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アジア・マンスリー 2009年5月号

【トピックス】
8%成長を目指す中国

2009年05月01日 佐野淳也


「全人代」で承認された景気刺激策の第一弾が本格始動した。積極財政に基づく多様な政策措置により、8%成長の確保に加え、民生向上や産業振興といった重要課題の解決を目指す。

■8%成長に向けた具体的な方策が明らかに
第11期全国人民代表大会第2回会議(以下、「全人代」)が3月に開催された。世界経済の悪化を機に、中国経済が減速傾向を強めていることから、政府がどのような景気対策を予算や経済計画に盛り込むのかという点に内外の関心は集中した。

3月5日に行われた「政府活動報告」をはじめとする経済関連の報告、さらには「全人代」期間中の政府高官の会見などでは、通年で「8%前後」の成長を目指す方針が繰り返し強調された。一部で期待されていた大規模な景気対策の追加発表はなかったものの、2008年11月以降公表された景気刺激策を執行する際の方針や具体的な取り組み方などが示された。とくに注目すべき事項は、以下の3点である。第1に、4兆元規模の景気刺激策における「真水」(政府による新規追加支出)の規模や用途配分変更の説明が行われたことである。

「真水」の規模について、温家宝首相は3月13日の温家宝首相の記者会見の際、中央政府拠出分の1.18兆元はすべて新規と明言した。また、低所得者向けの住宅建設プロジェクトには新規案件が含まれると述べる一方、幹線道路や鉄道などの重要インフラ整備のうち「一部の項目」は、第11次5カ年計画(2006年~2010年)に元々盛り込まれていたものと認めている。全額が「真水」なのか、あるいは既存のプロジェクトを集めたものかが曖昧であったことを勘案すれば、重要経済政策に関する情報開示の面で一歩前進したといえよう。用途配分については、重要インフラ整備向けの投資規模を当初の1兆8,000億元から1兆5,000億元に縮小し、その分を医療、衛生や低所得者層向け住宅建設など、民生向上に直結する分野に振り向ける方針が示された。

第2に、消費の拡大に向けた取り組みの提示である。内需の中でも消費、とくに個人消費の拡大を図る方針が「政府活動報告」等で明記された。この方針に基づき、「家電下郷」や「汽車下郷」など、具体策の推進を公約している。前者は農村部での家電、後者は同じく農村部での自動車及びバイクの普及を目的に、購入価格の一部を財政資金で補助するプロジェクトである。農機具購入への補助金助成措置と合わせて、中央政府が400億元を拠出すると明言しており、その成果が注目される施策といえよう。なお、「家電下郷」は2月から全農村で行われているが、①購入台数制限の緩和(1台→2台)、②補助金対象品目の拡大(パソコン、電子レンジなど)といった追加策も順次講じられている。

第3に、8%成長を達成するための財政・金融政策が明確になったことである。歳出面では、中央政府の公共投資支出を前年比4,875億元増の9,080億元とするなど、重点項目への支出を大幅に増やしている。歳入面では、増値税の控除見直しや輸出還付率の引き上げ、100項目の費用徴収の廃止等を通じて、企業及び個人の負担を約5,000億元軽減させる予算を編成した。その結果、2009年の地方を含めた財政赤字は、過去最大の9,500億元となる見通しであるが、全額を国債発行(うち、2,000億元は地方債の代理発行)で賄い、8%成長に万全を期す構えである。金融政策でも、2009年の新規貸出を5兆元以上増やす目標を掲げるなど、景気を下支えする方針が打ち出された。

■産業振興策等に込められた政府の意図
景気回復以外の政策課題の解決に向けた取り組みにおいても、8%成長の実現につなげようとする中国政府の意図がうかがえる。

例えば、民生の向上や社会の安定確保に加え、消費の持続的拡大という観点から、胡錦濤政権は発足当初より社会保障制度の拡充を推進してきた。これに対し、2009年の国民経済・社会発展計画では、生活困窮層への補助金を増額し、消費行動を妨げる心理的要因を除去することで足元の支出を増やすとの方針が明記された。政策を総動員して景気回復に取り組んでいることをアピールするため、政府は社会保障政策と短期的な消費拡大の連関性をあえて強調したと思われる。

また、1月から2月にかけて、主要10産業の産業調整・振興策が公表された。3月中旬以降は、同施策の2009年~2011年までの具体的な行動計画も順次公表されている(右下表)。一連の産業政策では、需要拡大への取り組み要請にとどまらず、増値税の輸出還付率引き上げ(繊維)や関連税制の軽減(自動車)などの景気対策も提示されている。船舶買い替え促進策の検討や前年を上回る自動車販売目標の設定など、景況感の好転を図る目的とみられる項目もある。他方、大企業グループへの集約奨励、過剰生産設備の廃棄といった取り組みも一部の産業では打ち出された。胡錦濤政権は、短期的な目的(景気回復)と長期的な課題(地場企業の競争力強化など)の両方の解決を目指していると考えられる。

■景気刺激策の今後の進展と直面する課題
「全人代」で承認された上記の景気刺激策が本格的に動き出す過程では、いくつかの課題が想定される。とりわけ、消費刺激策については、家電などを購入した農民の口座に、いかに迅速に補助金が振り込まれるかが成否の鍵となろう。さらに、2009年は補助金の8割(一部地域は全額負担)を負担する中央財政から400億元が拠出されるが、これを大きく上回る補助金申請が出された場合の対処方法は、依然曖昧である。追加措置の規模や時期の検討も大切なことではあるが、第一弾の適切な執行と問題点の除去はそれ以上に重要であろう。
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