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コラム「研究員のココロ」

【RCM経営入門 アフターJSOXシリーズ】(第5回) 目標管理制度にリスク・コントロール・マトリックス(RCM)の視点を!!

2009年06月22日 大井大輔


1.目標管理制度の問題点

 目標管理制度とは、組織の目標を達成するために、期首に自身の目標を立て、期中に目標達成に向けて取り組み、期末に目標を達成したかどうかを評価する一連の制度である。目標管理制度は1990年代半ば以降の日本で、成果主義型人事制度の導入に合わせて導入されたためか、本来のマネジメントツールとしてではなく、人事考課のツールとして利用されることが多い。そのために、以下のような課題が顕在化しつつある。

(1)組織目標と個人目標との整合性がとられていない

 目標管理制度の本来の目的は、上位目標=組織目標を達成するために、自身が何をすべきかを自主的に考え、目標を設定することである。しかし、人事考課のツールとして利用されたために、その効果を測定できることが第一となり、上位目標との整合性を十分に検討しないまま、目標を設定することが多くなっている。

(2)達成度を高めるために低い目標を立てる(個人目標を達成しても組織目標が達成されない)

 目標管理制度は先にも述べたとおり、自主的に自身の行動を管理することを目的としており、本来、自身の能力を向上させることができるような(チャレンジできる)高い目標を設定することが重要である。しかし、人事考課のツールとして利用されているために、容易に達成できる低い目標を立ててしまう傾向がある。特に研究部門のように、新しい技術を開発するようなケースでは、多くの場合が失敗してしまうので、チャレンジングなテーマを目標として設定することが難しい。現状の改善程度の目標設定に留まることで、組織としての活力が失われる危険性を孕んでいる。

(3)設定した目標以外に取り組まない

 人事考課のツールとして、目標管理制度のシートを利用したために、そのシートに記載したテーマにしか取り組まないという現象も散見される。従来であれば、担当者間・組織間の阿吽の呼吸によって埋められてきた業務(テーマ)において、目標管理制度を導入することで取り組みの漏れが生じており、大きな歪みを生じるようになった。例えば、営業部門がフロント業務として顧客との商談を対象とし、営業管理部門が営業支援業務として受注伝票などの処理業務を対象とした場合に、顧客からのクレームに対する処理や返品処理などが組織間の狭間業務となりやすい。このような狭間業務に対する責任があいまいになり、本来品質を高めるべき業務がなおざりになってしまうことがある。

 本コラムでは、ここにあげた問題を解決するために、リスク・コントロール・マトリックス(以下RCM)の視点を盛り込んだ目標管理制度の新しい活用方法について、述べていくこととする。

2.RCMの特徴について

 RCMの特徴は、組織目標の達成を阻害するリスクを明確にし、そのリスクに対する取り組み(統制活動=設定目標)をアクティビティレベルで検討することである。その際に、組織目標に対する有効性、実行性や網羅性(漏れ)などについて、アサーション(要点:検討のポイント)の観点から、その設定目標を実行することで本当に組織目標を達成することができるかどうかを精緻に検討する。そのような検討過程を経ることで、組織目標に対して十分なアクティビティ(統制活動)を検討することができる。また、各人の自主性を重んじているため、設定した対応活動について、実施できていたかどうかを自己点検する仕組みとなっており、その結果を上司が評価する。このようなプロセスを経ることで、主体的な取り組みが実行でき、自身への気付きも得ることとなり、自己を成長させるためのツールとなり得るのである。RCMを活用する利点をまとめると、以下の通りである。

1)組織目標の達成を阻害するリスク及びそれに対するアクティビティ(対応活動)を検討することで、組織目標と個人の活動レベルでの設定目標との整合性が保たれる。

2)組織目標の達成を阻害するリスクに対する取り組みを、各アサーションの観点から検討することで、組織目標が達成できないような低い目標が設定されることがなくなる。また目標設定において漏れが生じることがなくなる。

3)自己点検の概念を導入することで、セルフコントロールの意識を社内に醸成し、自ら成長する機会を得ることができる。

4)上司の評価を得る過程で、組織内のコミュニケーションが活性化される。

3.目標管理制度にRCMの視点を導入する

 目標管理制度とRCMとの大きな違いは、目標管理制度が組織目標を達成するための施策(個人活動)を検討することに主眼を置いているのに対し、RCMは組織目標の達成を阻害するリスクに対する取り組み(=統制活動)を検討することに主眼を置いていることである。つまり目標管理制度にRCMの視点を導入することで、組織目標を達成するための施策について、より精緻に検討することができる。冒頭で述べた通り、目標管理制度が形骸化している大きな原因は、組織目標と個人目標(=施策)の整合性が取られていないことであるが、RCMの視点を導入することで、それが可能になり、さらに、その個人目標についての自己点検を行うことで、本来目標管理制度が期待している自己成長の機会を提供することとなる。
具体的な活用方法として、例えば、建設会社の営業担当の目標管理制度を考えてみよう。部門目標が売上高100億円としたときに、通常の目標管理制度であれば、個人目標が10億円というようにブレイクダウンされ、顧客リストを作成する、リストに従って往訪するというレベルで目標設定がなされていないだろうか。ここに、RCMの視点を導入すると、例えば、目標を達成できないリスクの分類を出発点として、個人目標10億円を達成するための活動、営業時間を確保するための活動、大規模案件に対応するための活動などの個人目標を検討することができる。また設定した個人目標が実施できたかどうかを確認するための評価手法を予め検討しておくことで、自己点検が可能となる。その後、その結果に基づき、上司と面談を行い、評価を得ることになる。ポイントはいかにシャープな切り口でリスクを洗い出すかであるが、目標に対する「有効性」「実行性」「網羅性」等のアサーションから洗い出すと良い。上司は目標設定をした際の面談時にそれらのアサーションから十分に個人目標を検討しているかどうかを確認することが重要である。個人目標の設定から自己点検・上司評価までの一連の活動によって、本来の目標管理制度の目的である組織目標の達成、個人のスキルアップと組織のコミュニケーションの活性化が達成できるのではないだろうか。一度、自社の目標管理制度にRCMの視点を導入することをお奨めしたい。



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