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コラム「研究員のココロ」

「Web 2.0」を切り口とした官民協働(PPP)事業の創出について

2008年03月17日 東博暢


 前回のコラム「わが国においてWeb 2.0をどのように活用すべきか?」ではWeb 2.0の基礎的な理解に重きをおいて執筆した。
 今回は、Web 2.0時代におけるマーケット組成までの3つのプロセスを考えた上で、Web 2.0と地域活性化の関係性について述べ、「Web 2.0」を切り口とした官民協働(PPP)の創出について考える。

1.Web 2.0時代におけるマーケット組成のプロセス論

 まず、Web 2.0の具体的な活用法を考えるにあたり、Web2.0時代におけるマーケット組成のプロセスを整理し、理解する必要がある。これは、Google、YouTube、MySpace、Flickr、 FONなどのサービスの進化過程を考えれば理解しやすい。

(図表1)Web 2.0時代におけるマーケット組成の3つのプロセス
(図表1)Web 2.0時代におけるマーケット組成の3つのプロセス
出所:筆者作成


第1のプロセス:ユーザーオリエンティッドなプラットフォームの構築

 前回、ユ-ザー基点の発想が重要であることについては述べた。まずはユーザーが活動するプラットフォーム(土台)の構築が重要になる。Googleは、ユーザーが知りたい情報を簡単に調べることができるという欲求をかなえるための「検索のプラットフォーム」を構築した。YouTubeは、ユーザーが自分の所有する動画をアップロードして見てもらう、またユーザーが面白い動画を視聴するための「動画共有のプラットフォーム」を構築した。MySpaceは「交流のプラットフォーム」、Flickrは「写真共有のプラットフォーム」、Second Lifeは「創造のプラットフォーム」、FONは「通信のプラットフォーム」といった具合である。ただし、それぞれのサービスは初期段階において「ユーザー基点」を徹底し、シェアやオープンソース、マッシュアップ(複数の異なる提供元の技術やコンテンツを複合させて新しいサービスを形成すること)といった形で徹底的にユーザーの欲求を反映していたところに特徴がある。

第2のプロセス:プラットフォーム上での活発なコミュニティの形成

 構築したプラットフォームの上に活発なコミュニティを形成することが第2のプロセスである。
 例えば、地方自治体が山を切り開き、住宅地を開発してもそこに人が住みつかずコミュニティが形成されなければその自治体財政は破綻するであろう。企業がマンションやビルを建てても入居者がいなければ赤字である。つまりプラットフォームは崩壊してしまう。それを回避するために、第1のプロセスにおいて「ユーザーオリエンティッド」が徹底されるのであり、潜在的であっても、ニーズを把握するためにマーケット調査などが行われるのであろうが、実はこのプロセスが一番難しいのである。
 Web 2.0では、常に「素早い更新性」が求められる。つまり、ユーザーの欲求にすぐに対応し、サービスを向上し続けなければ、ユーザーは離れて行き、別のプラットフォームに移ってしまう。マンションを移るのとは違い、Web上では引越しは無料で一瞬である。また、面白いプラットフォームが構築されれば、その情報が世界中に出回り、よく似たプラットフォームが次々と構築され、ユーザーに来てもらおうと努力する。最初に構築されたプラットフォームには先行者メリットもあるがとにかく走り続けなければならないのである。実際、「動画共有」とGoogle検索したらどれだけ出てくるのか実際調べてもらえば分かるであろう。
 では、どのようにして、プラットフォーム上に活発なコミュニティを形成し根付かせるのかについて考える。
 今の時代、「素材」があれば、ユニークなコンテンツやその利用法は、ユーザーの手でどんどんと創り出されていく。例えば、昨年一大ブームとなった「初音ミク」などはその最たる例であろう。ユーザーにとって重要なのは、創り出したコンテンツをいかに簡単に、シェア、マッシュアップ、リミックスできるかという「操作性」である。それを可能とするプラットフォームでは、活発にコンテンツが流通し、ユーザーの手によってコミュニティの形成が極めて創発的に行われる。
 前述した企業は、常にプラットフォーム整備に投資し、ユーザーのクリエイティビティーを高める環境整備を行い、自社のサービスを進化させている。FlickrはCreative Commonsのライセンスを採用しているし、YouTubeは携帯電話でも操作できるようにサービスを進化させている。

