コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

Sohatsu Eyes

国内クレジット制度の開始と企業のビジネスチャンス

2008年12月16日 長谷直子



政府の地球温暖化対策推進本部(本部長:麻生総理大臣)は、10月21日、排出量取引の国内統合市場の試行的実施(試行実施)について決定し、参加者の募集を開始しました。試行実施は、参加企業等が削減目標を設定し、その目標の超過達成分(排出枠)などを取引することで目標達成を行う仕組みですが、この取引で活用可能なクレジットとして、国内クレジット(中小企業等に係る削減活動による追加的な削減分として創出されるクレジット)が位置付けられています。試行実施に併せて、国内クレジット制度のプロジェクトの募集が開始され、11月7日に開催された第1回国内クレジット認証委員会において、5件の申請が正式に受け付けられました。

国内クレジット制度は、京都議定書目標達成計画(平成20年3月28日閣議決定)において規定され、大企業等の技術・資金等を提供して中小企業等が行った温室効果ガスの排出抑制のための取組による排出削減量を認証し、自主行動計画等の目標達成のために活用する制度です。経済産業省では、これまで年間数億円の補助金を活用して、中小企業のCO2削減設備の導入を後押ししてきましたが、補助金による支援では財政的な制約もあり、CO2削減量の限界がありました。そこで、民間、特に大企業の技術・資金を活用して中小企業の排出削減を進める仕組みとして、国内クレジット制度の整備が進められました。

第1回認証委員会で申請を受け付けたのは、東京大学による蛍光灯のインバーター化や東大医学部付属病院の冷凍機設備の更新、静岡県の缶詰工場におけるボイラーの更新などの事業です。設備投資費は基本的に中小企業の負担となりますが、排出枠を大手企業に売却することで、投資回収の原資として活用することができます。大企業側も購入した国内クレジットを、自社の自主行動計画の目標達成に活用することが可能です。

日本の大企業は、現状でも省エネが相当程度進んでいるため、CO2削減余地は限られています。一方で、中小企業はCO2を削減するための資金や技術面の課題を抱えているものの、CO2削減余地は十分にあります。中小企業のCO2削減余地を生かして大企業が技術や資金面で支援を行っていくことは、大企業と中小企業の双方にメリットがあると言えるでしょう。また、海外からの排出権の購入で技術や資金を流出させるのではなく、国内で活用することは、日本の国益にもかないます。技術とものづくりが中心の日本の産業に見合った制度として、国内クレジット制度が確立されることを期待しています。

※eyesは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