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Business & Economic Review 2008年11月号

【STUDIES】
新たな金融仲介者として注目されるプライベート・エクイティ・ファンド

2008年10月25日 調査部 金融ビジネス調査グループ 主任研究員 野村敦子


要約

  1. わが国では1990年代後半に金融危機が深刻化し、企業の経営破綻が多発するなか、企業再生の担い手として、投資ファンドの存在が注目されるようになった。投資ファンドは、投資信託、ヘッジファンド、アクティビストファンドなど、投資対象や手法により幾つかの種類に分類することができる。
    そのうちプライベート・エクイティ・ファンド(Private Equity Fund:PEファンド)は、主に非上場・非公開企業を投資対象として、長期的な戦略に基づき買収し、企業価値を向上させたうえで上場・売却等を行い、収益を得ることを目的としている。

    一般的に、PEファンドはファンドの運営・管理等を行うジェネラルパートナー(GP・無限責任組合員)、ならびに機関投資家等の出資者であるリミテッドパートナー(LP・有限責任組合員)から構成される。GPは、通常、PE専門の投資会社であるPEファームが担う。PEファームの活動は、a.投資先企業の選定と評価、b.投資方法の決定、c.投資のモニタリング、d.投資の回収(EXIT)、の四つの段階に大別することができる。

    PEファンドの規模は年々増大しており、2007年におけるPEファンドを含む投資ファンドの取引総額(REITやヘッジファンドを除く、Thomson Financialのデータ)は8,000億ドルを超えている。

  2. わが国における本格的なPEファンドの活動は、90年代後半の金融機関の不良債権問題に端を発した事業再生の取り組みが最初である。初期に登場した不良債権ファンドは、債権を安く買って短期間で高く売り抜けたことから「はげたかファンド」と揶揄された。その次の段階として、経営破綻企業を買収して事業価値を高め、株式や事業を売却するなどにより利益を得ることに着目した事業再生ファンドが登場した。これらのファンドは、大手金融機関や大手企業の再建で世間の耳目を集めた。
    こうした事業再生の取り組みと連動する形で、わが国ではM&Aにかかる法制度の整備が進められ、PEファンドにとっても投資を行いやすい環境が整えられつつある。具体的には、97年の独占禁止法改正による純粋持株会社設立の解禁、99年の商法改正による株式交換・株式移転制度の導入、2000年の商法改正ならびに2005年の会社法制定により導入された会社分割制度などである。こうした制度整備の結果、わが国におけるM&Aの件数は増加基調にある。

  3. 海外に目を転じてみると、PEファンドは欧米では、すでに銀行や証券会社等既存の金融機関と並ぶ金融仲介の担い手として一定の地位を確保している。アメリカにおける組織的なPE投資(ベンチャーキャピタルを含む)は、1946年のARD(American Research and Development Corporation)の設立に起源を遡るといわれる。その後、1958年の中小企業投資法の制定によるSBIC(中小企業投資会社)の設立、70年代後半の新興企業向け投資促進のための制度整備などを経て、80年代に入って非ベンチャー企業向けに投資を行うPEファンドが台頭するようになった。その背景には、年金基金等機関投資家からの資金流入が拡大したことがある。しかし、敵対的買収や大規模なレイオフを伴う手法は年金基金等の機関投資家から敬遠されるようになり、90年代半ば以降、PEファンドは成長の可能性を有する企業を買収して経営の改善や企業価値の向上を目指すことを投資戦略の中心に据えるようになった。

  4. 欧米の金融ビジネス界において、PEファンドは、「資金供給の担い手」ならびに「投資対象」としてその存在感を高めている。資金供給面では、銀行等既存の金融機関からの資金調達が難しい企業にとって、重要な資金供給源となっている。加えて、PEファンドの有する情報網やグローバル・ネットワーク、ガバナンス機能、コンサルティング機能など非金融面の機能は、企業価値の向上に寄与している。一方、投資対象としても「オルタナティブ投資」の一つとして、投資家のニーズの多様化に応えている。既存の金融機関にとっても、PEファンド関連ビジネスは新たな収益源としてとして重要性を増している。
    このように活動範囲を拡大し、影響力を増しているPEファンドに対して、経済的な効果を認め評価する声もある一方で、「秘密主義」、「税金逃れ」などといった批判も依然として多い。アメリカやイギリスの規制監督当局は、PEファンドを含む投資ファンドのリスクの把握や規制の在り方について検討を行っている。PE業界の側でも、業界団体を設立してPR活動やロビー活動を行ったり、情報開示を促進するためのガイドラインを策定するなど、社会的認知度向上のための取り組みを進めている。

  5. 欧米の動向を参考に、わが国においてもPEファンドの資金や機能を積極的に活用し、資金の流れ
    の円滑化や企業経営の合理化・効率化、産業再編などを進め、わが国経済の持続的成長へと繋げていく必要があると考えられる。PEファンドには、金融的な側面では、a.資金供給、b.資産運用の多様化、非金融的な側面では、c.企業価値の向上とガバナンスの強化、d.産業の効率的な再編といった効果が期待される。このようなPEファンドの効果を踏まえ、a.大企業の事業再編、b.企業のグローバル展開、c.中小企業金融(事業承継、事業・組織・資本の再構築、業界再編等)、d.地域金融(地域経済の再生、活性化)にPEファンドの機能を積極的に活用していくことが考えられる。

    ただし、わが国でPEファンドが定着するためには課題もある。具体的には、a.専門家や経営者などの人材不足、b.ファンドに対する企業の心理的抵抗感、c.EXIT(出口戦略)の環境整備、d.利益相反問題、e.制度(M&A法制、税制)の不確実性の問題などが挙げられる。

  6. 金融機関とPEファンドとの関係については、近年、わが国でもその活動が広がるにつれ、協調す
    る場面が増加している。金融機関にとってPEファンドとのビジネスは、LBOローンの貸出やM&Aのアドバイザー手数料などで収入が得られるばかりでなく、PEファンドの機能を活用して取引先企業の企業価値を向上させることにより、将来的な収益基盤の増強にも繋げることができる。

    わが国ではPEファンドの活動の歴史はまだ浅く、社会的にも十分な理解が進んでいるとは言い難い。PEファンドの活動をわが国で定着させていくためには、提示した課題の解決とともに、既存の金融機関の機能を補完・補強する存在として、着実に実績を積み重ねていくことが求められよう。
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