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アジア・マンスリー 2009年7月号

【トピックス】
香港の雇用情勢の悪化に歯止め

2009年07月01日 関辰一


香港では、内外需の落ち込みにより、昨年秋口から雇用情勢が急速に悪化した。ただし今後、中国の景気回復と香港政府の雇用対策により、悪化傾向に歯止めがかかる見込みである。

■2~4月の完全失業率は5.3%
香港の雇用環境が悪化している。昨年秋口から大幅に上昇していた完全失業率(季節調整値)は2009年2~4月に5.3%に達した。失業者数も、急速に増加し2~4月に平均19.7万人(4月の後方3カ月移動平均)となった。

雇用環境は、貿易関連産業に従事する者が全体の3割と多いことから、中継貿易縮小の影響を大きく受けている。中継貿易(再輸出)が97%を占める輸出が、昨年秋口から急速に落ち込んだ。輸出の実質的な水準を表す輸出数量指数は、3月に前年同期比▲2割の水準まで落ち込んでいる。

業種別にみると、第1に、貿易関連産業(商業、運輸・倉庫・通信業)が、昨年秋から急速に悪化した。商業において、2008年12月~2009年2月の平均失業者数が前年同期比23.9万人増と、大幅な人員調整が進められた。加えて、コンテナ取扱量の減少により、港湾サービスなど運輸・倉庫・通信業も悪化した(同7.6万人増)。

第2に、米国発の金融危機を背景とした香港の金融機関などの業績悪化に伴う人員削減により、金融・保険・不動産・企業向けサービス業でも、雇用情勢の悪化が続いている(同8.4万人増)。

第3に、これら海外要因による雇用情勢の悪化は、他の産業にも波及した。とりわけ、建設業の雇用環境が、大幅に悪化した(同7.1万人増)。2~4月の建設業の失業率は12.7%と、全業種のなかで突出して高い。

ただし、雇用情勢の悪化テンポが減速する兆しもみられる。2~4月の完全失業率(5.3%)が1~3月に比べて上昇したものの、上昇幅は0.1ポイントと、1~3月の同0.3ポイントから縮小している。これは、3月の輸出数量指数が前月比1.2%と5カ月ぶりに増加に転じたように、中継貿易の急速な落ち込みに歯止めがかかりつつあるためである。

■政府の雇用対策に期待
政府の雇用対策は、就業人口の多い貿易関連産業や金融業などの雇用情勢を本格的に改善させるには力不足であるものの、悪化スピードを緩和させる見込みである。4月23日に、16億香港ドルの雇用対策を含む2009/10年度予算が成立した (総額708億香港ドル)。これらの雇用対策は、3年間で約6.2万人の雇用創造を目標としており、3年間で失業率を2%押し下げる見込みである。

政府予算の内訳をみると、老朽ビルの改築に対する補助金、政府ビルや公共施設のエネルギー効率の向上などが主な内容となっている。したがって、とりわけ失業率が高い建設業を中心に雇用対策の恩恵を享受できよう。

さらに、5月26日に発表された追加の景気刺激策(総額168億香港ドル)も、雇用情勢の悪化を和らげる見込みである。追加の景気対策では、中小企業の資金支援策や個人所得税減税に加え、老朽ビルの修繕・建替えに対する予算が10億香港ドル引き上げられたことが注目される。また、臨時公務員の採用に、3億香港ドルが割り当てられた。

■中国の景気回復が鍵
冒頭でみたように、香港の雇用は、貿易関連産業に携わる者が多いため、中継貿易の回復の影響を大きく受ける。中継貿易の今後を展望すると、これまでの急速な減少に歯止めがかかると見込まれるため、雇用環境にもプラスに作用しよう。失業率でみれば、アジア通貨危機後の6.4%を上回ることがあってもSARS時の8.5%に迫る可能性は低いと思われる。

中継貿易の底入れは、中国の景気回復が鍵となっている。中継貿易の仕向け先ごとの輸出額をみると、中国向けが全体の5割を占めるためである。中国では、輸出が落ち込んでいるものの、4兆元の景気対策と家電下郷(家電購入における補助金)を背景に、生産に回復の兆しがみられる。香港の中国向け輸出は、生産財の割合が高いため、中国の生産との相関が強い(相関係数0.78、決定係数0.61)。したがって、中国の生産が持ち直すことで、中国向け輸出が増加に転じると思われる。

一方、米国や欧州では、景気後退が長期化する見通しである。したがって、全体の3割を占める欧米向け輸出は、弱含みで推移する可能性が高い。総じてみれば、シェアの大きい中国向け輸出がプラスに転じることで欧米向けの落ち込みを相殺すると思われる。

以上より、欧米景気の悪化や金融危機の影響が続くものの、中国の景気回復と政府の雇用対策が相まって、香港の雇用環境の悪化に歯止めがかかることが期待される。
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