第3のプロセス:活発なコミュニティを核としたマーケットの形成

 ユーザー同士が活発に議論している活発なコミュニティには、群集の叡智(The wisdom of clods)や集合知(Collective Intelligence)と呼ばれるように、様々なアイデアや智恵が世界中のユーザーから集まる。民間企業がそこにイノベーションの可能性を求めて集まってくることで、マーケットが形成される。この段階になって、ようやく広告モデル事業や民間企業とのR&Dタイアップなどのビジネスが成立してくるのである。

 以上のプロセスに口コミというバイラルな要素が加わることで、ネットワークの外部性(プラットフォームに参加する人々が多くなればなるほどプラットフォームの価値が高まること)が発揮され、このプラットフォームは生命的機能を持つかのように自己組織的に価値が高まっていくのである。
 このようなマーケット組成のプロセスを理解した上で、我が国の現状にあったモデルに最適化し活用することを考えればよいのである。
 以下では、我が国の重要なテーマになっている地域の活性化に焦点を当てて考えてみる。近年、地域の活性化にあたって官民協働やNPO、社会起業家などの重要性が活発に議論され、成功事例も出ている。そこで、このような活動を加速させ、イノベーションの推進を図るために、「web 2.0」を使った新たなモデル構築について考えてみよう。

2.Web 2.0と地域活性化の関係性

 Web 2.0と地域活性化はどのような関係があるのだろうか。実は、シェア、オープンソース、マッシュアップというWeb 2.0に特徴的なキーワードを考えれば分かる。このようなキーワードは、民間企業にとっては非常に恐ろしいキーワードであるが、公的機関にとっては非常に喜ぶべきものなのである。

(1)民間営利企業にとってのWeb 2.0とは何か?

 なぜ民間企業にとってWeb 2.0は恐ろしいのか?それは、単純なサービス、ビジネスモデルでは、すぐにオープンソース化され無料でシェアされビジネスとして成立しないからである。前段で述べたように、活発なコミュニティに根ざしたビジネスモデルを構築しない限りは、収益を上げることは難しい。戦略的思考のみならず、より高度な創発的な思考と、持続的なイノベーションが求められるのである。
 しかし、一旦活発なコミュニティを形成し、これと協働することが出来れば、企業は外部パートナーとしてコミュニティを活用することで、安価でタイムリーな商品開発、マーケット調査を実施することも可能となる。

(2)公的機関にとってのWeb 2.0とは何か?

 公的機関にとっては、収益を上げることが目的ではなく、より多くの市民に良質なサービスが行き届くようにするのがミッションである。安心・安全、行政の透明性、住みやすさなどお金で買えない価値を市民に提供することも非常に重要である。そして、そのサービスの達成度合いにより市民が地域のブランドを評価する。
 しかし、公的機関の多くは、まだWeb 1.0のレベルであたふたしている。インターネットをどうやって活用すれば良いのか?見映えのよいホームページを作りました、などといったレベルであり、民間企業と比べて周回遅れどころの話ではない。観光による地域活性化を謳ってみても、その地域が地元住民以外誰にも知られていなければ交流人口を増やすといっても無理な話である。
 情報が氾濫する社会においては、地域のことを知ってもらう、興味を持ってもらう、ということが、実は大変困難になっている。氾濫する情報の中から、ユーザーがその地域の情報を拾い上げる確率がますます低くなっている。検索エンジンで自社のホームページを検索上位に表示するためのSEO(検索エンジン最適化)サービスが成り立っていることを考えれば容易に理解できる。
 しかし、Web 2.0を有効に活用すれば、一地方や中山間地域がWeb Communityを通し、ダイレクトに世界の都市とつながることも可能である。
 そこで、官民それぞれが協働して、Web2.0を活用することにより新たなマーケットを創出することについて考えてみる。

3.「Web 2.0」を切り口とした官民協働(PPP)の創出について

(1)官民協働(PPP:Public Private Partnership)とは

 「官民協働」、「官民のパートナーシップ」という言葉が世の中に出回って久しいが、そもそもの始まりは、1979年、当時のサッチャー英首相の時代にまでさかのぼる。1970年代における経済活動の不振の強まりを解決するために、「イギリス経済の復活と小さな政府の実現」を公約として掲げサッチャーが英国首相に就任し、「市場原理」と「起業家精神」を重視し、政府の経済的介入を抑制する政策を取ったのが始まりである。我が国では2001年に当時の小泉内閣が閣議決定した骨太の方針より官民協働施策の推進が本格化し現在に至っている。
 そして官民協働の目的は、「財政の健全化」、「経済の活性化」、「公共サービスの質の向上」といったものが大半であり、既に様々な成功事例がある(参考:弊社PFI/PPP推進室)。

(2)Web 2.0を切り口とした官民協働とはどうあるべきか?

