを意味している。ここでは、この3つのイニシアティブの内容を見てみたい。

まず、Life Web Initiativeは、新しい保護区の指定、及び既存の保護区の管理方法の改善に関する自主的なコミットメントと、これらの地域への融資に関するコミットメントを調和させることを目的としている。これまでの資金援助と大きく異なるのは、融資の受け手国が具体的な保護区をあらかじめ宣言することで、その融資の使途が明確化されているところにある。こうすることで、融資の出し手国にとっては資金が確実に保護区の指定に使われ、また、融資の受け手国にとっては保護区の指定に必要な資金が確実に拠出されるようになることが期待される。COP9では、違法伐採に悩むコンゴが既存の保護区22,000 km2を150,000 km2にまで拡大するとしたほか、インドネシアが世界最大規模となる200,000 km2の海洋保護区を設定すると宣言した。こうした保護地区の拡大は、生物多様性保全の実質的な進展に大きく貢献するだろう。これに対し、ドイツは2009年から2012年にかけて5億ユーロの資金拠出を行い、2013年からは毎年5億円という長期のコミットメントをする予定であることを表明した。

Cities and Biodiversity Initiativeは、技術協力やキャパシティービルディング(能力開発)事業、対話、共同支援を通して、市町村や地方政府などの能力を高めることを目的としたものだ。COP8以降、都市部の生物多様性に注目して、町レベルから生物多様性に関する行動を起こしていくという取組みが進められている。このイニシアティブは近年急速に都市化している途上国にとって重要な意味を持つことになろう。2007年には初めて世界の都市部における人口がその他の地方を上回り、資源の75%が都市で消費されているという。このことからも、大量の資源を獲得するという形で、都市がその内部、外部の生物多様性に大きな影響を与えているのは明らかだ。地方政府には全ての市民、産業部門の注意を喚起し、企業が生物多様性の保全と管理の能力を発揮するように仕向けるなど、ステークホルダーを巻き込んでいくことが求められている。COP10開催都市である名古屋は、ボン、クリチバ、ヨハネスブルク、モントリオールと並んで運営委員にも指名されており、次のホストとして議論を率先する責任があるだろう。

これまで最も生物多様性条約(CBD)の目標達成に貢献してこなかったとされる企業活動の領域においても、Business and Biodiversity Initiativeが作られた。このイニシアティブに署名した企業は、今後以下の取組みを進めることを表明したことになる。

1. 企業活動が生物多様性に与える影響について分析を行う
2. 企業の環境管理システムに生物多様性の保全を組み込み、生物多様性指標を作成する
3. 生物多様性部門のすべての活動の指揮を執り、役員会に報告を行う担当者を企業内で指名する
4. 2~3年毎にモニターし、調整できるような現実的かつ測定可能な目標を設定する
5. 年次報告書、環境報告書、CSR 報告書にて、生物多様性部門におけるすべての活動と成果を公表する
6. 生物多様性の保全に関する目標を納入業者に通知し、納入業者の活動を当該企業の目標と合うように統合してゆく
7. ステークホルダー間の対話を深め、生物多様性部門の管理システムを引き続き改善してゆくために、科学機関やNGO との協調を検討する

このイニシアティブに関する記者会見には日本企業からも株式会社アレフ(びっくりドンキーなどを運営するレストランチェーン)とサラヤ株式会社(ヤシノミ洗剤で知られる洗剤メーカー)が臨み、それぞれ生物多様性に関係した取組みについて紹介を行った。記者会見に臨んだ企業によると、将来生物多様性を意識した顧客層が現れることを見越しているとしており、そうした顧客層が広がりを見せるのか、今後の市場の動向が注目される。同イニシアティブには世界から34社、うち日本からは9社が署名した。

COP9を通じて、世界では官民のあらゆる部門がCBDの目標達成に向けて動き始めた。翻ってみて、日本はどうだろうか。国レベルでは生物多様性基本法が成立・施行され、国内企業では世界的に見ても先進的な取組みを行っているなど、一見COP10でもホスト国として十分な役割を果たせるかのように思われる。しかし、欧州と比較すると国内で生物多様性の認知度が十分に高まっているとは到底言えない現状があり、CBDに対する姿勢は行政、民間ともに足並みがそろっていない。ホスト国としての世界からの期待に応えられるかどうかは、2年後に迫ったCOP10までに社会総がかりで生物多様性に取組める体制を整えられるかが鍵となろう。
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