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コラム「研究員のココロ」

組織の慣性力と風土改革

2005年07月25日 大野 勝利


1.組織における慣性力

 「組織は戦略に従う」という有名なチャンドラーの言葉がある。
 この命題が常に真であれば、企業が戦略を示したとき、または、転換したとき、新たな戦略に基づいて組織が形成され、活動を開始するハズである。しかしながら、多くの企業において組織が戦略に追いついていない状況が発生している。
 この状況を説明できる要因は、企業毎に複数存在していると考えられるが、主要因の一つとして組織慣性力の影響が考えられる。
 慣性力。電車に乗っていて減速したときに身体が後ろに引っ張られるアレである。
 組織活動は日々継続しているもので、組織とは過去から未来に向けて走っている乗り物と看做すことができる。その走る方向を急に変えようとしても、今までの勢いがついている以上、簡単には方向転換できない。その組織に乗っかっている人の数が多く、かつ、それが長年乗っている人であればなおさらである。
 組織改変を行うときに、「XX部長が健在なうちはあの部署は統合できない」とか「いままで継続してきている承認ルートをあえて変えるのは混乱する」などという状況も組織慣性力の現れと見ることができる。

2.慣性力を弱めるもの

 組織をスピーディに変革し、戦略との適合度を高めた状態に持っていくためには、組織慣性力を弱める必要がある。
 慣性力を弱める方策として、大きく次の2点が考えられる。
  1. 組織内で影響力の大きい人を変える
     ここでの「変える」は文字通りのケース、つまり、「人の入れ替え」である。組織内で影響力を大きく行使している者が、その組織で数十年の経験を経ている場合、その個人の内にも慣性力が培われる。影響力の大きい人は過去から成功体験を積んできた者であることが多いため、一層自分を変え難い。人の意識を変えるより、人そのものを変えることが即時的効果を生むと考えられる所以である。
  2. 組織の形・制度を固定化しない
     会社組織の形や、人事制度を中心とする社員の行動を規定する諸制度を頻繁に変更する。職務遂行上の環境を常に変化させることにより、慣性力の形成そのものを弱める。もちろん、必要のない組織改変や人事制度改変を行うことは良くないが、例えば、開きポストや重層組織階層を放置せず、責任者の充足度を勘案して、組織の融合・分離をタイムリーに行う、社員への期待行動を示している人事評価制度の評価項目や着眼点を年毎に一部見直す、などの環境変化を継続的に実施することにより、社員の意識を常に揺さぶり続ける方法である。

3.そこで風土改革

 近年、社内風土の変革を期待されるコンサルティング依頼が多い。
 風土とは今まで述べてきた、組織における慣性力の現在状況であるとも言える。その観点で組織風土改革に取り組む場合、有効な対処法は以下の2点に収束される。
  1. マネージャー層の意識改革
  2. 社員の行動を規定する制度の見直し
一般的に、本邦企業ではGEの様に毎年多数のマネージャーを入れ替えるような運用を行うことは困難であるため、「意識改革」というやや時間のかかる方策を選択することが多い。また、社員の行動に大きく影響を及ぼす制度、人事評価やそれに基づく処遇決定運用の変革を行い、会社のスタンスが変わった事を社員に強く意識づけると共に、継続的に、柔軟な運用変更のできる枠組みに仕上げていく必要があるものと考える。
 ちなみに、所謂「下からの改革」は、こと風土改革を目的としたときには、私は否定的である。風土をどの方向に向けて改革していこうとするのかの組織内統一が困難であることと、“下”つまり、一般に若年層に比べ、より慣性力を強く内包している上位者、および、企業の制度的枠組みそのものが変革しない限り、下からの改革は潰されてしまう。

4.コンピテンシー利用の注意喚起

 コンピテンシーは、高業績者行動として継続的、反復的に示される能力であると定義でき、近年、多くの企業でその概念の利用が進んでいる。
 業績として標準水準、または、それ以下の社員に対し、高業績者の行動を示し業績を上げてもらおうとする試みは、その点では有効ではあるが、そもそもコンピテンシーは過去の行動を強く肯定し、その反復を奨励するものでもある。
 組織に強い慣性力を形成させる要因となる概念である。
 確かに、近年の高業績者行動を手本とすることは、今年、来年の業績アップのためには有効かもしれないが、組織は、戦略の転換、環境の変遷等に伴い常に柔軟な対応ができる状態に自ら保たなくてはならない。
 組織の風土改革をも重要な目的としつつ、コンピテンシーを社員の行動指針として利用する場合には、その内容を常にチェックし、制度的な揺さぶりを継続し、かつ、未来志向型の行動パターンを盛り込んでいく必要がある。

5.終わりに

 組織の慣性力と絡めて、組織風土改革の考え方について述べてきた。現実には、組織風土改革を方法論として展開していく場合、以上述べてきた改革を組織内のみで実行することは長い時間と強い抵抗が想定される。
 何でも自己評価と自己改革は難しい。
 その時、外部環境からの圧力、サポートは推進触媒として有効である。その組織での慣性力は無いといって良いからである。
 私も人事・組織をテーマとしたコンサルティングを業として担っている者として、外部環境からの圧力、サポートができる良い触媒であり続けられるよう、専門バカになることなく、好奇心と思考の柔軟性を大切にしていきたいと考えている。
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