 これまでの官民協働は(1)で述べたように、民間の「市場原理」をパブリックな分野に導入し、財政の健全化や公共サービスの質の向上などを図るものであり、民間>公共といった構図があったように思える。しかし、「Web 2.0」に関しては、現時点で、民間=公共といった構図である。民間も公共もどのようにWeb 2.0を活用してよいのか分かっておらず、それぞれが研究を重ねている、というのが現状である。そうであれば、官民が協働して、まだぼんやりとしているWeb 2.0という大きなプラットフォームにチャレンジをすればよい。そこには、ユーザーが「共感」できるエンターテイメント性に満ちたコンテンツが価値を持つ非常に自由でクリエイティブな世界が拡がっているのである。
 また、Web 2.0時代におけるマーケット組成のプロセス論でも述べたように、マーケットが形成されるまでにはいくつかの段階があり、それまでWeb 2.0という公共的な大きなプラットフォームに投資を続ける経営体力がある民間企業は少ない。特に、技術力はあるがR&D投資資金が不足がちなベンチャー企業はなおさらである。図表2に示すように、段階ごとに公的資金と民間資金のバランスを変化させながら、官民協働で新たなマーケット構築を目指せばどうだろうか。上手く資金バランスが働けば、公的資金が新たな技術ベンチャーを産み出すベンチャーファンドともなりえるのである。そういった意味で、「Web 2.0」というテーマは、官民協働で取り組む意義があるのである。

(図表2)Web 2.0時代におけるマーケット組成における民間資金と・公的資金の投資比率
(図表2)Web 2.0時代におけるマーケット組成における民間資金と・公的資金の投資比率
出所:筆者作成


(3) Web 2.0を切り口とした官民協働事業創出プロセスについて

 官民協働でWeb 2.0の活用を考える場合、「Real:現実」と「Virtual:仮想」の2つの視点が不可欠である。
 現実のプラットフォームとしては、我々が現実に住んでいる「地域」があり、仮想プラットフォームとしては、「Web」がある。これらのプラットフォームを活性化(経済振興や更新性の追及など)するには、「地域」においては、活発なご近所さんやボランティア団体などのReal Network Community(RNC)を築き、「Web」においては、活発なSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)などのVirtual Network Community(VNC)を築く必要がある。
 そして、それぞれのプラットフォームにおいて活発なコミュニティを築くには、「エンターテイメント性」、「セキュリティー」、「共有」、「信頼」といった様々な要素が求められ、最終的により多くの「共感」を得るということが重要となる。その先に、活発なコミュニティを核としたまちづくりや地域活性化、マーケットの創造がある(図表3)。

(図表3)Web 2.0を切り口とした官民協働事業創出プロセス
(図表3)Web 2.0を切り口とした官民協働事業創出プロセス
出所:筆者作成


4.RNCとVNCの融合について

 Web 2.0を切り口とした官民協働の一つの重要な仕掛けは、RNCとVNCとの融合にある。その融合のためには、それぞれのプラットフォームで共有し育てるべき「種」が必要である。そのひとつが、地域に根付く、歴史や文化・伝統といった「地域資源」である。リアルなプラットフォームに存在する地域資源という種をWebのプラットフォームに植えつければ、貴重なコンテンツとして芽を出す。Webはグローバルネットワークである。地元ではあまり注目されなかった地域資源が、例えばアメリカやフランスではキラーコンテンツになりうるのである。現在、COOL JAPANというキーワードがあるように、アニメやオタク文化のみならず、日本の歴史や文化、精神性が世界で評価されており、これも追い風となっている。
 こうした地域資源に、ゲーム性、エンターテイメント性などを加え、ユーザーが興味を引くようなコンテンツにアレンジし、コミュニティ形成を図っていくべきではないだろうか。

 次稿では、官民協働での活発なコミュニティ形成の具体的な仕掛けについて述べることとしたい。
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