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自治体の温暖化対策は第2フェーズへ

2009年07月31日 青山光彦


 7月に入り、自治体と気候変動問題に関する重要なレポートがたて続けに公表された。1つは、7月2日にICLEI(イクレイ:持続可能性をめざす自治体協議会)を中心としてREN21(再生可能エネルギー政策ネットワーク)、ISEP(環境エネルギー政策研究所と)と連名で発表された”Global Status Report on Local Renewable Energy Policies” で、世界の160の自治体における再生可能エネルギー政策に関する調査・分析結果が示されたものである。もう1つは、7月8日にICEL米国事務所とCDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)が発表した”Carbon Disclosure Project Cities Pilot Project 2008”で、アメリカ国内18都市が当プロジェクトに参加し、気候変動に関する情報開示を行っている。
 前者については、現在調査進行中のものであり、今後も改訂を予定しているとのことで、ここでは後者の概要について紹介したい。

 このプロジェクトは2008年に実施されたもので、通常CDPがアンケート対象を企業としているのに対して、今回の対象は自治体であることに特徴がある。アメリカの30の参加希望自治体のうち18自治体から得られた情報を開示・分析を行っている。本プロジェクトを通して、参加都市はリスクマネジメント力の向上をはじめ、リーダーシップを図ることにより、市民、事業者といった各種ステークホルダーの意識啓発などの実現を目指している。
 アンケート内容として大きく4つのテーマに分かれており
 ・気候変動に関するリスクとチャンス(機会)
 ・温室効果ガス排出量データ開示
 ・戦略と成果・実績
 ・ガバナンス
が主な内容である。

 筆者は以前より自治体における環境・エネルギー政策・戦略立案に携わっており、特に1点目の「リスクとチャンス」の結果に注目したい。
 一般的に気候変動問題のリスクとチャンスは、規制面、物理面、一般面に分類され、今回もその分類で報告されている。以下に主だったものを例示する。

【規制リスク】:キャップアンドトレード、炭素税、水資源の確保
【物理リスク】:海面上昇、台風などの異常気象、土壌浸食、旱魃・火事、健康被害
【一般リスク】:生態系破壊、経済的影響(観光産業・金融業等)
         人口構造の変化(環境難民等)、食料品等の調達

【規制チャンス】:再生可能エネルギー事業の促進、
          再生可能エネルギーの技術革新、
          (車に頼らないため)市民の健康増進など
【物理チャンス】:温暖気象による各種コスト削減(死亡率低下による医療費削減、
          暖房コストの低下(一方で冷房コスト増))
          レジャー・観光シーズンの期間延長による産業振興など
【一般チャンス】:省エネ対策によるエネルギーコスト削減、
          地域コミュニティの結束力強化・雇用の創出

 こうしてみると、一般企業にとっての気候変動問題のリスクとチャンスと共通の項目(主に規制面、物理面)もあればそうでないもの(主に一般面)も見られる。地域における生態系の保全や人口構造問題・地域コミュニティへの影響といった地域資源、地域住民に関する問題は自治体特有のものであるといえる。
 また、本レポートによれば、どの自治体においても、気候変動問題に関するリスクマネジメントのために向けて「緩和」と「適応」の視点を取り入れた計画及び具体的な施策を講じている、とある。
 以前のクローズアップテーマコラム「『気候変動への適応』と自治体経営」においても、リスク評価と具体的適応策の重要性が指摘されているが、海外ではすでにこうした視点を取り入れた計画づくりが一部の都市で進行しつつある。

 これまでの国内自治体の温暖化対策といえば、「環境基本計画」を上位計画として、「地球温暖化対策地域推進計画」、「地域新エネルギービジョン」、「地域省エネルギービジョン」などがあげられるが、こうした「緩和策」を中心としたプランニングフェーズから「緩和策」+「適応策」のプランニングフェーズへとそろそろ移行すべき時期を迎えているのではないか。今後、そうした機運の盛り上がりに期待したい。
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